【トコちゃん】
白い丸襟のブラウスの上から赤いワンピースを着た5歳くらいの少女と、キツネ色をしたコリー犬が誰かを待っている。
日は暮れ、周りの子どもたちはお迎えが来て、ひとり、またひとりと居なくなる。
夜になってコリー犬がお腹を空かせていることに気づいた。
給食で出たパンの残りをポケットから取り出し、ぜんぶコリーの口の中に入れた。
コリーのお腹が空いていてかわいそうだから。
なんだか寒気がしてきた。
どうしていいか分からないから冷たいアスファルトの上にコリーと寝転がった。
その様子を上から眺める自分。
長袖のブラウスだけじゃ寒いから、そっとコリーに抱きついてみた。
明かりがついてるお家の中は楽しそう。
お家の人や友だちと、みんなでお菓子を食べたりしている。
トコちゃんが背伸びして窓の外からそっと見た最後の世界。
何で誰も迎えに来てくれないんだろう?
そもそも誰がが迎えに来ることなんてあっただろうか。
いくら考えてもわからない。
やがて夜の闇が深くなってきた頃、雪がチラチラと降ってきた。
雪が降ってくる空を見上げた。
夜空の闇から落ちてくる雪ってこんなにきれいだったんだ、知らなかったよ。
コリーに抱きついたまま眠ってしまった。
そのまま深い眠りに落ちた。
夢の中で、トコちゃんがみんなと歌ってる。
歌詞は何だったか思い出せないけれど、私もなぜか知っている。
翌朝、トコちゃんとコリーが冷たくなっていた。
通りがかりのおじさんがそれを発見した。
私は上から見ているだけで、トコちゃんとコリーを救ってあげることができなかった罪悪感に苛まれた。
すると、どこからともなくトコちゃんの歌が聴こえてきたから一緒に歌ってみた。
あれ?何でこの歌を知っているの?
どこかで聴いたことがあるのに、どうしても思い出せない。
顔が誰だか分からない人がトコちゃんを迎えに来た。
あなたはだぁれ?
視界がぼやけて誰なのか判別できない。
やっとお迎えがきたね。よかったね。
けれどその人は冷たくなったトコちゃんとコリーを引き取り、闇から闇へと葬り去った。
検死官がトコちゃんとコリーをポラロイドで撮っていた。私に一枚くれた。
なんで私が泣いているの?
知らないはずのトコちゃんの歌を口ずさみながら、私の顔面は濡れている。
きっともっと早く迎えに来てほしかったんだろう。
トコちゃんの歌をうたいながら、夢はそこで途切れた。
目が覚めるとやっぱり顔が濡れていた。
トコちゃんってだぁれ?と聞く私に、そんな人知らないと誰かが答えた。
そうか、誰も知らない女の子だったんだ。
あの少女はもしかしたら自分なのかもしれないと気づいた。
近いようで遠ざかる記憶。
残像だけ頭に残った。