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半チャーハンと味噌ラーメン

「半チャーハンも食べれるでしょ?」

 ラーメン屋で隣の席に座る洋子さんに肩を寄せられる。

「食えないってば」

 洋子さんはボディタッチがすごい。さっきもサラッと太ももを触られた。そういうの、やめてくれよ。

「分かった、半チャーハンも食う」

「うんうん、それでいい。男の子だもんね」

 納得したのか、洋子さんは体を離してくれた。ほっとした。

 ラーメン屋でいちゃつくカップルってどうなんだろう。考えるまでもない、うざいよな。

 オレは、とある駅前のコンビニの店員である。そして洋子さんはそこに通う客だった。

 いつも同じタバコを買っていくのですぐに覚えた。そのうち、洋子さんの顔を見るなりタバコを取り出そうとするので洋子さんに話しかけられた。

 オレはどうも、そこそこ顔がよく、とびきりに愛想がいいらしい。

 ので、時々こういうことがある。

「連絡くれませんか?」

 ケータイの番号と英文字と数字の羅列、中川洋子、という名前。

 はじめて会ったのはチェーンのコーヒー店。オレは行ったことのない店で、洋子さんにすべて任せた。

 そこで色々話をした。オレが名もない大学の学生であることとか、洋子さんには離婚歴があって子供がいることとか。

 そして、彼女はお開きになるかなというタイミングで言った。

「高校から6年付き合った彼氏がいたのね」

「うん」

「結婚しようって言ってた」

「そっか」

「交通事故で亡くなって」

「え?」

 お互い言葉に詰まった。あの瞬間、同情した。洋子さんに同情して、オレはそれが好意に変わって行くのを感じた。

「うっぷ、半チャーハン食えん」

 味噌ラーメンを食べ終えたオレが言うと、洋子さんは笑う。

「あーん、したげるから。食べれるでしょ、蓮」

「うっさいな」

 自分でレンゲを使って、口にチャーハンを運ぶ。

「ねえ、このあとどうする?」

 洋子さんが濡れた瞳でこちらを見る。はじめて二人で会った時から分かっていた。この人は自分に抱かれたがっている、と。でも、オレには出来そうになかった。

「ん? 帰る」

 わざとらしく視線を切り、チャーハンに集中しているふりをする。洋子さんの温度が引いていくのを感じる。

 帰り道、手を繋いで歩いた。

「洋子さんさ」

「何、蓮?」

「もう会うの、最後にしよっか」

 路上で立ち止まると、洋子さんがオレの腕をつかんだ。

「なんで?」

 必死な目に、力が戻っている。

「オレ、洋子さん不幸に出来ないわ」

 にへらと笑って言った。

「なんで、蓮、彼女とかいないでしょ?」

 オレは言葉を返さずにひとつ、頷いた。

「洋子さんさ、オレに私のこと好きかって聞いたでしょ?」

「うん」

 オレは頭の後ろをかいて、通り過ぎて行く人の視線を感じる。いい女を泣かせる男は悪だと相場で決まっている。そりゃそうだ。

「こうして、三回も会うのは好きだからだと思う。でも、オレ、平たく言うと洋子さんに同情した」

「なんのこと?」

 洋子さんの目が険しくなる。

「彼を亡くしたことに対して、同情した。大変な経験したんだろうなって、それが好意に変わった。だから、これは愛情じゃないんじゃないかって」

 ついに洋子さんが目元を押さえた。悪者確定。

「そんなさ、誰かに大切にされた女、粗末に扱えん、オレは」

 オレは背を向けて歩き出した。

 帰って、スマートフォンを確認するとメッセージが入っていた。

『蓮、思わせぶりだったね』

『でも、ありがとう』

 胸は苦しくて、でもそれでも愛しくて。抱いておけばよかったなと思う反面、抱かなくて本当によかったと思った。最後にもう一通着た。

『蓮はさ、優しすぎるよ。またコンビニ行くね』

 繋がった意志は誰かの中で生き続ける。そこに肉体的な接触は必ずしも必要ではないんじゃないかと、オレは思う。

Fin

おはようございます、こんにちは、こんばんは。 あなたの逢坂です。 あなたのお気持ち、ありがたく頂戴いたします(#^.^#)