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【無料公開】怒号を飛ばす人を観察

 「怒号が飛ぶ」は、大声で怒鳴りつたり、相手を叱責したりすることを指す。「怒鳴る」「声を荒げる」「罵る」という言葉も同じような意味で使われる。
 学校現場やビジネスの現場で怒号を飛ばす人を何人か見てきた。僕自身が怒号を受けたことはほとんどないが、怒号が飛んでいる空間に居合わせたことは何度もある。

 どうして大声で相手を叱責するのだろうか。僕が見た限りだと、怒号を飛ばす人は、自分自身の責任や失敗を恐れていたり、どうしてこうなってしまったのかという後悔にさいなまれている。仕事でいえば、部下の仕事の失敗に怒鳴っている上司は、その失敗に対して自分が責任を負うことを受け入れられなかったり、もっと早く気づいておけば、あるいは手を回しておけばと後悔していることが多い。
 仕事の進捗が遅れている報告に対して「どうしてできないのか」「遅れているんだぞ」という怒鳴りは、その遅延によって自分が責められたり、評価が下がることを気にしている。怒鳴っている上司もまた、誰かに怒鳴られているのかもしれない。そのような上司に、遅延の理由を明確に述べても納得はしない。上司はどうして遅延が発生しているのかよりも、自分の身の上を心配している。上司は「とりあえず遅れを取り戻せ」という。

 問題が起きたときにやるべきことはシンプルだ。さまざまな方法論が語られているが、簡単に言えば、原因を分析して、分析内容を吟味して評価を下し、行動へ移すことになる。トラブルが発生しているときに、怒号は必要ない。発破をかけるために、普段と異なる声掛けをする必要があるかもしれないが、怒号である必要はない。
 そう考えると、怒号を飛ばす人は、仕事のために大声を出しているのではない、自分のために行っている。他の人のためと言いつつ、自分のストレス発散で行っているのだとすれば、偽善だといえる。自分が上司の立場になった時には、怒鳴らないように注意したほうがよい。

 怒号を飛ばす人や、罵る人に注意するのは難しい。怒号を飛ばす人は、声を張り上げることで相手が行動を改めたり、反省することを期待している。そう期待している本人もまた、自分自身が怒号を飛ばされないと行動が改められない、と思っている。その本人に「大声で叱らないで!」と大声で叱ることは矛盾する。
 この矛盾を解消するためではないと思うが、現代では、怒号を飛ばすこと自体がハラスメントとしてみなされるようになった。

 小型犬は、自分の体が他の生き物に比べて小さいために、身を守るためによく吠えるそうだ。吠えないようにするには、周囲の脅威を取り除くか、それが脅威ではないと教えて、安心させる必要がある。
 同じことが怒鳴る人間にもあてはまる。怒鳴る人が不安に思っていることを理解し、その原因を取り除き、不安をやわらげる必要がある。「遅れはこうすれば取り戻せます」「明日までに対応できます」と伝えると少しは落ち着くかもしれない。

 自分が誰かに怒鳴りそうなときは、大きく深呼吸をして、どうして自分が怒鳴りそうになったのか見つめなおそう。よく思われたいという世間体や失敗したくないという思いが原因になっていることが多い。「自分ではなく相手のために怒鳴っている」は、もう理由にはならない。

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