平凡な私がホストになった話~⑤心折れる・最終出勤~
私は大学4年の夏の間だけ、歌舞伎町のホストクラブで働いていた。この経験から多くのことを学んだので、忘れないうちに文字として残そうと思う。今回はその5回目、心が折れた話と出勤最終日のことを書こうと思う。一旦これが最終回。
心折れる
私がホストを辞めるに至った原因はいくつかある。その中でも、特に精神的にダメージを受けた4つの出来事を書こうと思う。
心折れる要因①~おもしろホストが飛ぶ~
「おもしろホスト」に感銘を受け、その人から会話の技術を盗もうと思ってホストクラブに身を置くようになったが、そのおもしろホストが急にお店に来なくなった。
代表に
「○○さんどうしたんですかね…」
と何度も質問したが、やれ体調不良だの、やれ家庭の事情だの、毎回違う回答が返ってきた。代表も把握してなかったとはいえ、一緒に働いてた仲間にまで嘘つく必要ないだろ。
おもしろホストに個人的に連絡を取ろうとしたが、LINEはブロックされていた。女の子に連絡を拒否されるのは慣れていたが、さすがにこれはこたえた。
心折れる要因②~財布を盗られる~
これは私にも非があるが、営業中に飲み過ぎて泥酔状態になってしまった。帰り道に一人で歌舞伎町のホテル街を歩いていたが、立っていることもできずに歌舞伎町の駐車場で横になった。
身体は限界を迎えていたが、「ここで寝てはいけない」という理性だけが働き、助けてくれそうな人に片っ端から電話を掛けた。しかしほとんど出ない。それもそのはず、このときは朝方4時である。こんな時刻に電話してごめんなさい。
少し意識を失い、目が覚めると鞄が失くなっていた。
スマホを見てみると、カード会社から「ご利用のお知らせ」といったメールが無数に届いていた。
どうやらクレジットカードが盗まれ、凄まじい勢いでカードが使用されているようだ。
一旦見なかったことにして、もう一度目を閉じた。
ようやく歩けるようになってから新宿の交番を回ったら、奇跡的に鞄が届けられていた。中身を確認すると、現金、身分証、クレジットカード4枚、Apple Pencilが失くなっていた。そもそもクレカ4枚も持ち歩くな。
余談だが、ほとんどのカード会社は全額返ってきた。それにも関わらず、P〇yP〇y銀行はサービスも分かりにくい上に、一部しか返ってこなかった。P〇yP〇y銀行もう使うのやめよ。
心折れる要因③~店固め~
他のホストの姫が、さらにそのホストにハマるようにヘルプが協力することを、お店でお客様を固めるという意味で「店固め」という。メンタルが落ちている姫に対しては、ベテランのホストが対応することがほとんどだが、ついに私にもその役目が回ってきた。
「△△さんがホストやめたら付き合ってくれるって言っていたけど、本当に私が選ばれるか分からない」
と泣きながら言う姫に対し、
「絶対大丈夫だよ。××ちゃんが1番かわいいし、△△さんの力にも1番なってるから」
と歯を食いしばって言った。彼女は自分のホストのために夜の仕事も初め、お金も相当な額使っていた。内心では「今すぐ逃げろ」と思っていたが、そんなことは口が裂けても言えない。
私は自分の姫の人生が狂うようなことはしないと決めていたが、考えが甘かった。ホストをやる以上、誰かの人生を狂わす歯車になる必要がある。
これ以上やったら、人として何か大事なものを失う気がした。
心折れる要因④~過酷なスケジュール~
少しずつお客様も付くようになり、気づけばNo.3を争う位置になっていた。しかし、数少ない休日もお客様に会う必要があり、大学やインターンも相まって超過酷スケジュールになっていた。
心身ともに限界を迎え、大学からの帰り道に原付で並木道を走っていると、久しぶりに触れた少しの自然に感動して涙が止まらなくなった。ヘルメットの中はびしょびしょだ。
家について、びしょ濡れのヘルメットを見ながら
「もうホストやめよう」
と決心した。
辞める報告
代表に「もうホストを辞める」と話をしにいったが、中々受け入れてもらえなかった。軽めの人格否定をされたり、営業後に偉い人に囲まれて2時間説得をされたりと、辞めるまでも苦労した。
全然辞めさせてもらえないなら、もう飛ぼうとも思ったが、どうしても正式に辞めたかった。というのも、夜職は辞めるときに飛ぶ人がほとんどだ。そんな世界だからこそ、正規の手順を踏んで辞めるという経験をしてみたかった。
代表といくら話しても辞める方向に話が進まないので、最終的にエリアマネージャー的存在の人に直接電話をして辞めるよう伝えた。
その結果、最後の一か月は全力でホストに専念するという条件で辞めさせてもらえることになった。自分頑張った。偉い。
出勤最終日
出勤最後の日は、手向けの意味でとにかく飲まされるということを聞かされていた。それに怯えながら出勤すると、案の定大量にアルコールを飲まされたためほとんど記憶がない。そのため書けることは少ない。
最初はヘルプとして他のホストの姫の席を回った。悉く別れを惜しまれ、少し嬉しかったが、「この人たちとはもう二度と会わないんだ」と思うと寂しかった。中には泣いてくれる人もいた。
大量のシャンパン
他のホストの姫がシャンパンを入れる度にビンダ(ビンからダイレクトの略、ラッパ飲みのこと)していたため、急性アルコール中毒で死ぬかと思った。自分の姫も沢山シャンパンを入れてくれたが、申し訳ないことにほとんど記憶がない。写真を見返すと、高くないシャンパンではあるが10本以上は入れてくれていた。
色紙
営業の途中でホスト達から一言ずつメッセージを書いた色紙を頂いた。私は酔うと感動しやすくなるため、明らかに男達だけで書いたであろう稚拙な色紙を見て、感動のあまり号泣した。泣き虫すぎる。
このときに「飛ばなくて本当によかった」と思った。
ラストソング
営業終わりにその日1番売上げたホストが一曲歌を歌う。これを「ラストソング」というが、私は出勤最終日に最初で最後のラストソングを歌うことができた。
正直記憶は無いが、ベロベロの上に大泣きしていたため、歌にもなってなかったと思う。多分マカロニえんぴつの「ヤングアダルト」を歌った。
さいごに
こうして私のホスト人生は幕を閉じた。たった数ヶ月の出来事であったが、普通に生きていたらできないような経験を沢山でき、新しい価値観にも触れることができたので総じて良かったと思う。
ホストに向いている人の条件は
お金が好き
お酒が好き
女の子が好き
だと言われている。
最初は自分もホストに向いていると思っていたが、実際はそうでも無かった。必要以上のお金を欲しいと思ったことはないし、気の合う人と飲むお酒が好きなだけだし、好きな女の子が好きなだけの平凡な人間だった。
ホストを通して良い経験ができたとは思うけど、もうやらなくていいかな。