Sの復活
死んだ筈のSは生きていた。
あの日、駅までの道をやけに軽くなったSを抱えて歩いていると、大仰な笑みをたたえた大男が現れ、大して広くもない道が狭まったように感じたものだった。
やあやあ、これはこれは。いえねえ、おおごとだと聞きまして、我々はこうやってSを迎えに来たのです。
我々? なるほど、大男の側には小男が立っている。大男の存在が圧倒的なためか気がつかなかった。
「これは変死なのです。病院とか警察に連絡しなければなりませんよ」
もちろんです。ええ、当局にはわたくしどもから連絡いたします。なに、わるいようにはいたしません。へえ、ご迷惑をお掛けしました。落ち着きましたら、おって連絡を。
わたしと大男が話している間、小男は、Sの傷を子細に調べている。表情というものは、持ち合わせていないようだった。
遠い親戚だと称する見も知らずの大男と小男にSを委ねたのは、彼らの風貌にSの面影が見て取れたからだろう。Sの眷属に間違いないと思わせるものがあった。
意外にもSを担いだのは小男の方であった。大男は手伝わない。大男と小男と小男に担がれたSは駅とは反対の大通りの方に向かう。少し離れたところで小男が大男に何かを言ったらしく、遠目にも大男が驚いたように見えたが、何を言ったのかは聞き取れなかった。
Sから電話があったのは、Sの引き渡しから一ヵ月ほど経った頃だろうか。やはり公衆電話である。
やあ、すまんすまん。迷惑をかけた。おれは何ともないんだ。一時的にちょっとあれしただけなんだ。どうだまたあの店に行かないか? なに、験直しだ。踝の煮つけ旨かったしな。
「S……」
詳しい話は会ってからだ。
いつものSである。ただ何となく違和感を感じていたのだが、その時はSが生きていたことに動転して僅かな違和感を追求することは無かった。
果たしてSは約束の時間に遅れて来たがちゃんと駅には現れた。
ただし身長は20センチほど伸びただろうか。丁度、Sを引き取った大男ぐらいの身長だろう。電話の時の違和感は声の低さだと気がついた。身長と声の周波数は反比例すると云う法則をどこかで見聞きした記憶がある。
「S、お前いったい」
まあ、とりあえず腰を落ち着かせようぜ。あの店のおねいさんちょっと可愛かったな。
その笑い顔はあの大男そのものであった。
Sの奢り|kotatsu writer @kotatsuwitter|note(ノート)https://note.mu/kotatsustories/n/na59cf56e9bef