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父ちゃん7日目〜育児舐めてました〜

初めての育児に奮闘する心太朗。寝不足の妻・澄麗を休ませるため、慣れない手つきで健一の世話をするも、沐浴やおむつ替えで大失敗の連続。泣き止まない健一に振り回されながらも、その笑顔に癒される日々。父親としての7日目、手探りながらも家族を支える決意を胸に奮闘する。

**父ちゃん7日目(11月23日)**

夜中の0時を回った。
心太朗は、暗闇の中で小さなため息をつく。健一は相変わらず起きている。ああ、澄麗のことを思うと胸が痛い。寝不足と出産の疲れで体力を消耗している彼女を休ませるため、自分がやるべきことはわかっているのだ。だが――正直、何もできない。本当に何もだ。

昨夜の沐浴を思い出して苦笑いする。澄麗の両親と一緒に健一をお風呂に入れたのだが、心太朗と義父の手際の悪さと言ったらもうお手上げだ。泡だらけのスポンジを握りしめ、健一の顔に泡を突っ込む寸前で止まるも、彼は号泣。小さな体が震えんばかりに泣き叫ぶ姿を見て、「父ちゃん、下手すぎるわ」と突っ込んでいるのだろう。病院では助産師がプロの手つきで入れてくれただろうに、このドタバタ劇を見せられた彼の気持ちを思うと、涙が出るほど申し訳ない。

だが、義母は違う。さすが育児のベテラン。義母がスムーズに健一を洗い上げる姿を見て、心太朗は「これが経験値の差か」とただただ感心するばかりだ。

風呂から上がった後、服を着せるというさらなる試練が待っていた。小さなボタンとボタンをどう留めればいいのかわからず、手が震える。澄麗に教わるも、どうにも覚えられない。「これ、パズルかよ」と心で呟きながらなんとかやり終えたが、これで一仕事終えた気分だ。

一息つこうとすると、健一が「ラーラー!」と独特の泣き声を上げ始める。夜は母乳ではなく粉ミルクだ。義母に教わりながら作ると、意外と簡単でほっとする。出来上がったミルクを健一に差し出すと、彼は目をキラキラさせながら飲み始める。この瞬間がたまらなく可愛い。飲み干した後、彼を肩にかけて背中を叩き、ゲップをさせる。すると健一の顔が仏像のように穏やかになり、心太朗は思わず「お地蔵さんかよ」と心でつぶやく。

しかし、平和は長く続かない。またしても波乱が訪れる。ブリブリッという音とともに、さっききれいにしたばかりの体が再び汚れる。そして、健一は容赦なく足をバタバタさせる。心太朗が足を押さえてお尻を拭こうとした瞬間、「シャーッ」と音がして顔に水しぶきがかかる。健一の放った反撃だ。

「ごめん、父ちゃんのミスだ!」と言いながら、必死で拭く。なんとかオムツ替えを終えると、また健一をあやし、寝かしつける。そして1時間から3時間後に再び起こされる。

この夜勤生活の合間に、心太朗は日記小説を書く。あれだけ時間があったのに、今は数分の隙間時間をフル活用して書いている。書くたびに思う。「これ、もう笑い話にするしかねぇ」と。

健一が泣き止まないときは、まるで彼の心の声が聞こえるようだ。「それじゃない!それじゃない!」意思の疎通ができないもどかしさはお互い様だ。この小さな戦士はまだこの世に来て7日目。自分もまた父親としての経験が7日目なのだ。

朝、日中は健一の世話を澄麗の両親に預けて、寝不足の心太朗は一旦、片道2時間かけて家に帰る。家事や買い物をこなして、夜には再び澄麗の実家へ。育児がこんなにも大変だとは、まさに「舐めてた」の一言だ。それでも車を運転しながら思う。「澄麗にこれを一人でやらせるわけにはいかない」
世の男性には心から育休取得を推薦する。

そういえば、23日といえば澄麗との交際と結婚の記念日だった。
心太朗は、車のエンジン音に紛れて小さく嘆息する。すっかりそんなことを忘れていた自分に呆れるが、よく考えれば、澄麗も珍しく忘れていただろう。いや、忘れざるを得ないほどの日々だったのだろう。
「少しは彼女の役に立っただろうか」
そんな思いが胸をよぎる。だが、今は問うべき時ではない。ただ目の前の家族を守る、それだけだ。

そうして戻った澄麗の実家には笑顔の健一がいる。その一瞬の報酬がすべてを救ってくれる。拙い手つきであろうと、心太朗は夫として父として、家族を支えると心に決めたのだった。

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