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小指のマニキュア

フフン〜あなたのこと どんどん好きになってくる〜♪

母が祖父からの暴力で複雑骨折して入院していた2ヶ月間、中1にしてなんと初めての1人暮らしを体験する事になった。部活帰りに毎日母が入院している病室へ見舞いに行き、祖父母の家で晩ご飯を食べたら一目散にマンションへ帰る。


なんて楽しいんだろう!なんて楽なんだろう!誰の顔色も伺わなくて良い、気にしなくていい、やっと私は束の間の自由を手に入れた。

母の目を盗んでお小遣いで買ったCDを毎晩寝る前に大音量でかける。クラシック音楽以外はダメ、と禁止されていたがこっそり購入して自分の部屋に隠していた。母は音響にこだわっていたので、当時最新型のCDプレイヤーと、自分の部屋にも小さいがSONYの割と音の良いプレイヤーがあった。

寝る前には毎晩必ず、ドリカムの“決戦は金曜日″、米米クラブの“君がいるだけで″、チャゲアスの“SAY YES″、このお気に入り3曲を聴く。クラスではKANの愛は勝つ、だとかマッキーのどんなときも、とかとんねるずのガラガラ蛇が…とかが流行ってるみたいだけれど、私は色っぽい声の愛してる系の歌のほうが好きなんだ。

校則で禁止されていたマニキュアを両手の小指だけに丁寧に塗る。よし、完璧だ。小指に塗った透明のマニキュアが乾くまでの間、繰り返しその3曲ばかり聴く。

考えるのは、同じクラスのミッちゃんの事ばかり。明日は部活をコッソリ抜け出して、体育館に居るミッちゃんを見に行こう、それともミッちゃんと仲のいいバスケ部の男子にこっそり根回しをして“最新情報″を聞こうかな…。

小学校の時なんで気づかなかったんだろう、クラスが離れてたからかな…。
中1でミッちゃんと初めて同じクラスになり、色黒で目がパッチリした濃い顔、何よりも女子とほとんど口をきかない(コレがまた良い)スポーツ万能でクールなミッちゃんに、入学して10日目には恋におちていた。

小学5,6年で隣の席になった、これまた目力のある女子の扱いが異様に上手い男子を好きになったが、友達止まりだった。小学生の時の“好き″と中学生になっての“好き″は自分でもわかるくらい段違いのものだった。

部活も楽しいけれど、毎日学校に行くのはミッちゃんに会いに行くようなもんだ。もちろん2人のゆうちゃん友達にも報告済みだ。ゆうちゃんたちにもそれぞれに好きな人がいた。
良かった…タイプがかぶらなくて。
そういえばソプラノの夕ちゃんが好きな洋二くんの情報を明日確認して部活の時報告しよう。

今でいうところの“ガールズトーク″はダブルゆうちゃんと、もうひとり加わった小雪ちゃんと4人で毎日繰り広げられた。
『そういえばレナの好きなミッちゃん、D組の綾ちゃんと付き合ってたんだって』とゆうちゃんたちから聞いて、ショックを受けた。あー、あの綾って人、いっつも学年で1番モテる美恵ちゃんと一緒に居る、テニス部のぶりっ子女だ。髪の毛がサラサラで天使の輪っかがいつもついてる綾か…ミッちゃんってあんなのがタイプなの?ちょっとショックなんですけど…。

そんな感じで、大好きなミッちゃんが今まで誰と付き合っていたか、誕生日に血液型、ミッちゃんはNBAのバスケのグリーンのチームのリュック持ってる、バッシュはNIKEの新しいのを履いてた、E組の弘田くんと毎日一緒に帰ってるから家はあの辺りだ、よし!次は弘田くんと仲良くなれるようにしよっと……FBIの捜査官並みにミッちゃんの事を徹底的に調べ上げた。(ストーカー並みとも言える)

そのための努力は惜しまない私だ。学年のバスケ部男子全員と仲良くならなきゃダメだ、今いる仲良いメンツだけじゃ足りない、大人しい小川くんあたりからも攻めてみようか、そういえばミッちゃんの事好きな“ファンクラブ″があるって聞いたぞ、てか誰がやってんの?何か腹たってきた…私はぜってーファンクラブの中の1人で絶対終わらない!

毎日そんな事ばかり考えては悩んだが、小学校6年の時の“もっこりーず軍団″とも相変わらず仲が良く、中学になると“もっこりーず軍団″から回ってくるものは『変態仮面』から『エロ本』に変わった。
放課後、もっこりーず軍団の中の野球部の男子が『レナちゃん、いつもの』と目で合図し、渡り廊下付近で、その男子のバックから私のバックへ素早く2冊くらいを入れてくる。読むのは帰ってからのお楽しみだ、フフフ。

返却は何故かエロ本を渡してきた男子ではなく、『次あいつに渡して!』と言われた男子に、何故か女子の私経由で、同じ手口でサッと別の男子に渡し、何事もなかったかのように涼しい顔をしてその場を立ち去る。

後に色んな女子、高校大学でできた新たな友人に聞いても、誰もそんな事をしていなかった。むしろ、『中1で男子からエロ本回されてたの?キモくなかった?』と驚かれた事に私も驚いた。逆にみんなはどうしてたの?と頭の中がハテナだらけになった。

よし、来週は小指だけじゃなくて、親指にも透明のマニキュア塗ろう、リップクリームも新作のストロベリーの香りのを買おう、シャンプーとリンスは“アルトの優ちゃん″がイイって言ってたパンテーンを買ってみよう、本当はLuxの方が匂い好きだけど、、、。

母は入院中私に必要なものを買ってきてくれと毎日2,000円ずつ渡してくる、おばあちゃんも月5000円のお小遣いをくれる、透明のマニキュアも新作のリップクリームもシャンプーもCDも余裕で買える。お母さんの入院中はめちゃくちゃ自由、人生最高だ!

当時、東京ではバブルが弾けたとニュースで大騒ぎしていたが、地方はまだまだバブルの名残が確実に残ってた。
ちょうど“ジュリアナ東京″が流行っていて、テレビのブラウン管の向こうにはボディコンに身を包んだお姉様方が、ド派手な羽つきのセンスを片手に大理石の上で踊っていた。
いつもそれを見ては『早く私もあんな風なお姉さんになってお立ち台の上で踊りたい!CHANELのチェーンバック持ってる大学生になりたい!』と強く願った。クラスでそんな事を口にする同級生は誰も居なかったのは言うまでもない。

その後、母に内緒で購入したジュリアナ東京のCDを聴きながら、お風呂あがりにマニキュアを塗り直す、夜は男子から借りたエロ本を見ては妄想を膨らませ…少女からオンナへと一段ずつ階段を登るように…13歳になったばかりの冬だった。


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