子どもの頃の逆境はたばこレベルで健康に影響を及ぼす
子ども時代の逆境……例えば暴力、性的虐待、ネグレクトや、家族の中に刑務所に入ったものがいた、精神病を患っているものがいた、何かの依存症だったものがいたなどは、子供に多大なストレスを与え、それは大人になってからも様々な方面で影響します。
例えば、悲しいことに暴力的な親の子供は暴力的になる可能性が高まるという研究があったり、刑務所に入る確率も高かったり、またもちろん心的健康を害する確率も高まります。
さらに、場合によっては喫煙などに匹敵するほどに健康に悪い影響を及ぼすことが分かっています。
今回は少し意外だった健康面への影響に焦点を当てて話していきたいと思います。
また、もしそういった逆境に陥ったことがあったり、現在そういう状況に置かれているという方は、そういった方に向けての話を以前しているので、もしよかったら読んでみてください。
子供時代の逆境ーACE-
子ども時代の逆境のことを「Adverse Childhood Experience」の頭文字をとって「ACE」と言います。
ACEは子供にとってはどうしようもないことで、それによってその時のみならず大人になってからも負の影響を及ぼすというのは、なんとも悲しい話です。
それがどれほどの影響なのかを知っておくことは、ACEをなくしていくために大切なことであると思うので、まずはACEの影響についてもう少し詳しく話していきます。
ある実験で、先程あげたACEの例を10のカテゴリーにわけて、そのうちいくつあてはまるかで点数をつけました。ネグレクトや暴力など、1つのカテゴリーに当てはまるごとに1点です。
その結果、点数が上がるごとに様々な負の影響がありました。4点以上では次のような影響があります。
・喫煙率2倍
・アルコール依存症である割合は7倍
・がん、心臓病、肝臓病の診断を受けた率はそれぞれ2倍
・肺気腫や慢性気管支炎を患っている率は4倍
また、点数が6点以上では、自殺を試みたことがある割合が30倍。男性だと46倍の確率でドラッグを注射したことがあったそうです(アメリカの研究です)。
ここまでを見ていくと、健康への影響は、健康に害する行動を行ったからではないかと思う方もいらっしゃると思いますが、驚くことにそれだけが原因ではありませんでした。
点数が7を超えると、喫煙や過度の飲酒をせず、太りすぎているわけでもないのに、点数が0の人に比べて、虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症の総称)にかかる危険性が3.6倍も高いことがわかったのです。
健康への影響はHPA軸によるものだった
では、どういうメカニズムでACEは健康に影響を及ぼすのか……その流れをざっくりと説明していきます。
ストレス(ACE)→ストレス反応(HPA軸)→身体にダメージ
本当にざっくりというとこんな感じです(HPA軸については後で説明します)。
つまり、ストレスはある意味直接的に身体にダメージを与えているのではなく、ストレス反応がダメージを与えているのです。
何故ストレス反応でダメージを受けてしまうのかというと、そもそも人間の身体は、ACEのような慢性的なストレスを想定していません。
例えば、猛獣に襲われそうになった時、ストレス反応によって血圧を一時的にあげるのは、大きく役に立ちます。
狩猟時代が長かったことを考えると、そのようにストレス反応が進化することは自然なことですよね。
しかし、その反応が慢性的に起こると身体に大きな負担を与えます。人間の体は現代のストレスの種類には対応しきれていないのです。
それでは、ざっくりとした流れがわかったところで、もう少しストレス反応の部分を詳しく話していきます。
HPA軸とは
ストレス反応はHPA軸というシステムによって行われています。
HPAは「 hypothalamic-pituitary-adrenal 」の略で、それぞれを日本語にすると「 視床下部-下垂体-副腎系 」です。
HPA軸の流れはこんな感じ。
ストレス→ 視床下部→下垂体→副腎系→身体の各部
まずストレスがあると、体温や空腹感、渇きなどの無意識の反応をつかさどる視床下部が反応します。
視床下部は化学物質を放出して下垂体を刺激し、それによって下垂体はシグナルを伝達するホルモンを出します。
そのホルモンにより副腎系がグルココルチコイド(コルチゾールを含む)というストレスホルモンを出し、身体に様々な影響を及ぼすのです。
コルチゾールは聞いたことがある人もいらっしゃるでしょうか。
まとめると、ACEがHPA軸に負荷をかけ健康に害をなす……ということですね(最初にこの一文を見たら何がなんだかわからなそうですね)。
親を責めるのは必ずしも正しくない
虐待などをはじめとするACEが子供に大きな影響を及ぼすことは、改めてわかっていただけたかと思います。
しかし、安易に虐待などをする親を非難するのは危険だと思います。
そういった親が生れるのはある意味環境のせいであり、個人個人でのみ見ていると本質的な問題に気づくことができません。
例えば同じ社会システムであれば、その中にいる人間が違くとも、同じくらいのACEが起こると私は思います。
また、こういった「マクロとミクロの視点」は、様々なことに成り立つことだとも思います。例えば自殺者や、犯罪、幸福度など。
ほとんどの個人が、全体に影響を及ぼすことはできないと思いますが、わかりやすいうわべの問題に流されず、本質を考えようという気持ちをみんなで持つことができれば、多くの問題が解決に近づくのではと思います。
参考文献
ps
逆境は、それをなかったことにはできないので、力に変える方法を知ることが大事です。
他の人がしていない体験ができたというのは、ある意味アドバンテージになります。
そして、そう考えることが、逆境を乗り越える一つの方法でもあります。