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父ちゃん24日目~父として、夫として、迎える準備~
あと1週間で、澄麗と生後1か月の健一が帰ってくる。孤独な一人暮らしを振り返る心太朗は、「あれ、俺、何してた?」と自分にツッコミつつ、家をピカピカに掃除することを決意。 トイレ、お風呂、洗面台、キッチンと奮闘する中で、家事を支えてくれていた澄麗への感謝を再認識。帰宅後は育児に全力で挑む決意を固める。
**父ちゃん24日目(12月10日)**
あと1週間。澄麗と健一が帰ってくる。
そう考えると、ここ最近の孤独な一人暮らしはなんだか長かった。産まれてまだ三週間の健一、あんなに小さかったのにもう三週間も経ったのかと思うと驚く。
「やっと帰ってくるのか!」と嬉しい反面、3週間の別居生活を振り返ると、「あれ、俺、何してた?」と自分にツッコミたくなる心太朗であった。
澄麗が体調を崩していた時期は、ほぼ毎日彼女の実家に通っていたが、最近は週一ペースになっていた。「これ、俺、居候じゃね?」 と気づくのは帰宅途中のコンビニ前だったりする。
一人暮らしなんて久々だったが、心太朗の感想はシンプルだ。
「…寂しい。」
仕事をしていた頃は1ヶ月が秒速で過ぎ去ったが、何もしないで一人きりの1ヶ月は…そう、砂時計の砂が湿気たかのように長い。しかも大したことはしていないのに、油断すれば部屋はすぐに散らかる。
とはいえ、今日は違う。朝7時に起きた心太朗は意を決して大掃除を開始。「澄麗と健一が帰ってくるまでに、この家をピカピカにしてやる!」と宣言し、 と拳を握りしめる。
第一ラウンド:トイレ掃除
まずはトイレから。実は心太朗、トイレ掃除だけはちょこちょこやっていたので、そこまで汚れていない。「気合入れたのにすぐ終わるってどういうこと?」と肩を落としつつ、床や壁まで徹底的に掃除をする。これぞ**“努力の方向音痴”**。
第二ラウンド:お風呂場
次はお風呂だ。澄麗がいた頃は、彼女が毎日掃除してくれていた。だが、心太朗は1人になってから一度も手を付けていない。案の定、しゃがんで覗き込むとカビがちらほら。「あ、これアウトだ」と驚く。
ただし、カビキラーを使うのは健一への影響を心配して却下。代わりにバスマジックリンを豪快にぶっかけ、タワシでゴシゴシ。意外にもカビはあっさり取れた。「俺、これ向いてるかもしれない」と調子に乗るが、次の日筋肉痛になるのはお約束である。
第三ラウンド:洗面台
洗面台も、この家に澄麗が来る前は心太朗が毎日拭いていたが、彼女が引っ越してきてからは、いつの間にかその習慣は消え去った。
「俺って、こんなズボラな人間だった?」と苦笑しながら掃除開始。散らばる水滴と髪の毛を見て**「こんなに落ちるなら俺の毛根も危ないんじゃない?」**と謎の心配をしつつ、バスマジックリンでピカピカに。
最終ラウンド:キッチン
最後はキッチン。ここは澄麗の“聖域”だが、放置されていた排水溝はもはやヌメヌメの沼地と化していた。
「これやばくね?」と慌てふためく心太朗。ネットの替えが見つからず家中を探し回った末、ようやく隠し引き出しで発見。「結婚すると、家の中が迷路になるってこういうことか!」と、ある意味新婚の洗礼を受けた気分になる。
掃除を終えた家を見渡すと、心太朗は一つの事実に気づいた。
「…ほとんど澄麗がやってくれてたんだな。」
元々、飲食店勤務で衛生面にはうるさかった心太朗。最初の上司が異常なほど綺麗好きで、その影響を受けていた。「あの人のせいで俺の掃除スキルが無駄に上がった気がするな…」と若干の恨み節も混じる。
結婚後、澄麗が家事をすべてこなしてくれるようになり、心太朗はすっかり「使えない男」に落ち着いていた。健一が生まれた今でも澄麗は「家事は私の領域だから触らなくていい」と断言。さらに、「その代わり、健一といっぱい遊んでね」と言われ、「俺の役割、育児界のアンパンマンか?」とひそかに苦笑しつつ、帰ってきたら素直におもちゃを握りしめることにした。
「家事より育児が好き」な心太朗は、この分担に大いに満足しているが、ふと考える。「これ、分担っていうか俺が遊んでるだけじゃん?」
そんなことを思いながら、帰ってきた時の健一との遊び方を頭の中で計画し始めるのだった。