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わからないままにしておく勇気

 僕は、生きることに苦労した人の作品に惹かれる。若くして病気でなくなった文豪、死への欲望に誘われながらも抵抗し続けた哲学者、自殺未遂を起こした作家などの作品を手にしていることが多い。作品を読むまで知らなかったが、作品を気に入ってその著者の自伝や伝記を調べていると、著者がそういう経験をしていることが多い。
 思いつく人物でいえば、芥川龍之介、キース・ヘリング、ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタイン、エリック・ホッファー、デヴィット・フォスター・ウォレス、荻原慎一郎が挙げられる。小説家や詩人から芸術家まで様々だが、作品にはっきりとした共通点がはあるわけではないが、どうしてか彼らの作品に惹かれてしまう。

 自ら死を選んだ人物の自伝や伝記をみていると、大きく2つの傾向が読み取れる。自分が見ている世界がどんどん小さくなって点となって消えてしまうパターンと、世界がどんどん大きくなってしまい自分自身が消えてしまうパターンだ。
 学校でのいじめを苦にして自ら死を選んだ子供は、いじめに遭遇する前後で日記の書き方が変わるそうだ。被害に遭うと、それまで書かれていた日付や天気についての文言がなくなり、学校での出来事だけが書かれるようになる。学校で1日生活しているわけではないので、家や外での生活についても書けるはずだが、それができなくなる。日々の出来事は、学校での出来事だけとなり、そのとき感じた自分の苦しみへと意識が向き、自分が見ている世界がどんどん小さくなっていく。どんどん小さくなっていく焦点は、最後は点となって消えてしまう。

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当たり前だと思っていたことを疑うと、新しい発見があるかもしれない。繰り返しの毎日にスパイスを与えるエッセイ集

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