なんていう口説き文句が相手に届いた時代はあったのだろうか。
こちらは「死にます」という男をからかうような言葉遣い。「逢ふには何を」なんて言うから全く逢わないつもりも無さそうだ。楽しそうに恋愛をしてらっしゃる。
次はもっと辛辣だ。
こちらの女性にはしびれる。「死んでやる!」に「さっさと死ね」と返す女性。ほぼLINEのノリである。
この855番の女性の返答をもう少し雅びにしたようなやりとりが『伊勢物語』105段にある。
「白露」は命を表す定番の比喩。それについて「消ななむ」すなわち「消えてしまうがいい」というのは「死んでしまえ」と同義だ。そこまでは『後撰和歌集』855番の女性と同じである。しかし『伊勢物語』の女性はもう一歩踏み込む。「玉にぬくべき人もあらじを」と。つまり自分はもちろんのこと自分以外の女性にもお前を相手にする者などいないのだと言い切っている。
僕なら心が折れそうだ。だけど『伊勢物語』の男は違う。彼は女性の態度を無礼に思いながらもますます恋する気持ちをつのらせたのだ。
恋愛上級者にも程がある。サンジかよ。