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卒業式のあとに

(過去記事:3学期〜バレンタインは合格発表の日のつづき)




3月1日、ついにその日はやってきた。


担任のミスター佐々木ことリンゴスターは、朝から何故かソワソワしている。変なの。


卒業式自体は滞りなく終わった。
200人中199人が無事卒業した。
(1人は高1の夏休みに病気で亡くなった)


進路が決まった者も、まだ2次試験を待つ者も居たが、皆晴れやかな顔をしていた。




卒業式が終わり、最後のホームルームの時間、ミスター佐々木は私たちの前でこんな言葉を発した。

『俺のクラス運営に疑問を持った人も多かっただろう、心から謝る。俺はこの1年間で1人だけ心を奪われた人がいたんだ。このクラスじゃないけれど、俺が昔好きだった人に何もかもがそっくりなその人に心を奪われたんだ…
俺は教師失格だ、だから今日君たちを送り出したら辞表を提出することに決めた!!』

胸のポケットから、リンゴスターが“辞表″を取り出して私たちに見せた。


確かにリンゴスターの言うように、彼のクラス運営というより、生徒の選り好みはすごかった。
それは皆分かっていた。


同じクラスに居る麻衣、彼女のことだけ、
『オイ、麻衣!』と呼び捨てで呼び、大部分の生徒から反感をくらっていた。


麻衣ちゃんは、我が親友みっきーの周りをうろついていた、大人しくブリブリなオタク系女子だったが、なんと私の隣の席から強烈な色気とニヒルな雰囲気を醸し出す堀越くんと付き合っていたことは、つい3日前に耳にした。


『許せない!』


他校に彼氏がいる千景が怒っていた。
私も何となくゲンナリした…。

堀越くんみたいなワルの雰囲気満々の男子でも、あーいう舌足らずな喋り方をする、清純派ぶりっ子が好きだったんだ…男から見るとあーいうのがいいのか…。

担任のリンゴスターが特別可愛がっていた、麻衣ちゃんの事だろうと皆思っていた…若い頃に好きだった人にソックリな女子生徒って…。


なんと!実は麻衣ちゃんではなく、隣のクラスの学年人気ランキング1位に君臨する美紗ちゃんの事だった!

美紗ちゃんと同じクラスになった事はないが、目がキラキラ輝く女優さんみたいな顔をした、とても美人な人だった。


親友のみっきーは『あんな綺麗な人、高校生で初めて見た…芸能人みたい…』と感激しており、学年中の男子生徒から人気があったが、不思議と彼氏が居なかった。
そういうことか…。


担任の本当の意味でのオキニは美紗ちゃんだったのか…なるほどね。


他の生徒は怒っている者も多かったが、私は冷静だった。
最初から担任リンゴスターは、女好きっぽいチャラいオーラを放っていた。
でも不思議と嫌いではなかった。
オキニを寵愛する面もあったが、そうでない者を無碍に扱うことも一切なかった。
意地の悪い教師よりよっぽどいい。


素直じゃん…皆にそれを話して(名前は出していない)潔く教師を辞めようとしてるんだ、陰でコソコソするよりよっぽどいい。


結局、担任リンゴスターの辞表は校長に受理されることはなかった。




担任の“意外な告白″を聞いたのち、解散となった。



高校生活も今日が最後、もう2度と会えない人もたくさんいるだろう。
思い残す事がないよう、卒アルを持って色んな友達、男友達、先生にひと言ずつ書いてもらいに回った。


もちろん、大好きなTにも…



親友みっきーたちとA組を覗きに行くと、Tたち男子のグループが居たので、呼び出してもらった。


Tもまんざらではない様子で、初めてC組まで来てくれた。
わざわざC組まで呼んだのは、ネクタイをもらうため…だけではなく、“写るんです″のインスタントカメラで2人で写真を撮りたかったから!!

C組メンバーほほとんど帰宅し、私の友人しかいない。好都合だった。


『最後だから写真撮ってよ…』


『いいよ』


こんなに素直で優しいTは初めて見た。


みっきーとしおりんにカメラをパスして、Tの横に立ってみた。私より少しだけ身長が高い。



勇気を出して…


手をそっと繋いでみた。



すると!!きちんと握り返してくれるじゃないか!!なんてことだ!!
出血大サービスとはこの事だ!!



私も調子に乗って、繋いだほうの腕に抱きついてみた…嫌がってない…奇跡だ…!!



鼻血が出そう!!


嬉しくて何枚も写真を撮った。


好きな人と手が繋げるなんて…

しかもちゃんと握り返してくれた…


嬉しくて楽しくてたまらん…夢のようだ…


きっと最後だからTもサービスしてくれたんだろうな…


ネクタイももらう。


『じゃあね!』


ネクタイを私に渡したTは、どことなく誇らしげにA組のメンバーの中に戻って行った。


後で見ると、Tのメンバーの中でネクタイがなくなっていたのはTだけ。いつになく明るくはしゃいでいる様子が見れた。


私は、もらったネクタイをクンクン匂ったり(キモい)、友人に見せびらかせたり(誰も羨ましがらない)、最後タバコメンバーで集まりC組の教室の中で大きく吸って大きく息を吐いた。


そのニオイを嗅ぎつけたB組やD組のメンバー、男子も加わり教室が一気にタバコくさくなったので、慌てて香水でニオイを消しにかかった。


小中高と色んな事があったが、やはり高校生活が1番楽しかったのは事実だった。


私をいじめるメンバーもいない、何より自分が大きくなった分、親に隠れてできる自由度が増した。


最後に教室で吸ったタバコが格段にうまかったのは言うまでもない。



ギャルなユキちゃんたちのグループやいくつかのグループは、学校が終わったあと“打ち上げ″とやらをするらしいが、私の家ではそれは許されなかった。





家についてすぐ、河村隆一の「Love is…」と奥田民生の「イージュー★ライダー」を交互にかけながら、Tからもらったネクタイを眺めたり、自分でしてみたり、卒アルを見ながら泣いてみたり…陶酔した。




〜僕らは自由を 僕らは青春を
気持ちのよい汗を けして枯れない涙を

幅広い心を くだらないアイデアを
軽く笑えるユーモアを 
うまくやり抜く賢さを〜


「イージュー★ライダー」作詞作曲:奥田民生







高1からちょっとだけ背伸びした“自由″を謳歌した高校生活、稲中友達と床を転げ回って笑った教室、親友と呼べる友に出会い彼女のパンを潰した日々、3年間フラれながらも同じ人を好きで居続けること…





奥田民生の歌詞の中にある「うまくやり抜く賢さ…」は、まだ持ち合わせていない。



そんなもの、どこで身につけるのかさえこの頃はまだ分かっていなかった。
それを歌の歌詞に入れるという才能にひたすら感心したものだ。





もうちょっと…
あともうちょっとで私は自由になれる…

この家から、全てから。





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