ヒット曲を作り出す方程式が記事に書かれていないので、勝手に解を考えてみた。
はじめに。記事の概要。
①ヒット曲を考察する前に、音楽を構成する要素の整理。
②独断と偏見で分析する「Shake It Off」。
(1)ドラムパターン
(2)エレクトロ要素の効かせ方
(3)手弾き感満載のグルーヴ
(4)ミニマムで巧みな楽器の使い方
③DTM時代を生かした音作り。
とても興味深い記事を発見しました。現代と過去では(と言ってもShake It Offから4年も経つと過去とも言えますが・・・)ヒットする楽曲の傾向が違うらしいです。楽曲制作さえも数値化して傾向を探りに行けるとは・・・音楽はビッグデータで語れる時代になるのかー。
しかしこの記事では「じゃあ具体的にどんな曲なの?」という肝心要な部分が書かれていないので、僕なりに彼らが言っていることを音楽的な側面で考察してみようと思います。あくまで個人的な見解です。ご容赦ください。
そもそも、音楽を構成する要素とは?
この記事を読んでくださる方が全員、音楽制作の経験がある訳ではなさそうなので、まずは音楽の構成要素をなるべくわかりやすくまとめてみます。ごく一般的な、考えたら当たり前のお話かも。
(0)サウンド
文字通り「音」です。音楽における根源であり、「点」みたいなものです。一般的に、点が線になり面になるように、点だけで大きな意味を成すことはすぐに考えにくいのですが、実は音楽における基盤であり、最重要な存在はこの「点」だと僕は思います。
(1)メロディ
音楽における「横軸の線」です。口ずさんだり、楽器でドレミファソ・・・と弾いたものがメロディ。原始的なものから、高度な音階を用いて作ったもの、それらすべてを指すもの。よく「リフレイン」「リフ」という言葉を使う場合もありますが、リフとはメロディラインを繰り返すことで効果的に高揚感を生み出すための手法、と今回は定義してみたいと思います。
(2)ハーモニー
メロディが複数重なることで生まれる、「調和」を指します。音楽における「横軸の"面"」とでも言えますでしょうか。ハーモニーはひとつの楽器(ピアノやギター)で作り上げることもあれば、複数の楽器(ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロやトランペット、トロンボーンなど)で構成されることもあり、縦軸に見ると「点」同士の集合体、横軸に見ると「線」同士の関係性を様々な楽器を用いることで、同じ和音も非常にバリエーション豊かに使い分けることができます。
(3)リズム
「点」であるサウンドのうち、主に音階を持たないものたち(音階がある音を効果的に使うことも多々あります)を一定の規則で鳴らした時に生じる法則性がリズム。拍、拍子というのはこのリズムの集合体で、一定以上の長さをまとめた時に連続性があるものであることが成立条件だと思います。
(4)ベース(低音)
この定義は確か他のどなたかもおっしゃっていた気がしますが(誰だったか思い出せず・・・)リズムとメロディ、ハーモニーの全てでもあり、全く異質な存在とも言える「影の支配者」です。低音要素は音としてどっしりと周りを支える存在であると同時に、音響効果的には空気を、空間を震わせる役目を担っており、人が体感する音の圧の中心は低音成分によるもの、と考えていただければと思います。
これらが複雑に、それでいて無駄なく効果的に作用し合い、人の心を揺さぶるたくさんの音楽が形成されています。
「踊れる音楽」の定義
上の記事でいう「踊れる」とは、「リスナーとして聴いた時に体が自然と動く」という意味の「踊れる」だと認識しました。僕は日々、「ステージで表現者の皆さんが踊れる音楽」を作っていて、その意味と今回は少し目的や音作りのアプローチが違ってくるので、前者でいう「踊れる」音を検証して見たいと思います。
せっかくなので、話題に上がっていたテイラー・スウィフトの名曲「Shake It Off」を僕の独断と偏見で分析します。繰り返します。独断と偏見です。以下の動画を流しながら読んでいただけるとよりわかりやすいかと思います。
(1)印象的なアクセントが効いたドラムパターン
この曲が一番力を入れた?であろう楽器はドラムなんじゃないかと思います。とにかくこの、終始鳴り続けるドラムの打ち手のパターンの洗練されっぷり!無駄なく、それでいてかなり特徴的なパターン。
何が特徴的かって、拍の頭で鳴るオープンハイハットシンバルの音と、演奏者の方の手癖とも思えるドラムのスティック音。イントロのドラムを、よ〜く聴いてみてください。
普段、ドラムを組む時に最初に意識しがちなのは低音の野太いキックドラム(バスドラムともいう)と2拍め、4拍めで入っているスネアドラム(小太鼓)なのですが、この曲はおそらく、音楽の根底を支えるキックやスネアを組む以上に、綿密にオープンハイハットとスティック音を並べたり、弾いたりして検証を重ねて(あるいは天才的に、「これクールじゃね?」とスタジオで試すうちに)できたリズムなんじゃないかと思います。
(2)エレクトロミュージックの要素をドラムに混ぜている
さらに、8小節で1ブロック扱いのリズムのうち、途中から8小節に3発、クラップ(拍手音)が入ってきます。これが、聴いている人に思わずクラップを促してしまう魔力に変わっている!
ちなみにこのクラップ音はおそらくですが、我が地元浜松が誇る電子楽器メーカーRoland社の伝説的ドラムマシン「TR-808」(通称:ヤオヤ)の音だと思います。下のYouTubeの4:26以降で登場するので聴いてみてください。
TR-808は、発売当初こそ大ゴケしたリズムマシンですが、テクノやハウスと呼ばれるダンスミュージックの作り手たちに価値を再評価され、瞬く間にダンスミュージックの王道中の王道のサウンドになりました。現在はこの映像に映る実機は、発売当初の4倍近い値段で取引されています。一昨年大流行したピコ太郎氏の「PPAP」のドラムもこれ。今のようになられる前から、実機を大切に使われてきたとの胸熱な噂も聞いたことがあります。
いかにもアメリカらしい「ズーチャ、ズン、ズ、チャ♪」という生ドラムのビートを、綿密なアクセントとダンスミュージック定番のサウンドを巻き込むことで、「生と電子の融合」という非常に現代的なサウンドに仕上がっているように感じます。あーかっこいい・・・
(3)生録音でしか作れない「人間味」=最強のグルーヴ
この曲のドラムは一聴すると同じパターンを弾いているように聴こえます。しかし、スティック音を聴いてみると、場所によって裏拍を叩いていなかったり、キックのパターンがサビで微妙に1発だけ変わったりと、実は不均一なことがわかります。さらに突っ込んで聴くと、2番のAメロで歌いながらバックで「チャチャっ♪」とクラップしている音まで入っています。これがサビにもうっすら裏に入っていることで、人間的高揚感を演出している・・・
実は、これらが人の心を抑揚させる最強の武器「揺らぎ」。なぜこのようなドラムのトラックになるのか。計算してやっているかもしれませんが、僕の想像は地球を代表するレベルの経験値を持つドラマーの方が弾いているうちに楽しくなって「自然と打った1発」「音楽と一体化した時に不要と細胞レベルで思ってなくした音」なんだと思います。クラップも同様に、歌っているうちに入れてみたくなっちゃって、サビも入れたらいいじゃん!ってなったような気がします。
演奏するのも感動するのも人。正確に叩いていても、その音たちひとつひとつは微妙に変化している。その変化こそが、聴く人を知らず知らずのうちにぐいぐい曲に巻き込むのです!ちなみに、これを機械で作るの、実は超難しい。音数が少なく聴こえるこういうシンプルな曲ほど、PCで動かせるソフト音源がいかに優秀でも再現するのが困難なのはこれが理由です。
なお、エレクトロミュージックの分野でも、キックの音色を拍によって少しいじったり、ベースを手弾きしてみたり少しずらしたり、この揺らぎを生むために日々プロデューサーたちはシノギを削っているのです!
(4)金管楽器、ベース、シンセが成せる「モダンファンク」
これを見ていただければ、Shake It Offの編成がよくわかります。特徴的なドラムのリズムと、圧倒的にリズム感抜群なテイラーの歌声を際立たせるために、編成がとってもミニマム。びっくりなのは、旋律でリズムを司る楽器、ギターがいないこと!!それがまたこの曲の独創性を高めています。
ギターを抜いた代わりにリズムとメロディ、ハーモニーを埋めているのが、4本編成の金管楽器(左からアルトサックス、トロンボーン、トランペット、バリトンサックス)。金管楽器の編成は、楽器の編成差こそあれど、ブラックミュージックで脈々と受け継がれる「踊れるパーティサウンド」に必須な楽器です。
Earth, Wind & Fireも、Bruno Marsも、踊れる陽気でハッピーな空気を管楽器で作り出していますね。そして、手前味噌すぎますが僕が作った RIZAPのTVCMでも、体型変化の歓喜を跳躍感たっぷりに表現するために、トランペットとテナー、アルトサックスを素晴らしい演奏者の皆さんに吹いていただきました。よければご覧ください。
また、金管楽器と同じくらい重要な役割を担っているのが、サビに入るベースです。以下の図をご覧ください。
これが、テイラーが歌い始めたAメロ付近の楽曲全体の周波数モデルです。上の図の縦軸は音量、横軸は周波数です。周波数は左に行けば低く(地面や空間を揺らす成分)、右に行けば高い(明朗に聴こえたり抜けをよくする成分)周波数ということです。頭拍の「シーッ」は4~6kHz系あたりが反応し、キックは鳴るたびに100Hz以下が敏感に反応します。
さらに下の図の右下は、Imagerと言ってステレオ(音像の左右)の広さを示すものです。Aメロ付近は、全体的に音が真ん中に寄っていることがわかります。これは精度の高いスピーカーやヘッド / イヤフォンで聴いていただくとわかりやすいかと思います。
で、これがベースが入ったサビの波形を分析したものです。ベースが全体的に空間を埋めたため、200Hzから1KHz付近(特に200Hz付近)の周波数が全体的にAメロより大きく鳴っていることがわかります。これによって、楽曲自体がどしっと、主張と説得力を雄弁に掴んだ印象になります。(ぱっと見微差に見えますが、これだけでかなり音の印象は変わります)
さらに、下の図のImagerをみると、ベース(+シンセ、コーラス)の効果でステレオがぐっと広がりました。これによって、シンプルな楽曲の鳴り方を邪魔することなく、楽曲が左右に広がり、ドラマティックな印象になったことが分かります。
特に2010年代以降の楽曲の傾向かと思いますが、このステレオイメージを巧みに使うことで現代的なサウンドを構築する手法をよく耳にします。30年前の楽曲と今の楽曲の傾向が異なる、と記事で触れられていますが、今と昔で一番違うのは仕上げの工程であるミックス、マスタリングなんじゃないかと個人的には思います。「ミックスは編曲の一部」と言える時代性かなと。
僕の曲でステレオイメージを拡張することで曲に立体感を出してみた作品といえば、伸びやかなボーカルとサビのヴァイオリンを主役に立てた「Love Song」です。ぜひ聴いてみてください。
音色の使い方が無限大なDTMならではのサウンド
編曲面で言えば、Pro Toolsに代表されるDTM(Desktop Music)の環境下で作る楽曲は、アナログレコーディング時代に最強のエンジニアさんたちが工夫されていたと仰る「トラック数制限」から無限に解放された前提のもとで成り立っています。
Shake It Offでドラムに混ぜてTR-808を使っているように、現代的なトラックにはFx(効果音)や曲の中でその1回しか出てこないアクセントになる音色をふんだんに使います。そのため、曲の印象が一瞬大きく変わったり、ブレイクの作り方が一瞬無機質だったり、様々な「サウンドデザイン=音響特性の活用」のセンスがものを言うようになったと僕は感じています。
トラックを聴き比べて、なぜかこっちの方がおしゃれに聴こえる。そう思える楽曲には必ずと言っていいほど、「演奏者の手癖」「聴こえない領域で作る空気の色味の妙」が効いています。ここが聴き分けられること、ここを作り込めること、RECで達成できることが、曲のクオリティの明暗を分ける、そう僕は信じています。
あ〜、Shake It Offをこんなに真剣に聴いたのは初めてでしたが、改めて化け物のような曲と歌だな・・・もっともっと頑張れ自分。全然、修行が足りませぬ。