読書日記(20240327)「フェミニズムってなんですか(清水晶子)」
1.わたしは「フェミニズム」がなんか嫌い。でも・・・
「フェミニズム」「フェミニスト」という言葉が苦手だった。
この言葉に対する私の脊髄反射はこうだ。10代からそうだったし、30代までそうだ。許してください。ステレオタイプにもほどがあるが、わたしが言葉を選ばず思っていたニュアンスは下記だ。
「とにかく女性の権利を主張しまくる強そうな女性」
「男性が好む女性の動きをする(例:従属する&媚びる)要素がチラリとあると、その女性をも非難する」
「専業主婦および、子育てのために仕事をセーブする女性を否定」し、「男性と同等のポジションを狙うことを諦めるな」
と強く発信する人たち(=フェミニスト)で、その人たちを支える考え方が「フェミニズム」だと思っていた。そんな私の激しく偏った「フェミニズム」観を、しなやかに、優しく、ただ、がっつり頭をかち割ってくれた良書がこの本だ。
というわけで、個人的には「フェミニズムってなんだか嫌だよね」と避けていた私のような人にこそ読んでほしい。(なかなか難しいと思うけど)
そして、その偏見の一歩深くを潜ってほしい。
2.読んだきっかけ
手に取ったきっかけは、ブラブラとXを眺めていたことだ。
「フェミニスト」「フェミニズム」が嫌い ということを、匿名だからだと思うが、ものすごくキッパリ、あっけらかん。と書いている人たちの多さに驚いた。
しかも、賛同を非常に集めている。
彼ら・彼女らの投稿を見ると、それはさきほど書いたような私の偏見が、いろんな表現で書かれている。共通しているのが、激しく短絡的(140文字の制限もある)で、感情的かつ、ポジショントークだ。
SNSって男尊女卑の世界なのか。
なんかゴリゴリ発信して戦うフェミニストが苦手、な私。
しかし、「女性は男性にぶら下がりたいものだ」「パートなんてお気楽な仕事と家事や育児なんて楽勝」といった発信とともに、「フェミが嫌い」というステレオタイプな発信のオンパレードに思い切り、「カチン!」ときたのだ。
そこで、ふと気づいた。私もおんなじ偏見のカタマリじゃないか。
そもそも、「フェミニズム」ってなんで私、苦手だったんだろう。
というか、「フェミニズム」の定義、ちゃんと知ってたかな。
何か本ないかしら。
調べたらありました。タイトルそのままだ。
「フェミニズムってなんですか」。
https://amzn.asia/d/gpRA4i4
すばらしい! そして、私が読むまでの前置き、長すぎる。
2.私がうれしかったポイント〜モヤモヤに応えてくれた
「フェミニズム」「フェミニスト」へのモヤモヤ、イライラ、疑問 といった私の「でも、フェミってこうじゃないか」 という反論に応えてくれたことだ。しかも、否定せず。
本に教えてもらった、私の主なモヤモヤの一例はこうだ(他にもいっぱいあるんだけど、ぜひ読んでほしい)
フェミニズムって「とにかく女性の権利を訴える人たち」でしょう?
フェミニズムは何をすべきか、について、そもそもフェミニストたちのなかでも一致していない。
フェミニズムとは、女性たちの尊厳や権利や安全を軽んじる文化を変革し、女性たちの生の可能性を広げようとするもの。そのためにフェミニズムが何をすべきか、それは、私たちもわからない。やってみよう。(アミア・スリニヴァサン オックスフォード大教授)
フェミニズムって、男性に比べて女性が低い扱いをされている場合に戦うのでしょう?
フェミニズムの目標は、個人ではなく社会/文化/制度を変えること=すごくわかりやすい例だと、家事・育児の分担をしてくれない「個人のパートナー」を対象に責めるのではなく、社会/文化/制度に目を向ける
フェミニストっぽい人たちは、「女性が家族のフォローより(多くの男性のように)社会でリーダーになるよう頑張れ」と発信し、「頑張らない女性」を否定するよね?
フェミニズムはすべての女性たちのもの。人種/民族/育ってきた国をはじめ、女性たちが切実に悩むポイントは人によって異なる。
「私にとっての利益が、他の人にとっての利益とは限らない」
「ワタシの経験=女性の経験」ではない「公的領域」(例:会社で金を稼ぐ・政治参加)と「私的領域」(例:家庭を守る)は、本来切り離せないもの。
一方で、女性たちの苦しみは、「公的領域は男性(結果、外からカネを稼ぐ)」「私的領域は女性(家を支える・子どもを産み育てる)」という切り分け(分業)から生まれていた。
そのため、当初、「公的領域」でのポジションをとっていくこと(声を上げる)がスタートだった。1と2の過程のなかで、確かにフェミニストたちのなかでも、たとえば男性に従属的な振る舞いをする女性と対立したり、時に攻撃することはあった
当たり前といえば、当たり前なのだけど、「女性」という人口の約半分をひとくくりにすることなどできない。そこで、「フェミニストって嫌い」ということ自体が、乱暴な話だし、「女性(男性)って損だ」ということもナンセンスだ。
私がこの本で清水先生のファンになった理由は、こういった「モヤモヤ(偏見)」を持つことを本を通して、否定しない、というスタンスをとってくださったからだと感じる(と受け止めた)。
すべての偏見や疑問は、実は大きな問いをはらんでいる。立ち止まるとわかりやすい正解などない。むしろ、正解がないから苦しい。
今、意思決定や判断はスピードや正解が求められるけど、多くの決め事はその瞬間の「51対49」くらいのグラデーションで決められているものなんだろう。
この「フェミニズムってなんですか?」はそういった「分かりやすい言葉」になってしまった「フェミニズム(あるいはフェミニスト)」という言葉を1冊かけて説明してくれている良書だ。
なかなか難しいと思うけど、「自分は女は権利ばっかり主張する」「結局、仕事では女って不利だ」など心のどこかで思う人(ちなみに後者は私です)にこそ、手にとって読んでほしい。生きやすくなるのではないだろうか。
追記)
清水晶子先生は、東京大学でフェミニズムとクィア理論を研究されています。
そこで学術論文ぽい何かを想定される方もいそうだが、この本は新書かつ、もとはVOGUEで連載されていたそう。そのためなのか、少なくとも私にはわかりやすく平易に読めました。