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【公立学校教員、南極へ行く⑦】南極に向かう準備
さて、2023年6月末に正式に南極観測隊同行者となった私ですが、勤務校の先生方や生徒にもそのことを伝えたところ、「さすがぶっ飛んでますね!」と最上級のお褒めの言葉をいただきました。ありがたいことに、地元新聞に南極派遣に関する記事が掲載された日から仲良くしている島民の方に「南極おめでとう!頑張って!」と声をかけていただいたり、県内在住のおじいさんから激励の手紙をいただいたり、博物館の学芸員の方から南極展の協力依頼をいただいたりするという出来事が続きました。スーパーで買い物をしていると「いや、ほんと、頑張ってよ!楽しみにしているよ!」と全く知らないおばちゃんに後ろから強めに肩を叩かれるという衝撃的な出来事もありました。生徒の挑戦する姿を見て私の心が動いたように、私の南極挑戦が、周りの方々にポジティブな影響を与えていたことが本当に嬉しかったですね。
夏訓練&打ち合わせ
2023年9月26日、観測隊打ち合わせに参加するため、東京立川市の国立極地研究所に行きました。6月中旬に行われた夏訓練、7月に立川市で、8月にオンラインで実施された観測隊打ち合わせが行われました。これで東京に来るのも3回目となります。
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夏訓練&打ち合わせでは、救命救急講習、観測チームや設営チームの活動案や計画、全体のスケジュール、持ち物、昭和基地でのルールやマナーなどが詳細に説明されました。印象的だったのは説明の中で使われていた「仲間に対して尊敬を持ち続ける」「極域では、少しのことが命取りになる」という言葉です。南極昭和基地では100人程度の限られた人間関係で数ヶ月を過ごします。お互いのことがわかっていなかったり、基本的なルール、マナーが共有できていなかったりするとトラブルになります。気が合わない人がいる場合、日本では距離をとって関わらないようにすればよいかもしれませんが、南極ではそういう訳には行きません。それぞれのMissionを持ち、南極に挑戦する観測隊の仲間を大切にすること、そして自分勝手な行動をせず、常に自然に注意し行動することが大切なのだと改めて感じました。
南極に向けた装備品とパッキング
私たち観測隊同行者は、日常的に使う服や下着などは実費なのですが、南極で使う装備品は、国立極地研究所から貸与&寄附してもらえます。高額なものが多いので本当にありがたかったです。9月の打ち合わせ会では、大型段ボール一箱と、今まで見たこともないリュックを渡されて、リストの通りに装備品が入っているかどうかを確認しました。一つ一つの装備品には、修理痕や、クリーニング後の独特な匂いが残っていて「観測隊の先輩達からのバトンを引き継いで、いよいよ出発するのだなぁ」と実感しました。
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その後は、観測隊の方々が所属する企業から記念品をいただきました。いすゞさん、ミサワホームさん、飛島建設さんヤンマーさんなどの企業からは、記念タオル、帽子、ポロシャツを。お魚チーム、波浪・船舶チームなどの研究チームからはステッカーをいただきました。中でも面白かったのが、気象庁からいただいた「南極観測チュウ ハイチュウ」です。こうした観測隊の方々のユーモアは南極の厳しい生活でも心を癒してくれました。
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いよいよ出国まで1ヶ月という10月中旬。訓練や打ち合わせ会などはなかったのですが、この頃は南極に向けたパッキングをずっと行っていました。私たちが持ち込みを許されているのはダンボール5箱で、この5箱の中に、ヘルメットや防寒着などの装備品、日常生活のための衣類、チョコレートやスナック(じゃがりことピザポテトは必須)、南極授業のための教材などを詰め込まなければいけません。しかも今回のパッキングは失敗が許されません。行く場所は南極なので、「忘れた!まぁ買えばいっか。」が通じないんですよね。そのため、必要なものを書き出しては、広島市や東広島市などの都会へ行き物品を購入し、「これが足りない!」となったらAmazon、楽天で注文するというサイクルを3回くらい繰り返しました。結果、交通費はめちゃくちゃかかったし、クロネコヤマト、佐川急便、郵便局の方々には、何度も配達していただくという、大変迷惑をかけた1ヶ月となりました。
荷物が揃ってそれで終了とはならなくて、そこからは、装備品1つ1つに自分の目印となるタグを貼り付ける作業があります。装備品は貸与なので、観測隊の全員が同じ色のヘルメットや防寒着を持っていくので「どっちが俺の防寒着だっけ?」とならないように一目見て自分の目印が必要と言われました。さらに南極地域では、ゴミを出さないことも大切なので、不必要な梱包は全て家で剥ぎ取りました。向かう先は、コンビニもスーパーもない南極。おそらくこんなに慎重かつ丁寧に行うパッキングはもう二度とないでしょうね。