書評 239 「時間は存在しない」
時間は過去から未来へ不可逆に流れ、止められない。そして、世界全てにおいて一定普遍のもの。それが体験的に理解されている時間だが、実は最新の物理学は否定している。これを一般向けに解説した書籍は多数あり、本書もその一つ。同様の本を何冊か読んだが、本書が最も腹落ちする。
ほぼ数式は出てこない。数式を用いた理論を数式無しで、意味するところのエッセンスを解説するのは至難。しかし、本書はそれができているように思う。翻訳もこなれていて読み易い。
時間は相対的なもので絶対普遍のものではない。個々の主体毎に時間は異なる。地球の裏表程度の距離ならば気にならない差異だから気がつかないだけらしい。
マルチバースと言われるが、この世界の一部相違が多数あるのでは無い。数多ある世界の中でもこの世界は極めて特殊条件下にある一つだというのは目から鱗が落ちる。
文系の自分にとってシュレディンガーの猫を初めて明快に理解させてくれた一冊。