小泉進次郎は本当に年金受給を80歳から、なんて事を言ったのか？

先日、話題の渦中、小泉進次郎氏に関するこんな話が目に入った。

『小泉進次郎　年金80歳』

言葉のインパクトに誘われてXのトピックを開いてみると、
出るわ出るわ進次郎氏に対する罵詈雑言。
トピックの字面を『氏が年金の受給開始年齢を80歳まで吊り上げる方策を予定している』と読んだ人達の怒りでタイムラインは満ちていた。

実はこの話がXのトレンドに上がる少し前、
或る記者が失礼な質問を進次郎氏に投げかけた際の対応に、氏の人物的評価は上がったばかりの事だった。
この氏に関する話題の温度差に風邪を引くかと思う程だったが、タイムラインを掻き分けてみるとどうやら内容は2018年の発言に起因するものらしかった。今は2024年である。随分昔の話を持ち出したものだ、と思った。

しかしふとこうも思った。
過去の政治から、年金受給年齢の引き上げに非難の声が上がるのは判り切った事である。それを総理の席に座る前に声を大にして言うものだろうか、と。本当に総理の座を狙っているなら寧ろ人心を掴む為に（無理を承知で）逆政策を公約に掲げそうなところ、いくら世間でここに書くのが憚（はばか）られる悪評が流れている進次郎氏とは言え、本当にそんな事を言ったのだろうか？

調べた。
言葉の全ては小泉進次郎氏の2018年の発言、詳細は公式サイト内活動報告、
「【講演書き起こし】平成のうちにやるべきこと〜人生100年時代の社会保障と国会改革〜」
にある。

全文に目を通したが文量が恐らく6000～9000字程に及ぶ為、要点だけ割愛して説明させて頂く。
今回の論争になった点を正確に洗い出すならば、氏は以下のように発言している。

「我々は、受給開始年齢は80歳でもいいのではないかと考えている。60歳～80歳までの間であれば、受給開始年齢は自分たちで決められるという考え方である。（原文まま）」

要するに、

「年金の支給開始を80歳からにするのではなくて、60～80歳の間のどこでも選べるようにしたいですよ」

という話である。決して80歳を超えないと年金がもらえないという話ではない。

なぜ進次郎氏がこう発言しているのかだが、
現状(2024年)国民年金の支給開始年齢は65歳、厚生年金は60歳～75歳の間に受給開始年齢が決められる。(人によって開始年齢制限に差異が生じ、どの開始年齢でも同額が得られる訳ではない。詳細は各人調べられたし)ここで問題になってくるのが『在職老齢年金制度』というものである。ややこしい漢字ばかりの文章で大変申し訳ない、暫くお付き合い願いたい。

この制度は、

「年金を貰いながら働く場合、ある月の厚生年金額と給与・賞与（直近1年間の賞与の1/12）の総額が50万を超えると年金を減額しちゃうよ」

という残酷なものである。要するに受給選択の最終年齢の75を超えて働くと場合によって貰える年金がカットされる可能性が出てきてしまう。

「そんなに働き続けたくねーよバカ！」

と思う方が大半だとは思うが世の中面白いもので、
私自身「こんなヨボヨボのジイさんがまだ働いてんのか！？」と思う仕事現場を幾つか見た事がある。当人はとっくに退職したいだろうに人員の関係から望まれて、または引き留められ、あるいは必要に駆られ、もう仕事の準備より墓の準備をした方が良さそうなご老人が未だに現場に立つケースが世の中にはあるのだ。私が以前地方でお世話になった精神科の先生は立ち居するだけでも大変そうだった。

御老人達もきっと会社の為、世の中の為と思って働いて下さっているのに、
「アンタは75歳超えてて制度にひっかかるから年金減らすね！」
とはいかにも酷い話ではないか。それこそ働くのが馬鹿らしい。

進次郎氏の講演に話を戻すが、
氏は少子高齢化が進む現代の話から、働き方の多様化、高齢でも働き続けられる世の中の話に流し、その話の通過点に出てきたのが今回の論点だった。

決して80歳にならないと年金がもらえない、という話ではない。高齢でも労働が求められる人材が年金を少しでも削られないように、という提案だったようだ。

私は政治には疎いのでこの年金問題の最善手がどういうものかは判らない。
ただ昨今世間を騒がす転売ヤーが醜悪とされるのならば、手に入れた言葉を都合よく切り貼りして世間に誤認を転送する輩も同様に醜悪なのではないか。

最後に、私は別に政治家の誰に肩入れする訳でもない。
私は字書きの本分として「読み」「調べ」「書き」をしただけである。

ただ「物語書き」と名乗っている身としては、
多少領分を越えたとは思っているので、
その点は何卒御容赦願いたい。

私はただ言葉を愛する者。
今回はただ疑問に思った事を調べて書いただけ。

ここまでの読了有難う御座いました。