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父ちゃん36日目~お宮参り~
お宮参りを控えた夜、心太朗は息子・健一の夜泣きを恐れつつも、家族として迎える特別な日を心待ちにしていた。予想外のチームワークや地域の温かさに触れ、無事に儀式を終えた一家。仕事を辞めて味わった絶望から一転、家族と過ごす幸せを噛みしめる心太朗の姿がそこにあった。
**父ちゃん36日目(12月22日)**
心太朗は決意を固めていた。「明日はお宮参りだ、絶対にちゃんと寝るぞ」と。だが、最近の夜泣きキングこと息子の健一がその決意をどう受け止めるかは未知数だった。いつもは夜中に3~4回は起こされる日々。自分の睡眠はもちろん、澄麗も寝不足。
だが、その夜、健一は違った。まるで「今日は特別な日なんだ」と悟ったかのように、3時間おきに目を覚ましたが、ミルクを飲んですぐにスヤスヤ。心太朗は「やればできる子じゃん」と思いつつ、普段と変わらない睡眠時間に感謝した。十分奇跡だ。
朝7時。健一がパッチリ目を覚ます。
「おいおい、まだ寝てていいんだぜ」と心太朗は心の中で呟くが、健一の笑顔は「いや、もう行く準備しよ?」と言わんばかりだった。どうせ寝る気がないなら仕方ない。心太朗も観念して起床。「これが親になった証拠か…」と思いながら健一のオムツを替える。
その横で、澄麗が「なんで子供一人でこんなに荷物が増えるの?」と呟きながら準備を進めている。着替え、オムツ、ミルク…自分のバッグなんて、もうただの飾りだ。心太朗も準備を終え、健一をあやす役目を引き受ける。まさにチームワーク。
11時。神社に到着。両家の両親たちと合流するなり、心太朗は「あ、健一どうぞ」とばかりに祖父母にバトンタッチ。「これも育児の技術だ」と心の中で自分を褒める。
受付を済ませ、神主の祝詞が始まる。
「ヤスカワノケンイチノ…」
健一の名前が読み上げられる。太鼓や鈴の音にも微動だにせず寝続ける健一を見て、「大物感、あるな…」と感心した。
儀式が終わり、絵馬に健一の名前を書き、他の家族の祈りの隣に飾る。その後、神社の境内で記念撮影をすることに。通りすがりの参拝者にお願いして写真を撮ってもらうと、「おめでとうございます」と祝福される。その瞬間、「俺たち、そんなに幸せそうに見えるのか…?」と少し照れながらも嬉しく感じた。
昼食には、澄麗と妊娠中に訪れたよもぎ蕎麦の店を選んだ。当時、「お宮参りの時はここにしよう」と言っていた。店員さんが2人のことを覚えていてくれた。店員さんの祝福に「地域の優しさっていいな」としみじみ思う。
蕎麦を頬張る両親たちを見て、「親孝行、これで十分じゃない?」と心太朗は少し自己満足に浸る。澄麗も笑顔で、「ここにしてよかったね」と言ってくれる。それを聞いた瞬間、心太朗は「やったぜ」とガッツポーズを決めたくなった。
無事にお宮参りを終え、家に戻ると健一がついに覚醒。今までの分を取り返すかのように泣き出す。心太朗は「分かるよ、頑張ったもんな」となだめつつ、健一を抱っこする。ようやく泣き止んだ頃、神社でもらったお守りを部屋に飾り、「これからも健一をよろしくお願いします」と手を合わせる。
その後、夫婦そろってベッドに倒れ込むと、次の瞬間には夢の中。寝落ちという贅沢を久々に味わいながら、心太朗は「この疲れ、なんかいいな」と思った。
仕事を辞めて絶望的だった時期もあったが、健一と過ごす日々はその頃の疲れとは全く違う。充実感に満たされた疲れ。家族と一緒にいる時間が何よりも尊く感じる。
「来年はもっと楽しいことが待ってるだろう」と、ぼんやりと思いながら、心太朗はその日一番の深い眠りについた。