第二章:本世界編
本の世界に迷い込む話。
ギルドの本棚整理をしていたたたら、かぐら、俊介、遥人は、1冊の本に吸い込まれ本の世界:アリスフィアへと迷い込んでしまう。彼らはそこでこのセカイを治める女王、白雪から元の世界に戻るためには厄災をもたらす『モナリスの刻印』の刻み手を倒す必要があると聞かされる。かくして、たたら達はそのカギとなる刻印を刻まれた四人の魔女を探し5つの大陸を巡るのだった。
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一人目は南の大地。南の魔女クレアは、道中行動を共にすることとなった謎の青年、凛人の腐れ縁だという。彼に生き別れた兄の面影を見て動揺する遥人。だが、そんな彼を支えたのはたたらと俊介だった。「考え込むなんて柄じゃないだろ」そう言ってぶっきらぼうに枕を投げつける俊介の不器用さに、遥人は思わず吹き出すのだった。
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二人目は東の大陸。そこは、弱肉強食のセカイ。 だが、東の魔女ブリュメールは、闘争を求めると同時に、その終わりを望んでいた。
着いて早々攻撃を受けるたたら達だが、俊介を庇いたたらが怪我をしてしまう。何故庇ったと責める俊介だったが、「もう誰にも傷ついて欲しくない」というたたらの人の良さに呆れつつも方を貸すのだった。
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三人目は西の大陸。そこは停滞の箱庭。西の魔女フロレアールは、去り行く愛し子達との別れを惜しみながらも、彼らの幸せを願った。
閉ざされたセカイで、与えられた幸せを享受する。それは、愛ゆえの束縛。けれど、それが間違いだと気づいた今、彼女は子のよすがとなることを選んだ。
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四人目は北の大陸。北の魔女二ヴォーズは同胞達の理不尽に怒り、彼らのためのセカイを作ろうとした。けれど、人はその理不尽さを享受しない。最後まで抵抗を続けた末の魔女と分かり合う事は終ぞ出来なかった。
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刻み手を倒すため、そして元の世界に戻るため奔走するたたら達。その懸命な姿に、彼らと一線を引いていた凛人は被っていた帽子を取り、自身の目的とその出自を彼らに明かす。だが、その姿は遥人が探していた生き別れの兄その人だった。
――規律至上主義の世界:サイルスハルト。それがこのセカイの前身であり、凛人と遥人のいた世界。だが、負のチカラに侵されてしまったその世界はアリスフィアと名を変え、フィクサーが跋扈(ばっこ)するように。凛人の幼馴染のローレンスのチカラを借りてなんとか遥人をアルカトレーゼへと逃がすも、ローレンスは罪人として囚われ、凛人は彼を救い出すべく白雪と手を組んだ。それが自分の選んだ道であり、遥人に歩ませたくなかった道。
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凛人の話が終わるや否や、彼に一撃を見舞う遥人。それは、捨てきれなかった彼の葛藤。何度も忘れようとしたけどできなくて、だからもう一度会って本心を確かめたかった。嫌いになったなら、それでもいいから。
捨てずに持っていてくれたことを。嫌いにならないでいてくれたことを。これまでの後悔と、これからの期待を。一言では言い尽くせないから、これだけ。
「ごめん……それと、ありがとう」
ずっと、今も大好きだった弟を、彼は優しく抱きしめた。
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葛藤と和解を経て監獄へと乗り込んだたたら達。彼らはその順調すぎる展開に違和感を抱きつつも、遂に刻み手の元へたどり着く。だが、そこにいたのは彼の幼馴染であるローレンスその人だった。
「刻み手の正体は誰にも知られてはいけない……だから、本当は君とも会いたくなかったんだよ、凛人」
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刻み手であるローレンスを倒したたたら達。だが、その代償はローレンスの消滅だった。消えかける意識の中で、彼は言葉を絞り出す。偽りだらけの人生でも、凛人との思い出だけは本物だったから。だから、彼は凛人に想いを託す。「どうか、諦めないでいて……僕は、そんな君に救われたんだから」そんな、祈りに近い想いを。
「ありがとう……さよなら、僕の英雄≪ともだち≫」
あたたかな光の中で、刻み手の青年は幸せそうに目を閉じた。
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白雪の元へ戻ったたたら達。だが、負のチカラによる侵食は進み、セカイの崩壊は刻一刻と近づいていた。白雪は、たたら達に「この物語(セカイ)を終わらせてほしい」と頼む。かつての少年少女の面影がよぎるたたらだったが、白雪はそんな彼の手を優しく握り、こう諭す。
「思い描いた結末ではなかったけれど、確かに私達は救われた。だから、私たちの物語はこれでおしまい。それでも、貴方達が覚えていてくれたのなら。きっと、また出会える。……想いも、出会いも、すべては巡っていくから」
その言葉を最後に、セカイは再び閉ざされた。彼らを見送った少女は、彼らと“名も知らない隣人達”の幸福を祈った。
・閑話:芽衣子とジン
無事に元の世界へと帰ってきたたたら達は、ギルドの専門医である芽衣子にアリスフィアでの出来事を話す。出会いと別れ、そして、ひとつの世界の終わり……その旅路の話を聞いた彼女は、彼らと過去の自分を重ねていた。身寄りのない自分を見つけて、希望を見せて……「ここがお前の帰る場所だ」そう言ってくれた、普段はだらしない自分のヒーローの話を。
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