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労働集約型ビジネスが直面する“20人の壁”|リソース管理にまつわる課題と解決策

自己紹介

才流(https://sairu.co.jp/)という新規事業開発を支援するコンサルティング会社で管理系業務(人事、採用、経営企画、Ops、その他諸々)の責任者をしています。
X(旧Twitter)もしていますが、仕事の投稿よりも愛犬の投稿回数がかなり多いです。

この記事を書いた理由

本コンテンツは、労働集約型ビジネスの肝の一つ、人的リソースの管理について自身の経験に基づく学びや経験をまとめたものです。

「この案件、誰をアサインするべきだろうか」
「来月以降のリソースは足りるだろうか」
「新規案件を受注しても大丈夫だろうか」

才流の管理系業務を担当する中で、日々このような判断を迫られてきました。おそらく、労働集約型のビジネスに携わる方々は、似たような悩みを抱えていらっしゃるのではないでしょうか。
これは決して「唯一の正解」ではありませんが、試行錯誤の過程で得た知見が、皆様のリソース管理の一助になれば幸いです。


なぜリソース管理が売上に影響を与えるのか?

労働集約型ビジネスの収益は、シンプルな方程式で表せます。

売上 = 稼働率 × 稼働人数 × 稼働単価

一見単純なこの方程式ですが、リソース管理はこの全ての要素に影響を与えます。それぞれの影響を、実際に経験した課題とともに解説します。

1.稼働率への影響

リソースの空き状況と営業活動がうまく連携できないと、以下の問題が発生します。

  • 機会損失の発生:空きリソースを見誤り、受注機会を逃す

  • 過剰受注のリスク:キャパシティを超える案件を受注し、品質低下や顧客満足度の低下を招く

  • メンバーの負担増:過重労働による疲弊や士気の低下

2.稼働人数の不安定化

メンバーの疲弊は、次のような負のスパイラルを引き起こします。

  • 退職率の上昇 → リソース確保の難化 → 採用コストの増加と品質低下 →利益率の低下と雇用条件の悪化 → 退職率の上昇

3.稼働単価への影響

適切なアサインができないと、以下の課題が発生します。

  • 案件に最適な人材を配置できない → 案件のクオリティ低下

  • 収益性の低下 → 適正な工数管理ができず、利益率が悪化

  • 新たな投資ができない → ソリューション開発などの活動が止まる

“20人”で一気に顕在化したリソース管理の課題

これらの問題は10人程度の小規模な組織ではあまり表面化しないかもしれません。
実際に、才流でも管理対象の人数が10人程度の時は

  • 管理メンバーによる属人的な対応が可能

  • 情報共有が容易で、即座の調整が可能

  • 人件費の総額が小さく、管理の失敗によるリスクが限定的

という状況がありました。
しかし、20人の規模を超えたあたりから状況が大きく変わりました。

  • 属人的な管理では限界を迎える

  • 人件費の増大により、リスクが拡大

  • 情報の即時性が失われていく

  • メンバー間の調整が複雑化

この規模において、単に「誰がどの案件をいつまで担当しているか」という情報を追跡するだけなら、細かな手法や必要な工数の差はあれど実現可能です。しかし、効果的なリソース管理は現状把握だけでは不十分です。なぜなら、これは現状の可視化・遅行指標でしかなく、経営管理として本来必要な先行指標とはならないからです。

まずは組織設計から考えるのが解決への近道

では、これらの課題にどのように取り組むべきでしょうか。
私は、中長期的な組織設計から始めることが重要だと考えています。その理由は、会社としてどのような組織を目指すかによって、リソース管理の基準や運用方法が大きく変わってくるからです。

例:組織の方針と管理基準

  • 適切な労働時間を重視する組織 → 稼働工数の上限管理を最優先し、時間外労働の削減やワークライフバランスの実現を目指す

  • 売上成長を重視する組織 → 稼働金額の最大化を最優先し、高単価案件への積極的なアサインを行う

  • 人材育成を重視する組織 → スキル開発の機会を優先的に創出し、短期的な成果よりも長期的な人材価値向上を重視する

実際の組織運営においては、これらの価値観を適切なバランスで組み合わせる必要があります。ただし、リソースが限られる中では、優先順位を明確にすることが重要です。

才流では「経験豊富な人材がプレイヤーとして、ワークライフバランスを実現しながら現場の一線に立つ環境の提供」を採用戦略上のバリュープロポジションとしています。この実現のためには、メンバーの過重労働を防止し、持続可能な働き方を確保することが不可欠です。そのため、「適切な労働時間の管理」を最優先事項として位置づけています。

稼働工数を中心に管理する場合、

  1. 各メンバーの許容稼働時間

  2. 各案件の想定稼働時間

の二つが重要指標になるかと思います。
各案件の想定稼働時間 < 各メンバーの許容稼働時間
の状態になっていれば、労働時間という観点では求める労働環境が実現できていると判断ができます。

※才流の場合は、組織設計やコンセプトが明確だったため、稼働工数中心の管理方針を選択することができました。しかし、組織の方向性が定まっていない場合は、まず組織としての価値観や目指すべき姿を議論し、それに基づいてリソース管理の方針を決定することをおすすめします。「急がば回れ」の精神で、短期的な効率化よりも長期的な組織のあり方を優先して検討することが、結果として持続可能なリソース管理への近道となるでしょう。

リソース管理の設計と現場への実装プロセスを公開

リソース管理の方針と必要な情報が明確になったら、次に考えるべきはその情報をどのように取得し、運用するかです。企業ごとに状況が異なるため、一概に「これが正解」という方法はありませんが、ここでは私が実際に行ったプロセスをご紹介します。

① 目指す姿の言語化

実際にどの様な状態が実現できればいいのか。
これまでアサイン業務を行っていたメンバーや営業担当にヒアリングし、あるべきアサイン・リソース管理を言語化しました。

  • 現在アサイン中の案件、提案中でリソースを仮ブロックしている案件、各コンサルタントの稼働状況を考慮した、リソース状況・予測をリアルタイムで可視化できる

  • 管理チームと営業チームが、「いつから何件受注可能か?」をスムーズに共有・判断できる

  • 提案中案件の開始予定時期に空いているコンサルタントを素早く確認し、最適な人材をアサインできる仕組みを整える

② 必要な情報の定義

リソースの状況をリアルタイムで可視化するには、どのようなデータを管理すべきかを明確にする必要があります。

基本となるデータの定義

  • 各メンバーの許容稼働時間

    • 当社では「定時内で、ノウハウ整理などの時間を除いたクライアントワークに充てることができる時間」と定義

    • 時短勤務や他業務と兼務している場合は、別の上限を設定

  • 各案件の想定稼働時間

    • 契約ベースでの工数管理

    • 案件の難易度や納期に応じた稼働時間の見積もり

その他、リソース管理に必要な情報

  • 各案件の契約期間や稼働期間

  • 案件のフェーズ(提案中・契約済み・実行中など)

  • 数ヶ月後のリソースの空き状況(どの程度の稼働時間が確保できるか)

③ 現状の整理

リソース管理の改善を進める前に、現在の業務オペレーションとデータの管理状況を把握することが不可欠です。

  • 商談から受注、案件の開始から終了までのプロセスを可視化する

  • 必要な情報のうち、「現在取得できているもの」と「取得できていないもの」を整理

  • 取得済みのデータはどのツール・システムに保存されているかを確認

この整理によって、「どの情報をどの方法で取得し、管理するか?」 の方向性が決まります。

④ 業務オペレーションの設計とツールの導入

リソース管理の精度を高めるためには、データの取得・管理を効率化する仕組みを整える必要があります。ここでは、私が実際に行った導入施策を紹介します。

  • 情報を適切に管理するための業務オペレーションを構築

    • 営業とリソース管理チームが情報共有するタイミングを明確化

    • 提案中の案件の進捗や確度をリアルタイムで更新する仕組みを作る

  • 具体的なツールの導入・設定

    • HubSpotの設定変更(案件情報の整理と一元管理)

    • スプレッドシートの連携(リソース管理表の作成と可視化)

    • 日次・週次のリソース管理オペレーションの導入(情報共有の精度向上)

実際に作成したリソース管理表

⑤ リソース管理の運用(実行フェーズ)

導入した仕組みを機能させるためには、継続的な運用が重要です。

  • 定期的にリソース状況を確認し、リソース管理表を更新する

  • 営業チームと連携し、案件の受注ペースとリソース配分を調整する

  • 数ヶ月後のリソース不足や過剰稼働を予測し、適切なアクションを取る

リソース管理は「一度仕組みを作ったら終わり」ではなく、日々の業務の中で改善を積み重ねることが求められます。

以下は、実際に管理チームから営業チームに週次で送付しているリソースレポートのテンプレート文です。
この文面も営業からのフィードバックをもらい、掲載する情報や表現方法を変えています。


提案が進んでいる案件
・〇〇株式会社:4月スタート予定
・△△株式会社:4月スタート予定

空きリソース
4月スタート可能
・Aさん
・Bさん
・Cさん

5月スタート可能
・Dさん
・Eさん

稼働額の見込み
・3月 *******円
・4月 *******円
・5月 *******円


まとめ:リソース管理を仕組み化する意義

ここまで、リソース管理の方針策定から詳細な実装プロセスまでを解説しました。

最後に、私が実感しているリソース管理を仕組み化したメリットを整理します。

経営判断の精度向上:データを活用した営業や採用の意思決定が可能に
稼働の平準化:一部の人に稼働が偏るといった状況を回避
適切なアサイン:空き状況から案件にマッチする担当者の検討が可能に

まだ不十分な点は多いですが、リソース管理を強化して良かったと感じています。(リソース管理表が無しの運用は考えられない状況です)

もし、似たような課題感を持っている方がいらっしゃれば、PDCAを回す前提で小さく始めてみるのが良いかと思います。

アサインルールの設定方法や、アサイン管理表の作り方、リソース管理と営業との連携方法など、別コンテンツにてご紹介したいと思っております。

私の経験が少しでもお役に立てば幸いです。

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