最初から最後まで見届ける人になりたかった
肩書きの意味を考え続ける。
肩書きに囚われる必要もないし、これからはますます個人の名前が肩書き化していく時代になる。
「あの人ってああいう仕事するよね!」ってみんながイメージできたら、わざわざ肩書きをつける必要もない。けれど、その領域にたどり着くためにも、先人たちが築き上げてきた仕事の上に立つ「肩書き」の意味を、自分なりに考え続けないといけないなと思う。
「映画プロデューサー」という肩書き
2017年から、つくり手として映画に関わるようになる。松居大悟監督作品の「アイスと雨音」そして「君が君で君だ」。それは同時に、「プロデューサーってなんだろう?」この問いに向き合い続けてきた時間でもあった。
ここからは映画「アイスと雨音」パンフレットに寄稿した文章を部分的に借りつつ、書いていきたい。
これまで僕は、松居大悟監督作品『自分の事ばかりで情けなくなるよ』『ワンダフルワールドエンド』『私たちのハァハァ』に携わってきた、それはコピーライターとして。
広告会社に入社し、コピーライターになった僕は、大学のクラスメイトである松居監督に再会する。言葉にできない感情を映画で伝えようとする彼の映画が眩しかった。映画を届ける力になりたくて、「俺が書く!」と、自ら志願してコピーを書いてきた。
完成した作品をどう言葉で届けるか、最後にバトンを託される。考え抜いて、書き上げて、「このコピーで行こう!」と決まる打合せの充実感。やり甲斐の塊だ。
でも、でも、でも。満足しきれない自分がいた。映画が放つ、眩しさそのものをつくりたくなった。そうして僕は、2017年1月に、映画のプロデューサーをできる部署に異動した。
それから間もなく、ふたりで居酒屋に集合する。乾杯して早々、口火を切る松居監督。「舞台が中止になって、映画をつくろうと思う」。彼はつづけて言う。「このままじゃ終われないんだ…」と、心にくすぶる悔しさを聞く。帰り道、じっと考える。今この瞬間が、何かのはじまりだと思った。「やろう、絶対やろう」熱っぽく、僕はメッセージを送っていた。
怒涛の日々がはじまる。オーディションの告知をつくる。強い意気込みをビジュアルに表現したい、そのためにはアートディレクターの力が必要。そう思い、同期のアートディレクター高橋理くんを巻き込む。
涙の雨で滲む「急募」のビジュアルから決まった、8名のキャストたち。「いつか仕事をしたい!」と願っていたMOROHA。MCのアフロさんからは、「ようやく同じ旗のもとですね」と声を掛けてもらう。
下北沢の稽古場に顔を出す。真剣でいて、温かい空気で満ちていた。会社に戻り、社内でプレゼンを重ねる。製作の体制をつくるのもプロデューサーの仕事。会社と現場を行き来する日々がつづく。
本番当日、カットの声がかかり、劇場に入る。しばらくして、松居監督の「オッケー!」が響いた。中止になったという現実に、悔しさを抱えた日々に、ようやく監督はそう言えたんだと胸が熱くなった。(この制作過程については、ドキュメンタリーを担当してくださったエリザベス宮地監督が、とてつもない作品をつくりあげたのでお知らせできるのが楽しみ)
映画が完成した後、今度はコピーライターとして、この映画を観るべき人に届けと願いを込めて…
「私たちの青春は、もう止まらない」
「本当にやりたいことは、絶対止めちゃいけない」
というコピーを書いた。
映画は、人間が集合して完成する。いろんなことが起きる。仲良くなる。真剣だから揉めることもある。それらすべてを乗り越えてつくりあげていく。僕が映画に感じた眩しさの正体、それはたくさんの感情の煌めきだった。
最初から最後まで見届ける人、それがプロデューサーなのかもしれない。
そんなことを思った。その答えは、これから変わっていくかもしれない。でも、頭で考え続けて、体で検証して、答えを育てていければいいと思う。自分なりの「プロデューサー」像をつくりあげていければいくために。
僕にとってのはじまりでもあった「アイスと雨音」。
いよいよDVD&Blu-rayが発売になりました。中止になった現実。それでも舞台に立とうとする青い春。お客さんに、劇場さんに育てられて、いよいよみなさんのお手元に。配信もされています。
最初から最後までしっかり見届けていきたい。そして、これからもつくり続けたい。次の最初はもうはじまっている気がする。新しい扉の向こうへ。
・・・と言っていたらほんとうに扉の向こう側に行ける日がきそうだ。
2019年2月12日(火)に下北沢本多劇場で映画「アイスと雨音」は上映される。
「舞台が中止になった劇場」で、「劇場に突入する映画」が、上映される。
現実なのか、夢なのか。ラスト、どんな気持ちになるのだろう。そこに来てくれるお客さんとともに、新しい結末をつくれる気がして、楽しみでならない。ほんとうに楽しみでならない。このつづきをまた書ける日がくるといいなと思いながら。
※つづき※
全世界の人たちに見てもらえることになったよ。こんなつづきは想像もしてなかったなあ。