見出し画像

SS 84 「指輪を拾ったら」

公園に行って、芝生に寝転ぶ。
春の一時期、休みの日の楽しみ。何も持っていかないけれど、それがいい。
陽の光が暖かく、緩やかな風が心地よい。

横を向いたとき、ちょっと光るものが目に入った。
なんだろうと近づくと、指輪が落ちていた。もしかしたら。

映画や小説で、主人公が指輪を拾う話を何度か見た。それは万能の魔法の指輪だったり、体を支配される悪魔の指輪だったり。これも、そんな指輪なんじゃないか。鈍く光る金属の指輪に薄い青の宝石がはまっている。なんだか怪しい雰囲気を出している、ような気がする。

手のひらに乗せて、しばらく眺めていた。悪魔の指輪だったら、との怖さが消えずに指を通せなかった。結局、交番に届けた。大人の判断だったかな、と思う。

1ヶ月後に警察から連絡があった。落とし主が現れて、お礼を送りたいので銀行口座を教えて欲しいという。詐欺だと思って、警察署まで行って確認したら、本当だった。警察を通すのだから大丈夫だろうと口座を伝える。信じがたいが数億円の指輪だったそうだ。少ない額だけどお礼を渡したいとの落とし主のメッセージを聞いた。こちらとしては公園で拾っただけなので、それでお礼がもらえるなら嬉しい。

翌日1000万円が振り込まれた。相手は個人の名前になっている。驚いた。あの指輪は幸運をもたらす魔法の指輪だったのだ。

「案外、真面目な人間はいるものだな。残念」
「だから言っただろう、悪魔よ。人間は歴史に学ぶ。まだまだ見捨てたものではないのだ。」
「神よ、今回は譲っておこう。はめたものを天才的な独裁者にし、世界を破滅に導くこの悪魔の指輪。また100年後、どこかに落としてみるよ」

いいなと思ったら応援しよう!