書評 223 「恐怖の正体」
恐怖と聞いて、意味がわからない人はいない。しかし、恐怖を説明しろと問われると単に恐いこと(怖さ)としか言えない。
精神科医の著者が、恐怖とは何かを書き綴る。科学的解説も随所にあるものの、エッセイと呼ぶのが相応しい。つまり、読み易い。
著者なりの定義を序盤で試みる。恐怖があまりに広義であるが故に、共通点は抽象的になるが「危機感」「不条理感」「精神的視野狭窄感」の3つを挙げる。これだけ聞くと分かったようでわからないが、文中で様々な事例を挙げてくれるので、納得できる。
その事例も実際の事件から映画や小説、著者本人の体験と幅広い。著者自身の感性に左右されているものも少なくないが、自覚を持っての記述なので押し付けられている感は無い。むしろ、分かり易い。
恐怖そのものを忌避しつつ、擬似的恐怖を楽しむ感覚。両立することから恐怖には限界の向こうを見る興奮の一面があると説く。
人間の根源的感情に触れる一冊。