27.01 三角関数(準備①弧度法と扇形)
導入
三角関数の準備なのに弧度法は結構高いハードルです。弧度法は角の大きさの表し方の一つなのですが、小学3,4年生以来用いてきた角度が思考の邪魔をするのです。
「なぜこれまでの角度はダメなの?」
という素朴な質問に答えるには高校数学Ⅲの微分まで学ぶ必要があります。ここで言えることは、これまでの角度は図形に内在しているものではなく、365日 (約360日) で地球が太陽を一周する外的要因から作られたものです。一方の弧度法は図形に内在しているものなので数学的には有難いのです。
これまでの角の測り方は度数法と呼ばれます。1周を360等分したのを1度と決めているので、だいたい1日で太陽の周りを移動する角の大きさに相当します。
一方の弧度法はアナログ時計を見ていると思いつくであろう測り方で、円弧の長さを利用して角の大きさを決めるのです。
※ 弧度法の理解があいまいのまま三角関数に突入するのは、掛け算九九があいまいのまま分数計算をするようなものです。
弧度法
すべての円は相似です。そこで、円の半径と等しい長さを円上に取り、この円弧に対する中心角を1弧度(1ラジアン)と定義します。円弧と中心角は比例するので(下の13.3を参照)、円弧が半径の θ倍 なら中心角は θラジアン です。
※ 弧度よりラジアンが使われ、ラジアンは英語で radian [réidiən] 、弧度のことです。
この定義で理解できれば相当優秀です。ここからしばらくは定義の説明なので、理解できた人は先(問題1)に進んでください。
弧度法を理解するための説明
さて質問です。上図の∠AOBと∠PCQの大きさを定義に従って 1ラジアン と書いていますが、この2つの角が等しい理由を説明してください。
説明 角が等しいことをいうには何を示せばよいでしょうか。
扇形OABと扇形CPQが相似であることが分かる人はこれが理由です。
これで納得できない場合は次の説明になります。
∠AOBと∠PCQの円周に対する割合をそれぞれ求めてみると
円Oの円周は$${2\pi}$$なので、∠AOBの割合は$${\dfrac{1}{\:2\pi\:}}$$です。
円Cの円周は$${2\pi r}$$なので、∠PCQの割合は$${\dfrac{r}{\:2\pi r\:}=\dfrac{1}{\:2\pi\:}}$$です。
だから ∠AOB=∠PCQ となります。▮
【基礎知識】 円の長さ(円周の長さ)=直径×円周率 ($${\pi}$$) (※1)
これによって判ったことは、半径の大きさに関係なく1ラジアンが定義できるということです。半径が5なら円弧の長さ5に対する中心角が1ラジアンとなります。この理解で正しいのですが実用的ではありません。半径が5で2ラジアンのとき、角の大きさが見当つきますか。このように使い勝手がよくありません。
次のように考えると分かりやすくなります。
弧度法で角の大きさが表現されたら、半径1の円の円弧の長さに対する中心角が角の大きさです。
例えば、2ラジアンであれば半径1の円上に2の長さの円弧を取り、これに対する中心角が2ラジアンです。
θラジアンであれば半径1の円上にθの長さの円弧を取り、これに対する中心角がθラジアンです。
問題1 弧度 θ の取り得る値の範囲をいえ。
答え $${0 \leqq \theta \leqq 2\pi}$$
理由(定義にしたがった説明)
半径rの円であれば、円の長さは$${2\pi r}$$なので円弧$${l}$$の取り得る値の範囲は$${0 \leqq l \leqq 2\pi r}$$です。したがって中心角の取り得る値の範囲は半径rで割って
$${\dfrac{0}{\:r\:} \leqq \dfrac{l}{\:r\:} \leqq \dfrac{\:2\pi r\:}{r}}$$.
したがって弧度 θ の範囲は
$${0 \leqq \theta \leqq 2\pi}$$. ▮
理由(半径1の円で考えた説明)
半径1の円であれば、円の長さは$${2\pi}$$なので円弧$${l}$$の取り得る値の範囲は$${0 \leqq l \leqq 2\pi}$$で、中心角も$${0 \leqq \theta \leqq 2\pi}$$. ▮
※これでも分かるように、弧度は半径1の円で考える方がよいのです。
私の知るかぎり、専門書は半径1で弧度法を説明しています。
過去に『数学雑談』で弧度法の話を書いているので下線をクリックしてみてください。
注意
弧度法で角の大きさを表すとき、単位のラジアンは最初のうちだけで大抵は省略されます。
「単位を省略すると分からないんじゃないの?」
と思うかもしれませんが、無い方が便利なのです。気づいた人もいると思いますが、半径1の円で考えていると円弧の長さと角の大きさは単位が異なるだけで一致していますね。なので弧度法で表された角の大きさは、中心角の大きさと読み取ってもよいし、半径1の円の円弧の長さと読み取ってもよいのです。都合のよい方に読み取れるのだから単位は無くていいのです。
よく使う弧度
1周の角の大きさ・・・$${2\pi}$$ 半周の角の大きさ・・・$${\pi}$$
直角の角の大きさ・・・$${\dfrac{\:\pi\:}{2}}$$ 直角の半分の角の大きさ・・・$${\dfrac{\:\pi\:}{4}}$$
半周の3等分の角の大きさ・・・$${\dfrac{\:\pi\:}{3}}$$ 左記の角の半分の大きさ・・・$${\dfrac{\:\pi\:}{6}}$$
注1:暗記が好きなら暗記をしてください。
暗記が嫌いなら半径1の円を描き、その横に円の長さを書き入れ
円を半分にします。これを半分、半分すれば $${\dfrac{\:\pi\:}{2}}$$, $${\dfrac{\:\pi\:}{4}}$$.
三等分、3等分の半分 (6等分) すれば $${\dfrac{\:\pi\:}{3}}$$, $${\dfrac{\:\pi\:}{6}}$$ を得ます。
毎回下図のようにすれば角の大きさの感覚が自然と身に着けられます。
どうしても度数法で表したい
度数法を弧度法に換算したいなら次の要領で出来ます。
例1 $${\frac{\:2\pi\:}{3}}$$を度数法で表す方法
弧度法の1周の角は$${2\pi}$$、度数法の1周の角は360°だから
360°:$${2\pi}$$=$${x}$$:$${\dfrac{\:2\pi\:}{3}}$$
と比例式を立てて解けばよい。解くと $${x}$$=120°.
例2 135°を弧度法で表す方法
上と同じように
360°:$${2\pi}$$=135°:$${x}$$
と比例式を立てて解けばよい。解くと $${x=\dfrac{\:3\pi\:}{4}}$$.
※弧度法を理解すればこのように解けます。なお三角関数の話の中で度数法は出てきません。弧度法を知らない人に度数法で伝えるのには意味がありますが、自分で使うならいちいち換算しません。
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