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Linkin Park 4th "A Thousand Suns" 2010年…いつの間にかCD1000枚近く集まってしまったのでお気に入りのレビュー残しておく
前作の3作目ではそれまでの優等生的ニューメタル音楽から反抗期を迎えたかのごとく思いっきりサウンドを変えてどこか人間味のあるバラエティに富んだ作風だったが、この4枚目でも更に大きな変化が発生、というか、原爆・核という非常にシリアスで鋭角なテーマ1本に据えたサウンドトラック的作品となっており、これは前作でも垣間見えた世界情勢へのタッチや政治的なメッセージを本腰入れて突き詰めた形と見て取れる
音楽性としてもバンドの実験精神とアートセンスが遠慮無しに拡散、音楽エンタメからあえて距離を置いたようなLinkin Parkの芸術表現をとことん追求したような音楽に仕上がっており、人類が生み出した人類の手に負えない破壊神の権現を前に人類は後悔と現実逃避に思考を支配されてしまい、それを千の太陽と表現する程の美しさを錯覚してしまう憐れな廃退的世界観のストーリーを見事最新のリンキンサウンドで構築
このように今までと全く異なるアプローチで、まあ売れる流行るなんて二の次の意気込みで制作されていることより、間奏曲が随所に挟まっていたり全ての楽曲が連続で切れ目無く再生されたりという反サブスク反メジャー的なアンチスタンスであったり、ニューメタルやラップメタルなんて括りからはとっくに抜け出しているどころかバンド演奏するかどうかさえも大して重要では無くなっているサウンドに進化していたりと、美しいメロディや印象的なラップに緻密なインダストリアルサウンドが高度に織り交ざる完成度の高いアルバムながら初期のヘヴィでキャッチーなラップメタル曲を好む人はもう完全についていけない境地に到達
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1.The Requiem ★★★
遠巻きに聴こえる子どもの歌声による夢想的な曲で、そのメロディはこのアルバムで何回も登場するメインテーマであり徐々にノイズまみれのカウントダウンで次の曲に続く
歌詞もこのコンセプトアルバムのあらすじを大枠伝えるもので、千の大陽と表現されるものは正に核爆弾のこと、その人智を超えた破壊と業火を前に神を錯覚する情景を表す内容
2.The Radiance ★★★
爆発音とも心音とも取れる強烈なノイズの嵐の中、原爆の父の異名を持つアメリカ原爆開発責任者オッペンハイマーの、この世の破壊に指1本まで迫った際に頭に浮かんだというヒンドゥー教の経典の一節を語るスピーチが流れる、非常に緊迫感溢れる間奏曲
3.Burning In The Skies ★★★★★
憂いを帯びた美しいメロディ、物悲しく響くピアノ、素朴な彩りを添えるギター、乾いた質感のリズムサウンド、チェスターの抑えの効いた歌唱による、廃退的な空気に包まれた悲哀たっぷりの曲
原爆という制御不能の炎を発してしまったことに対する後悔や諦めの言葉が歌詞として淡々と並べられる
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堅実というかちょっと地味なキャラだが、
バイオリンやチェロやコントラバスも弾けるとのwiki情報
("Burning In The Skies" MVより)
4.Empty Spaces ★★
銃撃音とノイズと微かな演説による間奏曲、いかにも戦争下な感じ
5.When They Come For Me ★★★★
原始的・民族的なリズム、攻撃的なラップや雄叫び、宗教音楽っぽいテイストが都会的で機械的な音楽を主としてきたリンキンにしては珍しくて、原爆という人類ではどうしようもない強大な破壊力の前にして、安易に宗教に逃げようとしている価値観を危惧するような歌詞
6.Robot Boy ★★★
浮遊感・夢想感の高いエレクトロチューンで、抑揚の無い歌いかたといいワンパターンのメロディといい、前の曲と同様、原爆という破壊の巨人を前にして思考を停止した人類の無責任な状態を表現しているように聴こえる
7.Jornada Del Muerto ★★★
マイクが歌う「持ち上げて、解き放して」という日本語歌詞が耳に残る、1曲目でも採用されたアルバムのメインメロディによるインダストリアル仕様の間奏曲
タイトルは世界初の原爆実験(トリニティ実験)が行われたニューメキシコ州中南部の砂漠地帯の地名、「死者の旅」「死者の道」の意
8.Waiting For The End ★★★★★
最期の日を迎える、という終末的なタイトルと歌詞に相反する、ピースフルなメロディにチェスターの伸び伸びとした歌声、マイクの妙に陽性なレゲエ調のラップという構成で、現実逃避と思考停止の果てに得られた廃退的な美しさを堪能できる
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もちろん監督はDJジョーだ
9.Blackout ★★★★
メリハリの効いたテクノビートサウンドとレイドバックしたキーボード・ピアノサウンド、強靭なチェスターのシャウトによる夢想的カオスから、伸びやかで美しいメロディへの展開により現実に引き戻される、トリップ感覚鋭い曲
10.Wretches And Kings ★★★
地を這うようなドープサウンドが下地の、イーヴルでエッジィなヒップホップチューンで、優等生的ニューメタルバンドの頃にはなかったワルそうなラップ
11.Wisdom, Justice, And Love ★★★
演説その3、かのキング牧師の演説をサンプリングしており、物悲しいピアノをバックに語られる演説は、徐々にノイジーになり不気味な音像へ変貌し終わる
12.Iridescent ★★★★
ダークな彩りから始まりドラマティックで秀逸なメロディが拡がっていく曲で、チェスターのエモーショナルな歌声がコーラスを加えて浮かび上がる様が感動的であり、その歌詞からもいよいよ救いの無い終末的な雰囲気が充満し、遂に原爆が投下され爆発した世界の真っ只中、絶望のあまり希望の光と錯覚する感じだ
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かの「最後の晩餐」のオマージュが登場
映画「トランスフォーマー/ダーク・サイド・ムーン」のエンディング曲
13.Fallout ★★★
エンディングに突入する前の間奏で、3曲目の美しいメロディと歌詞のリベイクだが、その時にあった人間味はもはや消滅しており、完全に破壊が完了し無機的なノイズの塊と化した世界を表すサウンドに変貌している
14 The Catalyst ★★★★★
このアルバムの集大成にしてクライマックス、この曲のメロディと歌詞を主題としてアルバムが作られていたことがここで判明
無機的に疾走するデジタルビートと緊迫感の高い鋭利なインダストリアルサウンド、虚無感を滲ませるピアノと感情が漏れでるような歌唱により絶望的な美しさが輝くメロディ
このアルバムで一貫して出してきたリンキンの最大限の表芸術現の結晶のような曲で、歌詞も極限に廃退的で自虐的なものであり、自分たちで作り出した破壊の権化に対して、神頼みでしか制御しようとしない人類の愚かさを指し示す
15 The Messenger ★★★★★
リンキンの数あるバラードの中でも特に素晴らしい珠玉の超名曲、この曲と歌声がチェスター最高傑作だと思う
重厚なこのドラマのラストにようやく訪れた、人間の生命を肌で感じる有機的な時間で、アコースティックギターとピアノによるミニマムで素朴なサウンドと、相反するようなチェスターの、スピーカーが割れんばかりの力強くエモーショナルな熱唱が泣きを誘発
チェスターというシンガーの素晴らしさが、この最低限の音数の中で最大限に引き立っており、この圧倒的な歌唱の前には誰しも感情が沸き立つだろう