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節電気分の東京、そして経済に必要なこと / 森を創る民のささやき

「森を創る民のささやき」ブログでの記事(2011年5月6日)とその追記記事です。

#131  節電気分の東京、そして経済に必要なこと

先の東日本大震災における原発事故発生以降、電力供給不足懸念により、東京をはじめとする関東等の東京電力の供給エリアでは【 節電 】に努める活動が続いている。

「店舗内での照明控え」「列車の節電ダイヤ」等は慣れてしまえば、日常生活に支障が無いと感じる。また、供給電力量と需要電力量を目に見えるようにしたことは、一般生活者が日々の生活を給与内に収めるとするように直感的にわかりやすく、その協力意欲も生まれていると考えられる。

さらに、震災前に【 節電 】【 省エネ 】への協力を国や自治体等が呼びかけた頃と比べれば、今の対応状況は皆積極的であり、これは、協力しなければ自らにも影響があるという緊迫性がなければ、真剣に取り組まない、ということを証している。(試験前にあわてて試験勉強を行う傾向のある、日本人に多い特性の一つと考える。)

しかし、2011年4月28日に発表された、主要電力会社が会員として構成されている 電気事業連合会の【 電力需要実績 】の2011年3月分の確報値をみると、いくつかの現象が見て取れる。その一つとして、一般生活者の節電への協力行動はあるものの、その結果的には各個人の【 節電気分 】に終わっているのではないかと感じる。

以下が【 電力需要実績 】の東京電力供給分の確報値である。3年分の値も併記する。

[ 月次 ] 東京電力
(全体)
 2011年3月 22,320,983 千kWh 前年比94.1%
 2010年3月 23,730,733 千kWh
 2009年3月 22,763,543 千kWh

(特定規模需要)
 2011年3月 12,384,274 千kWh 前年比87.8%
 2010年3月 14,106,547 千kWh
 2009年3月 13,303,250 千kWh

以上の出典:「電気事業連合会 電力需要実績」
http://www.fepc.or.jp/library/data/demand/

震災以降、計画停電等の実施が行われた3月における東京電力部分を見てみると、全体での販売電力合計は、前年と比べ減少し、特に【 特定規模需要 】分の発表値をみれば、工場等の製造業、鉄道等の業務用・産業用の電力量は著しく下がっている。(ただし、自家発電分は不明である。)

この合計値から業務・産業分の【 特定規模需要 】を差し引いたものが、一般家庭や一般店舗での一般利用分として見ると、以下のような結果となる。

(推定:合計値から特定規模需要分を差し引く)
 2011年3月 9,936,709 千kWh 前年比103.2%
 2010年3月 9,624,186 千kWh
 2009年3月 9,460,293 千kWh

これらの値を見れば、むしろ増加している。これは、震災直後の自宅待機等で、家庭での滞在時間が増えた分、その電力量が増加したものと思われる。家庭にいても、皆が節電に頑張ったので、これだけでの増加に収まった、という見方もできようが、絶対量でみれば節電となっておらず、各個人が節電したつもりでも全体では節電になっていないという点は否めない。

これら電力量を見ると、電力問題と経済という意味では、以下の3点を考えないといけない。

1.電力分配における、部分最適と全体最適のジレンマ
2.電力増加を前提としている、社会構造の変化
3.自然と共存するライフスタイル


1.電力分配における、部分最適と全体最適のジレンマ
【 エネルギーのリソース制約 】【 経済の最大化 】という点でみれば、業務用・産業用への電力供給を増やし、生産活動を活発化にすることが必要である。一部分が良くても、全体として見ればダメになっているという、いわゆる【 部分最適と全体最適のジレンマ 】に陥っていると考えられる。

上の電力値をみれば、業務・産業分の電力量が減り、その分一般の電力量が増えたことになる。言い換えれば、【 生産活動 】を縮小し、一般の【 消費活動 】、いわゆる個人消費が拡大したことになる。

しかし、日銀が発表している金融経済月報(2011年4月)を見る限りでは、買い貯め行動による消費活発があったものの、個人消費の状況は依然明るくない。また、この時期に生産活動を縮小している分、その分の経済活動への影響は、今後表面化されてくるはずである。(売り物を作って無いので、将来の売り時に商品がない、という状況。)

「個人消費の拡大には生産活動の回復が必要」というのは従来からの基調であり、ここは生産活動への優先的な電力供給が必要である。震災後、生産設備の毀損、サプライチェーンにおける障害等で、生産活動に支障が生じていることもあろうが、設備を無稼働にするよりは動かす方が経済的に有効で、また一般者も家庭にいてテレビ等のメディアに不安感を煽られるよりは生産活動に従事する方が精神的によいはずである。

2.電力増加を前提としている、社会構造の変化
日本という国の経済成長を考えてみると、内需拡大という点では、国民は年々前年よりもモノを買わなければ、実現しなければいけないという構造となっている。人口増加傾向にあるのであれば、前年と同額の消費のままでよいが、人口減少傾向であるので、国民一人あたりの消費(分解すれば、「購入数を増やすか」「購入単価を増やすか」)を毎年増やすことが必要である。

しかし、必要なモノをある程度既に持ち合わせている国民の多くは、新しく買いたいモノはほとんど無く、「アナログ放送終了に合わせたテレビの買い替え」「エコポイントによる家電買い替え促進」「あるいは住宅の建て替え」など既存物の買い替え、テレビ等も1台だけでなく2台目購入などの買い増し、などで消費を行うしかないのが現状である。

単純に見れば、買うモノのほとんどが電気を利用するものであり、一人当たりの家電保有数が増やすためには、供給電力も併せて長期的に増加するという社会構造が必要となってしまう。

「経済成長か安定か」「成長のために必要なこと」「安定の際に必要なこと」など、このような社会構造自体の見直しが必要と考える。

3.自然と共存するライフスタイル
日本、特に東京等の都市圏で、現代の生活をするために、電気等のエネルギーをゼロとすることはほぼ不可能であるが、自然を意識した生活スタイルということも考え始めた方がよい。

たとえば、キャンプ等の自然の場所で一時的にでも生活してみれば、水・電気・火など、日頃当たり前のように使っているエネルギー等の有難味がわかるものである。意識するということ、それが自然と共存するということへの一歩と考える。

都会的な生活を全否定するのではなく、【 パーマカルチュア 】などのような自然と共存した生活に少しづつ近づけていく。そのような意味では、暑い夏に涼を取れる京都での知恵など、昔の日本人から見習うことが多いはずである。


今回の原発問題や電力供給という点での原発依存はすぐに解決するものではないが、この震災をきっかけに、経済、社会やライフスタイルを見直すという時期に来ているはずである。

森を創る民のささやき May 6 2011

上の記事は、10年ほど前の内容だが、「節電」しているつもりは、まだまだ続いていると感じる。夏の時期に、省庁や自治体などではエアコンの利用を抑えてた運用しているが、中で働く職員は、暑すぎて業務できないので、USB扇風機を各自使っているという。エアコンによる使用電気量は減るが、この各自が使っているUSB扇風機の使用電気量を積み上げると、それなりの量になるのではないだろうか。これも部分最適と全体最適のジレンマだと思う。

ちなみに、上記事で使用した電力需要実績を取りまとめていた電気事業連合会では、2016年4月からの電力小売全面自由化の開始などに伴い、これまで通りの集計ができなくなるとのことで、2015年度分(2016年3月分、2015年度下期分、2015年度分)で実績発表を取りやめている。電力小売自由化で、部分的には良くても、全体的にみれば分散されることで、いろいろな弊害がある。これも、部分最適と全体最適のジレンマか。

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