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父ちゃん40日目~日常が宝に変わった年~
2024年も残りわずか。激動の一年を過ごした心太朗が振り返る、結婚から退職、そして父親になった日々。年末の穏やかなひととき、家族との新しい生活を楽しみながら、彼は幸せな日常の中に大切な瞬間を見つけ始めていた。
**父ちゃん40日目(12月26日)**
気づけば、2024年が終わるまであと6日。心太朗にとって今年一年は、まさに激動の一年だった。いや、激動どころかジェットコースター。しかも、そのジェットコースター、降りる間もなく次のレールが追加されていくタイプだ。
まず1月、元旦から20連勤。お正月だというのに、もちどころか正月感すら味わう暇もなく、ただひたすら働いた。
2月には澄麗と前撮り写真を撮るために、真冬の山奥に出向いた。寒すぎて笑顔も凍りつき、写真を撮るたびにカメラマンに「もう少しリラックスして笑ってください」と言われたが、そもそも唇が動かない。後で写真を見返しても、リラックス感ゼロだった。
3月には結婚式。これだけは最高の思い出にしたいと頑張った結果、準備と仕事で過労になりかけたのは言うまでもない。でも、あの時の澄麗の笑顔はすべてを報われた気持ちにさせてくれた。もっとも、「あの時のスピーチが噛み噛みだったわよ」という冷ややかなツッコミもあったけど。
4月には店長に昇格した。「おめでとう」と言われたが、「それ、呪いの言葉?」と返したくなった。昇格と同時に仕事量が倍増し、もはや何をしているのかもわからない日々が始まった。
そして5月、澄麗が妊娠発覚。嬉しいニュースだった。今までで一番嬉しかった。だが「今の俺のキャパオーバーじゃないだろうか?」と密かに震えた。すぐに6月は安産祈願に行った。
7月、過労で精神を壊す。「いや、やっと壊れたんかい!」とツッコミたくなるくらい、遅すぎるサインだった。でも8月には退職を決意し、9月に有給を消化するという、大人の夏休みを堪能。おかげで体力も少しずつ回復し、10月にようやく退職。これが人生の第二幕の始まりとなった。
11月、ついに健一が誕生。何もかもが吹っ飛ぶほどの喜びだった。「俺、こんなに感情が豊かだったっけ?」と思うくらい涙が止まらなかった。
そして12月、澄麗と健一と一緒に新しい生活が始まった。振り返れば、今年は悪いことも山ほどあった。でも、健一の存在がすべてを肯定してくれた。
心太朗は今、こう思う。「仕事を辞めてよかった」って。もしあの激務の中で父親になっていたら、間違いなく育児は澄麗に丸投げしていただろう。今では毎日健一の成長を間近で見られるし、澄麗のワンオペ育児を防げたことが何よりの幸せだ。
こうして、2024年は最終的に「良い年」になった。
クリスマスも終わり、世間はお正月に向けてざわつき始める中、心太朗はのんびりモードだった。年末まで特に予定もなく、今日は澄麗と健一と一緒にスーパーまで買い物に出かけることにした。散歩がてら家族で外を歩くのも悪くない。いや、正直なところ、健一という「我が家のスター」を世間にお披露目したかっただけかもしれない。「ほら見て見て、うちの子、めちゃくちゃ可愛くない?」という、無言のアピールである。
まだ抱っこ紐もベビーカーも準備していないため、健一を抱くのは心太朗の役目だった。片道15分、抱っこして歩く。最初は「父親力を見せてやるぜ」と張り切っていたが、途中から腕が重力に負け始めた。腕の筋肉が悲鳴を上げ、「俺らはこんな重労働の契約してねぇぞ」と文句を言っている気がする。だが、心太朗も負けてはいられない。「これくらいで音を上げるなんて、父親失格じゃないか?」と自分を鼓舞しつつ歩き続けた。
やっとのことでスーパーに到着すると、新生児用のカートを発見。これには心太朗、心の中で小さくガッツポーズ。「助かった!お前こそ真の救世主だ」と、カートに感謝しながら健一を乗せた。そして、スーパー内を歩き出すと、周囲からの視線が集まる。
「可愛いですねー!」
「何ヶ月ですか?」
「男の子ですか?」
「おめでとうございます!」
こんなに話しかけられるとは予想外だった。心太朗は思わず照れ笑いしつつも内心ではニヤニヤが止まらない。「いやぁ、うちの子、人気者だなぁ」なんて完全に親バカ全開である。ついでに、澄麗が健一の乗ったカートを押している姿を動画で撮った。心太朗にとって、こういう何気ない日常を幸せに感じていた。
健一が産まれる前の心太朗は、1日なんてただ慌ただしく過ぎていくものだと思っていた。しかし、今はその1日の中にこんなに幸せが詰まっていることに気づくようになった。こんななんでもない日常でも、写真や動画に残しておきたくなるのだから不思議なものだ。
健一がこの家に来て、まだ10日しか経っていない。それなのに、もう何ヶ月も経ったような気分だ。それほど毎日が濃い。抱っこで腕がパンパンになったり、スーパーで健一を乗せてカートを押したり、そんな些細なことがすべて大切な記憶になる。
「これからも澄麗と一緒に、健一の成長を見届けながら、笑いじわを増やしていきたいな。」そう思いながら、帰り道も腕の筋肉をプルプルさせながら頑張る心太朗であった。