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パリの黒人ミサンガ売りとマインドブロック

数年前にフランスのパリを一人旅したときのことです。

黒人大男のミサンガ売りグループ

丘の上に建つ「サクレ・クール聖堂」という美しい教会を訪れました。

目の前の広場脇にある坂道を登りながら前方を見ると、黒人の男数人が道をふさぐように立っていました。
通る人全員に声を掛けていて、見るからに怪しい。
自分の前を歩いていた二人連れも、ちょうど捕まってしまいました。

自分は一人ですので、身軽に行動できます。 なるべく関わり合いにならないように道の端を通って、ススっと通り抜けようとしました。
しかし、黒人の大男のうち一人は私の進路に立ちふさがり、何やら声を掛けてきます。 私は無視して脇を通り抜けようとしました。

すると男は私の腕をつかんで、歩けないようにしてきたのです。
私は「No!No!」と言いながら男の手を払おうとしたのですが、すごい力でがっちりつかまれて振りほどけません。
こちらが力を入れるほど、さらに強い力を込めてつかんできます。

そうしているうちに、もう一人の黒人男の仲間も私達の様子に気づいて近づいてきました。
大きな黒人男に体の自由を奪われて、私は身の危険を感じました。

 やってきた仲間は逃げようとする私の手首にミサンガを巻こうとしてきます。
どうやら、ミサンガを売ったことにしてお金を請求するつもりのようです。

私はミサンガにお金を払うつもりはないので、腕に取り付けられないように体に力を込め続けて抵抗しました。
黒人男達は「他の人もやっているから大丈夫」ということを英語で言って、隣で同じように捕まっている人を指し示してきます。

何を言っているんだ。 他の人もやっているなんて理由になるか。
お前らが片っ端から観光客を捕まえているだけじゃないか。

黒人男たちは抵抗を続ける私をなだめようと「どこから来たの?中国?日本?韓国?」ということを英語で聞いてきます。
私が「Japan」と答えると「こんにちは」とか片言の日本語で色々話しかけてきました。
でも、自分はどうこの事態を抜け出すかを考えていたので、よく覚えていません。

抜け出そうにも、ごつい黒人男に2人がかりで迫られたら、力での突破はムリです。
仕方がないので、おとなしくミサンガを巻かれることを受け入れるしかありませんでした。

最初に声をかけてきた男が私の左腕をがっちりつかんだまま、もう一人がミサンガを私の手首に巻いてきました。
色のついた紐が何本かより合わされただけの、いかにも材料費がかかっていなさそうな安っぽいミサンガです。

ミサンガを巻き終わると、最初に声を掛けてきた男はようやく私の腕をつかむ手を離しました。
次の観光客を捕獲しに行ったようです。

しかし今度は代わって、ミサンガを巻いた男が私の腕をつかんでいます。
黒人男は「金を払え」ということを言ってきます。

冗談じゃない。
こんな嫌な思いをさせられて、お金なんか絶対に払わない。 それがたとえ、1ユーロくらいの少額であったとしても。

私は思いっきり嫌そうな顔をしながらひたすら「No!No!No!No!」を連発しました。
金の支払いに応じる気配は一切見せず、腕を振り払ってその場を離れようとし続けます。

すると、黒人男はようやく私が手に負えないヤツだと認めたのか「わかった、ミサンガを外す」と言ってきました。
金を払わないのであれば、ミサンガは回収したいようです。

そこで私も力を抜いておとなしくすると、男は私の腕をつかむ手を離してミサンガを外し始めました。
私は男がミサンガを外し終わるまでじっと待ちます。
そしてミサンガが手から外れると後を振り返ることなく、急いでその場を離れました。

ようやく自由になってからも嫌な気分がしばらく残ったままで、また誰かにからまれるのではないかと落ち着かない気分でした。
せっかく美しいサクレ・クール聖堂を楽しみにきたのに、とんだ災難でした。

サクレ・クール聖堂(筆者撮影) 

列車内のギター弾き

この旅行での別日に、共通点を感じる似た体験をしました。

有名な観光スポット「ベルサイユ宮殿」に向かうため、高速鉄道に乗ったときの話。
私は乗り込んで席に座り、電車が発車した直後のことです。

突然、列車内で男がギターをかき鳴らしながら歌い始めました。
そして、ひとしきり勝手に演奏して歌い終わると、帽子を持って乗客からお金を集め始めたのです。

私はお金を集める男と目を合わせないようにしてやり過ごしてお金は払いませんでしたが、払っている乗客もいました。

「おまえの演奏と歌を聞くために電車に乗ったわけじゃないぞ。金なんか払うか!」という心境です。

ただ、お金を集めるやり方としてはうまいなと、感心しました。
列車に乗っている人は演奏を聞くつもりがなくても、その場から立ち去るわけにはいきませんからね。

演奏さえすれば確実に聞いてもらえるわけです。 お金を集めて回っている間も、乗客はその場に座って待っていてくれます。
道や公園で演奏するよりも効率がいいですね。

こういうのを見ると、なかなかたくましくお金を稼いでいるなと思います。

お金の稼ぎ方のマインドブロックに気付いた

この2つの体験から学んだのは、私は「お金の稼ぎ方に勝手に壁を作っていた」ということです。

日本だったら「営業の許可は得ているのか」とか、すぐそういう話になります。
「電車の中で演奏してお金を集めよう」とする人もいません。

知らず知らずのうちに、自分で狭い常識の範囲を作って、その中でしか考えられなくなっていました。

でも、自分が行動できる範囲は、本当はずっとずっと広かったのです。
自分の常識外の行動を他にもたくさん見て、それが日常として受け入れられている世界を見て、ようやく気づけました。

つねにお金を得る機会をうかがっているのがフランス流、というか日本以外での世界標準だと感じます。
いろいろな国を旅行しましたが、どの場所でもお金を得ることへの必死さや貪欲さがもっとありました。

自分で勝手に作っていた「お金の稼ぎ方」の壁が壊されて、その壁を認識できたことは、私にとって大きな経験でした。
マインドブロックがあることには自分では気づけません。

日本にいると、リスクへの許容度がバグっていると感じることがよくあります。
みんな心配しすぎです。

Webライター関連で、こんな質問をされたり、話を見かけたりします。
「◯◯するには許可が必要か?」とか「もし◯◯という問題が起こったらどうするか?」とか。

海外でたくましくお金を得ようとしていた人たちの姿を思い浮かべると、本当に別世界です。
安全にいこうとすればするほど、人は弱くなると感じます。

「サクレ・クール聖堂」の前で黒人の大男に腕をつかまれたときは怖かったし、イヤな思いをしました。
でもいま振り返ると、おかげで記憶に刻まれるいい経験になっています。

今後、黒人男のミサンガや列車内での演奏と同じような経験をしたら、気前よくお金を払ってみるつもりです。

そういう経験からしか得られない何かがある気がしています。

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