【無料】インターホンに出ない日々
昔は、インターホンが鳴ると何も考えずに受話器を取っていた。カメラ付きインターホンが登場してからは、受話器を取る前に玄関前に誰がいるのか映像で確認できるようになった。そのおかげで、セールスや勧誘のような一方的な訪問者を無視できるようになった。それまでは、つい反射的に受話器を取ってしまい、むげに断ることもできないまま話に付き合わなければならなかった。セールスの人間もそれを見越して図々しく訪れてきた。
法律やカメラの登場もあってか、訪問販売や勧誘目的の来客は少なくなった。それでも、歓迎していない訪問者がときどきやってくる。カメラで訪問者を確認して、出る必要がないと判断したら僕は無視するようにしている。外から見れば部屋の電気はついているし、窓も開いているのがわかるが、お互いに得をしない結果になるので、こうすることに決めている。
そうであっても、カメラのモニターを確認するためにいったん手を止めるのが面倒だ。すべての訪問者を拒絶しているわけではない。頼んでいた商品を運んでいる宅配業者や近所の人が訪問することもあるので、モニターを確認しないわけにもいかない。電話のように、折り返しこちらから対応することもできない。
幸せなことに、いまは自分にとって重要な訪問者がいつ訪れるのかわかるようになった。仕事関係や親しい人であれば、事前に時間の約束をしてからやってくるので、おおよその時間がわかる。運搬業者も到着日時がわかるサービスを提供するようになったので、訪問タイミングを予測できるようになった。最近は、置き配指定ができるようになったので、インターホンが鳴ることなく配達してもらえるようになった。そう考えると、インターホンは転換期を迎えているのかもしれない。
カメラにAI機能が搭載されると、訪問客の容姿や制服などのデータをもとに、訪問者がどういう人物なのか即座に分析できるようになるだろう。事前に特定の業者を許可していれば、業者の制服やロゴをもとに、必要に応じて住人に通知を送ることができる。通知は、専用の受話器でなくスマートフォンで受け取ることができ、スマートフォンで直接カメラの映像も確認できる。
近隣住人や知り合いも、事前にカメラの前に立ってもらって、認証登録をしておけばよい。同じ背格好の人が現れたらインターホンが反応するようにしておく。そんな未来ももうすぐやってくるだろう。
ここまで来ると、インターホンは必要がなくなる。これまでは訪問側がインターホンを押すことで、家の住人が呼び出される形であった。カメラが自動認識で訪問客を判断するようになると、相手が自分にとっての来客かどうかは、住人側が判断するようになる。
見ず知らずのセールスマンが突然やってきたとしても、住人に通知は届かないし、セールスマンはインターホンのボタンがないので住人を呼び出すこともできない。万が一、知り合いが同じ目に遭ったとしても、玄関前から到着したことをメールやチャットで連絡すればいい。
AI搭載カメラと郵便ボックスが連動するようになれば、訪問客によってボックスの開閉を自動制御するようになり、広告やチラシの投函を未然に防ぐことができる。わざわざ「チラシの投函はお断り」というシールを貼らなくてもいい(僕は貼ったことはないけれど)。
現在でもスマートフォンで玄関の鍵を開け閉めできる。AI搭載カメラがあれば、住人がカメラの前に立って手を上げるだけで、ロックの制御ができるだろう(すでに存在しているかもしれない)。
そう考えると、インターフォンだけではなく、家の鍵や郵便ボックスも変更を求められる。玄関というイメージも変わるだろう。家で靴を脱がない文化圏であれば、玄関から家のなかへ入る必要もなくなる。
そうやって想像を膨らましてみると、僕たちはインターフォンを使用する最後の世代かもしれない、とふと思う。そう思うと、少しだけインターフォンが名残惜しくなる。
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世間のあたりまえを疑ってしまう
当たり前だと思っていたことを疑うと、新しい発見があるかもしれない。繰り返しの毎日にスパイスを与えるエッセイ集
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