Kota

京都大学文学研究科。18世紀の英国の哲学者ジョゼフ・バトラーの研究などをしてた人。現コンサルタント。 Philosophy and Ethics. 18c philosopher Joseph Butler and his moral philosophy.

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京都大学文学研究科。18世紀の英国の哲学者ジョゼフ・バトラーの研究などをしてた人。現コンサルタント。 Philosophy and Ethics. 18c philosopher Joseph Butler and his moral philosophy.

最近の記事

経済的規範とインセンティブ

インセンティブっていうのは、行動の動機となるものです。たとえば、なんで働いてるの?って聞かれた時に、それはお金のためだよって答える人は、お金が働くためのインセンティブになっているということができます。 ただインセンティブというのは、お金だけではないということをわれわれは忘れている気がします。 たとえば今流行りの某論破王ひろゆき氏の主張を聞いてみても、大概はお金というインセンティブが土台としてあり、そのために効率のいい生き方をしようというのが彼の「倫理」であるように聞こえま

    • 化学的去勢の倫理的問題とその論点について

      はじめに 一般的に性犯罪者の再犯率は高いと言われている 。これに反して、令和元年のデータによると性犯罪の再犯率が刑法全体と比較して高いことを示す数値はみられない 。これは、再犯防止のための様々な施策が導入されていることが理由かもしれない。たとえば日本においても、認知行動療法を基盤にした処遇プログラムが導入されている 。これに対して、諸外国に目を向けてみるとこのような教育的プログラムに留まらず、身体的な介入を用いて再犯防止を試みる方法がある。その方法は化学的去勢(chemica

      • 「親ガチャ」について

        最近、SNSでは「親ガチャ」という言葉をよく目にします。とある先生によると、大学生同士の会話にもこの言葉が頻繁に出てくるそうです。そこで、今回はこの親ガチャについて考えてみたいと思います。 そもそも、親ガチャとはどういう意味なのでしょうか。おそらくその期限をたどると、いわゆるガチャガチャと言われるものになると思います。お金を入れて、スロットを回すとカプセルが出てくるやつですね。あるいは、ソーシャルネットゲームなどのガチャかもしれません。お金を積んで、つまり「課金」してガチャ

        • ミスコンは廃止されるべきか

          外国人の友達と会話している時に、なんとなくミスコンの話題になりました。そしたらその人が「日本の大学はまだミスコンなんてやってるんだね笑」って言ってきて。なるほど、世界基準で見るとミスコンは時代遅れの産物なんだなと思った次第です。 そこで、今回はミスコンの是非について論じようと思います。 ①フェミニズムにおけるミスコン批判 ミスコンはとりわけ、フェミニズムの文脈において批判されてきました。 フェミニズムとは、すげぇ簡単にいうと、女性の権利を男性と平等にしようという考えのこと

          美食を倫理的に救う話

          フォアグラ作る際の過程とか、畜産とかは結構批判されたりしますよね。たとえば、強制的にガチョウに餌を与えるのは動物虐待だ!みたいな。 そこで、今回はどうやったらそういう批判をかわせるのかを検討してみたいと思います。 今回は美食を芸術作品であると定義したうえで、芸術作品の美学的価値と倫理的評価は同じではないという主張する方向性でいきます。 したがって、二つのことを証明する必要がありますね。①美食は芸術作品である。②芸術作品の倫理的価値はその美学的価値になんら影響を与えないとい

          美食を倫理的に救う話

          SNS上のコロナに関する情報がどれだけ嘘かというお話

          近頃SNSを見ていると、「コロナワクチンは危険だ!」とか、「コロナは人口削減のための人工的なウィルスだ!」などの情報が散乱していて、もうようわからんことになっていますね。 今回はSNS上の情報に関する論文を紹介しようと思います。 まず、この論文の目的の一つはコロナワクチンに関する噂(rumor)や陰謀論(conspiracy theories)を検討することです。 その方法は、2019年の12月から2020年の11月までに、Google、Google Fact Check

          SNS上のコロナに関する情報がどれだけ嘘かというお話

          新型コロナウィルスワクチン義務化について

          1/14日 本日は、ワクチン義務化すべきかについての議論を紹介しようと思います。 その背景としては、ワクチンを義務化することによって集団免疫が期待できるからです。 集団免疫とは、ある感染症の拡大を止めるための免疫を、人々が十分な人数持っていることを指します(私も理系ではないので、そこまで詳しくはわかりませぬ)。 つまり、この集団免疫のためにワクチンを義務化するかどうかという議論が生じでくるわけです。 ここで賛成論と反対論を見ていきましょう。 ①賛成論 まず賛成論をとる場合

          新型コロナウィルスワクチン義務化について

          芸術作品とポルノグラフィは同じなのか

          はじめに 2019年に、日本赤十字社は献血を呼びかけるポスターをweb漫画とのコラボで作成した。そのコラボ相手となったのは、『宇崎ちゃんは遊びたい!』という漫画であり、ポスターには主人公の宇崎ちゃんが、胸を強調するような構図で描かれている。このポスターをめぐって、SNS上では激しい議論が生じた。たとえば、この絵は過度に性的なものであり、赤十字のポスターとしてふさわしくないという意見や、「環境型セクハラ」という言葉が飛び交った。大阪大学教授の牟田和恵は、「宇崎ちゃんのポスターが

          芸術作品とポルノグラフィは同じなのか

          田中みな実論

          この前、惰性でテレビをつけていたら田中みな実の特集番組が放送されていた。なんとなく見ていたのだが、結構おもしろかったし、田中みな実という女性が色んな可能性を持っているということに気づいた。本稿では、その気づきについて論じたい。 最初に断っておくが、本稿は論文でも評論でも啓蒙書でもない。私が居酒屋で飲み友に話すような内容である。つまり、引用もしないし、私の論考を一般化するつもりもない。私なりの持論として、こういう意見もあるのかという程度に受け止めていただけたら幸いである。 この

          田中みな実論

          セックスの合意について

          卒業論文も提出し、すこしゆとりができたので、noteの執筆を再開しようと思う。今回は、なんちゃって書評を行うつもりだ。なんちゃってということは、厳密な書評ではないので、グダグダ書いていくし、最後に私の見解を述べて、セックスの合意の問題に接続しようと考えている。 今回、書評する書は、濱野ちひろ『聖なるズー』である。最初に、この本の著者である濱野について簡単に紹介し、本の概要について説明する。 1. 著者について 著者は現在京都大学大学院博士後期課程に在学している。専門は文化人

          セックスの合意について

          禁煙ファシズムとたばこの煙

          禁煙ファシズム 先月の下旬、国立大学法人である長崎大学の河野茂新学長が新規採用にあたって、喫煙者を採用しない方針を発表した。それ以前にも、電気通信事業者として国内において最大規模をほこるソフトバンクも、社内の喫煙所を撤廃するなど喫煙をゼロにする姿勢をとっている。このような喫煙や喫煙者にたいして、その行為を禁止するもしくは抑圧するような強迫的な態度を「禁煙ファシズム」と称して、そのようなイデオロギーにはどのような構造が背景化されているのかを明確化する。また、その構造にはどのよう

          禁煙ファシズムとたばこの煙

          Can Right to Try Laws be Justified?

          “We will be saving — I don’t even want to say thousands, because I think it’s going to be much more, thousands and thousands, hundreds of thousands. We’re going to be saving tremendous numbers of lives.”(Qui, 2018). This is the speech made

          Can Right to Try Laws be Justified?

          Right to Try法の妥当性における問題と課題

          はじめに 「我々は救うことになるだろう―数千もの人々を救うとは言いたくはない。なぜならもっとたくさんになるからだ。無数の何十万もの人々を救うことになる。我々はものすごい数の人々の命を救うことになるのだ」(Qiu, 2018)。これはアメリカ合衆国のドナルド・トランプ大統領が2018年の5月30日に「right to try」(以下RTT)法に署名した際に発言した言葉である。RTT法は終末期患者に第1相臨床試験を通った医療製品へのアクセスをFood and Drug Admin

          Right to Try法の妥当性における問題と課題