おんぶ
「おんぶ、しましょうか?」
終電間際、最寄り駅のホームで、突然見知らぬ青年にそう言われた。正直、ビックリした。ただでさえ大きな私の目はパッチリと見開いた。
確かにそれなりに酔って、新しい靴を履いているので靴擦れもしていたからはたからは見ていられない様子だっただろう。でも、だからと言って……。
おんぶ、されてしまった。通勤用のリュックを前に背負い、私を背中に青年は階段をのぼる。男の人ってすごい、こんなこと出来るんだ。ちょうど青年の首筋が鼻の辺りに来る、いい匂いがする。くそう、なんだよ、ドキドキするじゃないか。
「重たくないですか?」
そう、私は決して軽い部類じゃないんだよな。水泳をやっていたから肩幅だけやたらと広くて、ずんぐりむっくりと言うか、絶対重い。
「全然、重くないですよ。今日は結構飲んだんですか?」
ウソ、絶対重いよ。でも青年の言葉は嬉しかった。思わずニヤニヤしてしまう。
「飲みました、飲んじゃいました」
「なんかあったんですか?」
階段をのぼり終え、改札前で彼が私を背中から下ろす。自動改札機にカードをかざして改札をくぐった。
「うーん、あったようななかったような」
「どっちですかそれ?」
また彼が腰を低くしてかがみこむ。私もまた遠慮しながらその背中に身を預ける。
「あーあ、どうにかなっちゃいたいなー」
「どうにかなっちゃいます?」
「バーカ」
タクシー乗り場の前で彼が私を下ろす、お別れだ。最初で最後の人、一度しか会わないたった一度きりの私に優しくする彼、不思議だ。
「じゃ、これで」
彼はそう言って何事もなかったかのようにタクシーに乗り込んだ私に手を振る。なんだよ、気があるからこういうことしたんじゃないのか。こんな優しさ、いらない。
「ねえ」
「なんですか?」
「お礼、させてよ」
「礼には及ばん」
そう言うと彼は背を向けて右手を上げてひらひらと手を振った。また終電間際に靴擦れしてやろうか。そうすればもう一度、会えるかな。
おはようございます、こんにちは、こんばんは。 あなたの逢坂です。 あなたのお気持ち、ありがたく頂戴いたします(#^.^#)