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フェイクという味方

 僕は、大学時代を哲学の研究に費やした。学者への道に進む勇気はなかったけれど、大学院に進み研究をした。「真理」というものを追い求めていたつもりだった。巷でよく見かけた「テレビでは語られない真実」や「教科書には書けないホントのこと」の類のものには見向きもせず、学問としての事実や真実を探究することが、人間のやるべきことだと思っていた。僕は若かった。

 周囲の人間やネットを見るかぎり、多くの人間は真実や事実をそれほど求めていないことに気づいた。真実や事実というのは単純なものではなく、さまざまな但し書きや条件があって、その先でやっとのことで示される。一言で言い表すことができるような単純なものではなく、興味をそそるものでもないことが多い。長い歴史の積み重ねによって導かれた発見や研究結果は、専門家ではない一般人からすれば、その凄みがわからない。
 それよりもっと意外性があって、衝撃的でハラハラする情報を人々は欲する。解説なしで一目見てわかる事柄がいい。長い説明文は読みたくない。インパクトは大きいほどよい。
 その結果、芸能人や政治家にまつわるお金や人間関係、はたまた健康状態が取り上げられることになる。エンタメや週刊誌が人々から求められる理由は、ここにあるのだろう。

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当たり前だと思っていたことを疑うと、新しい発見があるかもしれない。繰り返しの毎日にスパイスを与えるエッセイ集

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