安売りの落とし穴:なぜ価格競争に巻き込まれてはいけないのか
私は都内で営業職をしていますが、
商売をしている方なら、お客様から値下げをお願いされる場面に一度は遭遇したことがあると思います。
お客様の立場からすれば、物価高が続く中、少しでも安く買いたいと考えるのは当然のことです。
値下げ自体が悪いわけではありません。お客様が喜ぶ場面もあり、場合によっては必要な施策です。
しかし、「安易な値下げ」にはリスクが伴います。
1. 利益率の低下
安売りをすることで、当然ながら利益率が下がります。特に農業の場合、肥料や資材、人件費などのコストが一定以上かかるため、値段を下げれば利益がほとんど出なくなるケースも珍しくありません。
さらに現在は物価高の影響で、農家側のコストも上昇しており、価格転嫁が必要な状況です。収益が減少すると、新しい機械の導入や土壌改良といった長期的な投資ができなくなり、経営の継続が難しくなる可能性があります。
2. 商品の価値が軽視される
「安い」というイメージがついてしまうと、商品の価値そのものが軽視される危険性があります。
いちごは非常に繊細な作物で、品質を維持するために多くの手間や時間がかかっています。
それでも価格が低いと、「この程度のもの」と思われ、ブランド力が低下します。
長期的には、お客様の満足度が低下し、リピーターが減る原因にもなります。
3. 利益を取りすぎても問題が生じる
価格を高く設定しすぎて利益を取りすぎるのも問題です。
利益率を無理に確保しようとすると、品質を犠牲にすることを考えがちです
例えば:
• 肥料の量を減らす
• 味より収穫量を優先するため農薬の使用を増やす
• パッケージコストを削減する
などこうした妥協を繰り返すと、商品の魅力が損なわれ、リピーターが離れてしまう可能性が考えられます。
安易な値下げはしないものの、良いものを目指すことは、商売の基本であり前提条件だと思います。
4. 価格競争は終わりがない
一度価格競争に参加してしまうと、
「もっと安くしないと売れない」という状況に陥ります。
他の農家がさらに値下げすれば、それに対抗し続けるしかありません。
価格が下がるほど自分の経営が苦しくなり、他の農家と共倒れして業界全体が疲弊していく悪循環に陥ります。
このような状況では、若い農家が参入しづらくなり、業界の持続可能性が失われてしまう恐れがあります。
私たちの農園でも、
お客様から「周りの農家より高い」とたまに言われることがありますが、
安易に値下げに応じることはありません。
未来を見据え、地域全体で協力し、適正な価格を維持することが大切だと私は思います。
5. 顧客層の質が変わる
安売りを続けると、「値段重視」のお客様が中心になります。
こうしたお客様は商品への愛着や信頼が薄く、次にもっと安いものが出ればそちらに移る傾向があると思います。
また、値引きを前提とした関係になると、価格以外の価値を理解していただくのが難しくなります。
結果として、価格以外の価値を感じて商品を購入してくださるお客様への対応時間が減り、ビジネスの質が下がってしまいます。
6.値下げの判断基準
値下げが完全にダメというわけではありません。
ただし、誰彼構わず値下げをするのではなく、例えばリピーターの方や応援してくださるお客様に対して感謝の気持ちを込めた特典として行うべきだと思います。
一方で、値引きを希望するお客様も一見大切な「新規顧客」のように見えますが、
実際にはリピーターになりにくい特徴があると思います。
1. 商品自体へのこだわりが薄い
値引きが購入の主な動機である場合、商品そのものの価値や特徴に関心がないことが多いです。そのため、次に他店でより安い商品が出れば、簡単にそちらへ移ってしまいます。
ファン化にはつながりなくなります。
2. 購入後の満足感が低い
値引きによって購入された場合、割引価格が「本来の価格」として受け取られがちです。
そのため、通常価格に戻った際に「高い」と感じられ、再購入の動機を失いやすくなると思います。
3. 価格以外の価値を伝えにくい
価格以外の価値が伝わらないため、
値引きを行う際には、特別感のあるリピーター限定のキャンペーンや、特別なイベントでの割引といった形で、「感謝を伝える手段」として活用することが必要だと思います。
例
常連さん割やゴールデンウィーク割など
7.「安売り」ではなく「価値を提供する」という選択
例えば私たちの農園では、「ミルキーベリー」という白いちごを販売しています。
このいちごの価値を伝えるためにしている工夫ですが、
・試食や食べ方の提案:
お客様が実際に商品を体験することで、納得して購入していただけるようにする
・SNSでのストーリー発信:
商品がどのように作られているか、その背景を伝える
・付加価値の提示:
栃木県全体の0.02%しか栽培していない希少性や、洋梨のような独特の食感など、商品の魅力を具体的に説明する
こうした付加価値をお客様に丁寧に伝えることで、「高い」という印象を与えずに、納得して買っていただきやすくなります。
おわりに
価格競争から抜け出し、価値を提供する農業を目指すことが、長期的な成功への鍵だと私は思います。
私は値段に頼るのではなく、品質、体験、信頼でファンを増やしていけると良いと考えています!