『スタートアップ投資のセオリー』序章を読む
Sozo Ventures の中村 幸一郎様がカウフマン・フェローズ・プログラムと協力して執筆された本書について、私個人の視点から内容を整理いたしました。
タイトルにもある通り、本書は「マジック・アイ」の裏にある基本原則、VC投資の科学的手法をVCの目線から紹介しており、スタートアップ投資の全体像を掴むことができます。
この記事では、序章の内容を扱います。
序章 Body
序章のメインメッセージを一言で述べると、
「VCのハンズオンはNGである」
となります。
ここで言う「ハンズオン」とは、VCがスタートアップ企業の経営に入り込み、手助けし、成功に導くこと、その過程や姿勢を示しています。
「VCは指導する側」「スタートアップは指導される側」
という印象をお持ちの方は多いのではないでしょうか。
VCが投資先の経営に深く入り込み、あれこれ指導する、そのような姿は容易に想像されます。
このような姿勢が必ずしも悪いというわけではありません。しかし本書で強調されているのは、
もしあなた方がプロのVCであるならば、
その分野のビジネスについて世界一詳しい、スタートアップに投資をせよ
ということなのです。
大成功を収めるスタートアップ企業を見つけ投資をしたいならば、当然のことながら自分たち(VC)よりも圧倒的にビジネスのことを知っている人たちに投資をすべきであるのです。
では、VCの役割、存在意義とは一体何なのでしょうか。
本書では、
VCは自分の価値を営業する仕事
と述べられています。
「ハンズオンはNG」という言葉からも分かる通り、VCの役割はあくまでも、起業家がやって欲しい周辺の仕事を担うことであるのです。
その「周辺の仕事」において、自ら価値を発揮する、つまり「下働き」的な立ち回りが求められるのがVCなのです。
「周辺の仕事」としては、たとえば、
特殊な専門性を持つ人材の採用
接点がない顧客・パートナーの紹介
財務や法務専門家の紹介
メディア対応
などが挙げられます。
起業家は自らの会社に全身全霊を尽くし、目の前の問題を解決する「部分最適」な行動が求められ、
VCは業界全体の動向やより長い時間軸で、その会社が取るべき方針を見定める「全体最適」な行動が求められるのです。
その点においても、VCはハンズオン的に手を出すべきではなく、適切な役割分担の上で下働き的な貢献が重要となるのです。
しかしここまでの話で前提となるのは、まずはVCが、
その分野のビジネスについて世界一詳しい、スタートアップを探し出す必要がある
ということです。
ユニコーンを目指すポテンシャルを秘めたスタートアップ企業を見つけ投資機会を得ることができなければ、「ハンズオンはNG」などと豪語する余裕は生まれないでしょう。
そのためには、当然なことながら合理的な方法で、スタートアップ企業の競争力を測定することが必要となります。
その合理的な方法とは何かを一つ一つ紐解くのが、本書の全体像となるわけですが、
その一例として序章に興味深い調査結果が示されていました。
それは、
成功する確率が高いスタートアップの集団と、大多数の成功しないスタートアップの集団では、初期段階で明確な差がついている
という事実です。
これは、スタートアップ投資が確率論的なゲームではないことの裏返しでもあります。
最近はスタートアップ向けピッチ大会なるものをよく目にしますが、ピッチを見て、起業家の熱量に感銘を受けて、投資を即断するなどといった行為は本質的ではない、ということでもあります。
また、
合理的な方法でスタートアップ企業の競争力を測定する
この当たり前のプロセスができていないVCが日本国内に多く存在しているとも述べられています。国全体でスタートアップ投資を活性化するにはVCの高度化が必要なのです。
最後に、スタートアップが国の成長にもたらす影響について触れて終わりとします。
スタートアップは国の成長エンジンである
この言葉を裏付ける複数の研究結果を本書は例示しています。
この他にも、
といった研究結果が示されています。
合理的で正しいスタートアップ投資が活性化することで、社会全体に対し大きなインパクトを与えることができるのです。
序章 Summary
VCのハンズオンはNGである
自分たちよりも、はるかにビジネスのことを知っている人たちに投資すべきである
VCは自分の価値を営業する仕事である
VCの役割は、起業家がやってほしい周辺の仕事を担うこと
起業家=部分最適、VC=全体最適
SUの初期段階における差は顕著である
成功する確率が高いスタートアップのプールと、大多数のそうでないスタートアップは、初期のころから明確に分かれている
合理的な方法で競争力を測定することが必要
スタートアップは国の成長エンジンである
ここまで読んでいただきありがとうございました。
次の記事は
『スタートアップ投資のセオリー』第1章:ユニコーンを見つけるレンズ
を扱います。ご関心がある方は、ぜひ覗いてみてください。