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リチャードクレイダーマンの部屋

(過去記事:ド派手グループと新たな親友〜の続き)




さて、大学生活が1ヶ月も経たないうちに、親友ゆりお嬢に好きな人ができたと言う。

なんでも相手は、同じ大学のピアノ科の同級生(その学生は四年制)背が高く、まるでジャニーズの中にいるような顔をしている王子様系だと、大学内で話題になっていた男子学生だった。


『ケッ…ゆりお嬢も面食いかよ…よりによってジャニーズ系とは、さぞかし性格が悪いんだろう、どっちにしてもあたしには縁のない男だ。』

高校時代まで、アイドルやジャニーズが大嫌いだった私はひねくれてそんな事を思う。


ゆりお嬢はかなりの面食いで、その男子学生が同じマンションの2階部分に住んでいる事を突き止め、何とかして接点を持とうと必死だった。


たまたま偶然に、そのジャニーズ顔をした男子学生の家で飲み会があるという事を聞きつけたゆりお嬢と私は、早速飲み会に参加することにした。
(尚、母親からの鉄の掟
•男の部屋に行くな
•男を部屋に入れるな
•男の車に乗るな
を気安く破る事になるのは言うまでもない)



当時の私は、ルックスが良い=性格が悪いと思い込んでいた。
『とにかく男は顔ったい!!』
と息巻く親友に連れられて、ジャニーズ顔男子の家を訪れた。


(フン…どうせ顔がイイからってチヤホヤされてきた男だろう、ロクでもない奴に決まってる、大学の女子らもキャーキャー騒いでバカみたい、どんなツラしてるかこの目で見てやろう)


私は思いっきり乗り気ではない、という顔をして、2階に住むジャニーズ顔男子の家をピンポンした。
親友、ゆりお嬢はものすごい勢いである。





『いらっしゃ〜い!!ようこそ〜、入って入って!まだ全員集まってないんだけど。』


満面の笑みで私たちを出迎えたのは、テレビか雑誌の中から飛び出してきたような男子学生だった。
高身長の私が見上げるほど背が高い。

海老原というその男子学生は、芸能人かと思うくらいスラッとして、目がパッチリ、色白の北欧系の顔立ちをしている。身長186cm。
田舎者の私はビックリして立ちすくんだ。


部屋に入ると、先に到着していた親衛隊らしき女子学生が笑いながらギロリとこちらを睨んできた。


『ユリちゃんとレナちゃんよね〜、よろしく!』
屈託のない笑顔で、海老原は私たち2人を招き入れた。


『……!!はっ!!す、すごい…』


私が呆気に取られたのは、海老原の顔でも、彼が作ったビーフチューでも、彼が着ている毛皮にでもない。



『この部屋、自分で??私の部屋も間接照明とブラックライトつけてるけど、本格的だね!』


『そ〜お?結構凝ったんだよ。レナちゃんちもこんな感じにしてんの?』


『似てるけどちょっと違う、てかさ、、窓際の一角、あのエリア、リチャードクレイダーマンの部屋みたい!!ビックリした。』


『マジで⁈ それめちゃくちゃ嬉しいんだけど!!俺結構意識して部屋のインテリアしたんだ。一発目にソレ言ってくれたのレナちゃんだよ、ビックリしたわ。あ、ピアノ弾いてね!』



つい10分ほど前まで抱いていた、イケメン=ヤな奴という壁が崩壊して、海老原の部屋について2人で盛り上がった。
ゆりお嬢も彼の親衛隊たちもポカンとしている。



海老原の部屋にあった新品のグランドピアノはBoston社のもので、初めてBostonのピアノを触らせてもらった。滑らかな音が出た。


スケルツォ2番を弾いたお礼にと、海老原が英雄ポロネーズを披露してくれた。
間近で聴いて、やはり英雄ポロネーズは男性が弾くとパリッとするな、と感じる。


私は手土産に持参したウオッカを差し出し、海老原との会話に夢中になった。


彼は自分のルックスを鼻にもかけず、非常に陽気で気さくであった。
北欧系の色白の顔、スラリと伸びた長い手足、高身長、聞けば東北地方の富豪の長男で、山をひとつ売ってBostonピアノを買い、オートロックつきのこのマンションを親から与えられたと言う、生粋のボンボンだった。



今まで、高校時代まで見てきたイケメンと言われる男子は、どこか自信満々で鼻につくタイプばかりだったが、目の前にいる海老原は何もかもが頭3つ分くらい飛び抜けた同級生だった。


(へぇ〜、そりゃモテるわ、、ルックスだけじゃなくチャーミングでノリも抜群だわ…ゆりお嬢が必死になるのも無理はない、それに親衛隊の女たちかぁ…そりゃ女たちが群がるのも無理はない)


当時NHK教育テレビで流れていた、プロのピアニストのピアノレッスンを高校生の頃から母と見ていた。その時リチャードクレイダーマンの回があり、楽譜も購入して私も嗜んでいた。

海老原の部屋といい、チャーミングさといい、和製リチャードクレイダーマンと言ったところだ。

海老原も意識していたらしく、相当喜んでくれた。


しばらくすると、コントラバス専攻の藤井という男子学生が混じり、女子6人、男子2人の飲み会が始まった。


私以外の女子学生5人が全員海老原目当てであった事は言うまでもない。


海老原の部屋で彼の作ったビーフチューを食べ、ジンやらウオッカを飲み、遠慮なくタバコを吸い、当時流行っていたお香をモクモク焚きながら、とりとめのない話をした。


意外にも、私と海老原は話のテンポが同じで、ウマが合い、その度にゆりお嬢以外の女子学生から睨まれたり、会話を遮られたりしたが、私に恋愛感情は皆無であったし、その後も海老原と藤井、ゆりお嬢と私の4人でつるむようになった。


大学生活の前期を終える頃には、私とゆりお嬢、海老原の3人で街へ出かけたり、レゲエバーという世界を覗きに行ったり、プライベートでも3人で遊ぶようになった。


和製リチャードクレイダーマン海老原とは、大学3回生まで親しく連み、彼が大学を辞めて東京へ出るまでその関係性は続く。

(芸能人みたいだとよく思っていたが、その後“笑っていいとも″の冒頭に出演するメンバーとしてテレビの中での海老原を見たのが最後であった…やっぱり芸能界向いていたんだ)


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