オレは女が嫌いだが 10
しがないサラリーマンの京平はひょんなことからアロハシャツの女探偵、朱里の助手にさせられる。朱里と京平は仕事のために神戸に向かうが、到着してみると別行動。京平を待っていたのは謎の人妻……。
「マサヒコ君!」
女がこちらに向けて叫ぶ。マサヒコ? あー、オレじゃないな。
そう思ってよそを向くと、またクラクションが鳴った。遂に女は車から降り立ち、こちらに向けて歩いてきた。ネイビーのワンピースから覗く腕と脚が見事に白い。
「もう! マサヒコ君!!」
そう言って女はオレに腕を絡めた。
「え? へ?」
一体どういうことだ? 朱里に説明を求めようとあのメモを取り出す。そして女の降りて来た車と見比べる。このナンバーだ。
「行くよ、マサヒコ君!」
神戸美人らしい、柔らかなイントネーションと肘に当たる柔らかな感触に頭がボーッとしてきた。まずい。
まずいとは思いながら、存外力強い女の腕に引かれ、オレはアウディの助手席に収まった。
なんとなく読めた。この女は人妻で、朱里はこの人妻と旦那を別れさせる工作を引き受けたのだろう。そして、そのためにオレは駒として扱われている。許せない。
電話で朱里と話そうと思うが、神戸美人妻はマシンガンのようにしゃべる。コテコテの関西弁ではなく、ちょっと知性のある上品な感じのする口調だから恐怖は感じないが、少なくとも朱里に電話する隙は与えてくれなかった。
そしてたどり着いたのはラブホテル。
恐らく、朱里はこの近くで張っているのだろう。そしてオレとこの人妻がホテルに入って行くところでシャッターを切るに違いない。オレは血眼で、周囲を見渡したが、朱里の姿は見つからなかった。
こんなところで朱里のプロ意識の高さを見るとは思わなかった。
「じゃ、私、先シャワー浴びるから」
その言葉を置いて、神戸美人妻はバスルームへと消えて行った。
さすがは神戸美人妻の使うほどのラブホテルであるから、内装から外観から壮観で、下手なホテルに泊まるよりずっと快適だろうと感じた。
いやいやいや、そこじゃないから、オレ。
ここから抜け出さにゃだろ。なんとしても。
そろりそろりと足音を立てぬように出口へ向かった。そしてドアの取っ手上にあるカードリーダーを見て、固まった。ルームキーをそこに入れなければ、この部屋は開かないらしい。なんと……。
ルームキー、どこだ?!
そこからオレのミッションインポッシブルが始まった。とにかくルームキーだ。ルームキーを探せ!!
手当たり次第探すが見つからない。そこでふと思う。オレならどうする? オレなら、自分の一番近くに置いておく。そうか、脱衣所だ……!!
オレは脱衣所へ急いだ。
続く
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