丸山眞男「超国家主義の論理と心理」まとめ

丸山眞男の「超国家主義の論理と心理」をざっくりとまとめてみた。


○超国家主義の思想構造
・ドイツ:世界観的体系を持つ
    「我が闘争」

・日本:概念的組織、明白な理論体系を持たない
   「八紘為宇」(叫喚的なスローガン)


○ナショナリズムと超国家主義
・共通点
 帝国主義、軍国主義

・相違点
 武力的膨張の衝動の強度、露骨さ
 対外膨張、対内抑圧の精神的起動力の質

・欧州近代国家…内容的価値(真理や道徳)に中立
        的な立場を取る中性国家
  公的:国家主権の基礎は形式的な法機構
  私的: 価値の選択判断は他の社会集団(教会)
  支配根拠:内容的正当性から外面的正当性へ
      (王権神授説から公的秩序の保持)

・日本…中立は表明せず(自由民権論者は外部的
    活動範囲の闘争のみ)
  公的:国家主権の基礎は内容的価値の実体
  私的:存在せず(明治維新で権威と権力を一体
    化したため)
  支配根拠:内面的正当性
 →日本国家が論理的実体として価値内容の独占
  的決定者に


○国家のみが価値の決定者になると
・いかなる精神領域にも浸透する
 →私事が国家的なものと合一化してしまう

・正当性への基準を国家自らが持つ
 →大義と国家活動が同時に存在してしまう

・倫理が内面化せず権力化する
 →倫理と権力が交錯し、中和して互いに中途
  半端になってしまう
  (マキャベリズムも理想主義も存在しない)


○大日本帝国式権力の特徴
・俘虜との関係
 ドイツ:心理的に強い自我意識に基づく支配
     自由なる主体↔︎モノ    
 日本:国家権力との合一化に基づく支配
    天皇に近い↔︎遠い

・優越的地位とは
 究極的価値への相対的な近接度
 =国家を動かす精神的起動力

・治者の意識の差
 中性国家
  価値基準:社会的職能
  行為の制約:合法性
  法とは:皆を制約する抽象的一般者
  モラル:法意識、罪の意識、公僕観念が規定
  職の矜持:横の分業意識

 日本
  価値基準:天皇への距離
  行為の制約:優越的地位の存在
  法とは:天皇頂点の具体的支配の手段
  モラル:具体感覚的な天皇への親近感が規定
  職の矜持:縦の天皇直属の意識


○セクショナリズムの病理的現象
・戦時中のセクショナリズム
 治者の地位的優越、価値的優越意識が原因

・日本のセクショナリズムの特徴
 封建的割拠的性質
  自足的閉鎖的世界にたてこもる
 活動的かつ侵略的性質
  自己を究極的実体に合一化しようとする


○戦時中の独裁体制
・存在しない独裁観念
 無規定な個人の不在
  本来:独裁観念には自由な主体的意識が必要
  現実:支配の根拠が天皇からの距離に比例
    (価値の漸次的稀薄化)
    →人々は規定され他方を規定する関係
 主体的責任の欠如
  本来:意識としての独裁は責任の自覚を伴う
  現実:寡頭勢力が
    ①被規定意識の個人により成り立つ
    ②究極的権力にならず天皇に依存
    ③各々天皇への近接を主張して併存
    →指導者は無自覚かつ無意識

・圧迫の移譲原理
 独裁観念の代わり
  精神的均衡を保持
 全体のバランスを維持
  上からの圧迫感を下への恣意の発揮によって
  順次に移譲する
 封建社会での権力偏重の遺産
  例:戦時中の一般兵の蛮行


○天皇の存在
・天皇は主体的自由の所有者か?
 西洋君主:中世自然法の制約から解放
    →秩序の作為者へ
    →自由なる人格
 日本天皇:明治維新で神武創業の古へと復帰
    →無よりの価値の創造者とならない
    →自由ではない

・皇祖皇宗と天皇
 天皇は万世一系の皇統を承けて皇祖皇宗の遺訓
 によって統治する
 →皇祖皇宗もろとも一体となって初めて内容的
  価値の絶対的体現となる
  =天皇の価値は縦軸の無限性によって担保


○超国家主義の論理
・縦軸(時間性)の延長即ち円(空間性)の拡大
 ①神武天皇の御代は昔話ではなく、現に存在し
  ている
 ②世界平和とは各々の国が身分秩序のうちに位
  置付けられること

・天壌無窮と皇国武徳
 皇祖皇宗が中心価値の拡大を保証し、支配域の
 拡大が中心価値を高めていく
 →軍国主義下で螺旋的に高まる

・終戦の意味
 超国家主義の基盤たる国体が絶対性を喪失
 →日本国民が初めて自由なる主体となった


とても大雑把に要約すると、
明治維新にて権力と権威の統一を行った際、国家主権の基礎を法機構ではなく内容的価値の実体であることに置いてしてしまった。そのため倫理の内面化や主体的な自由は認められず、日本国家が価値内容の独占的決定者となってしまった。すると価値基準が天皇との相対的近接度のみとなり、人々は自らの権力と天皇の権威を合一化するようになってしまった。それが軍部や官僚のセクショナリズムを生み出し、彼らの無自覚な独裁へと繋がっていった。この責任の欠如は抑圧の移譲を生み、戦時中に一般兵による蛮行をも引き起こした。このように天皇への依存の下で皇国は空間的時間的に発展・拡大するという論理が構築された結果、武力膨張は過度なものとなっていった。


対外膨張を主権線・利益線という社会的背景からでなく、国家による価値内容の独占的決定という思想的背景から捉えていた点が新鮮だった。特に日本の軍国主義を時間的・空間的に雄大に論ずる丸山眞男の視点には思わず感服した。菅内閣による学術会議の任命拒否など、彼が取り上げた問題は現代にも通じている。

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