笑顔の軌跡は続いていく
まるでタイムスリップしたかのように
一瞬のうちに過去の記憶がよみがえる。
写真を手にとり眺めるといつもそう思う。
私は子供の頃から写真を撮るのが
大好きだった。
この景色、その笑顔を
小さな一枚の紙に閉じ込める。
そう思うとワクワクした。
自分以外が撮った写真、例えば会ったことのない祖父が写っている大昔のモノクロの写真を見るのも大好きだ。
一体この表情の向こうにはどんなドラマがあったのだろう? と想像する。
結婚してから夫の写真を撮って、いろんな表情をいつでもどんなときでも満喫できるように壁に飾っていた。
娘が生まれ、その可愛さに毎日写真を撮って現像し、床一面に広がる娘の写真を整頓していたら「ストーカーじゃん」と夫に笑われたこともある。
お出かけした時の、発表会の、朝起きたときの、いろんな表情がアルバムの中で笑ったり泣いたり、驚いたりしている。
そんな風に
写真を撮ることが大好きだった私。
娘の一言で、
今まで撮ってきたような写真とは
ひと味違う写真を、13年も撮り続けることになるなんて思いもよらなかった。
「わたし、プリキュアになりたいよ!」
ある日、3歳の娘が興奮気味で言った。
家族ぐるみで付き合っている友人からハロウィンパーティーに誘われて
「何の仮装しようか?」
家族で話し合っていたときに、娘が提案してくれたのだ。
「いいね! やろっか!」
私より、夫の方が鼻息が荒かった。
簡単な衣装なら作れるのだが、プリキュアはハードルが高かった。
衣装を買いハロウィンパーティーに参加した。
友達みんな大喜び!
横山家一同とても嬉しい気持ちになってしまいその時の写真を年賀状にして送った。
それ以来、毎年ハロウィンの仮装をしたり、その年、横山家で流行ったものに仮装して(コスプレのように完成度は高くないのであえて仮装と言っている)
年賀状を送るようになった。
衣装や小道具を家族で作ったり、メイクをしたり。
きゃっきゃ、きゃっきゃと
横山家のおバカな仮装が「我が家の風物詩」になっていったのだ。
(特に夫は真面目なので「真剣にやらなくては!」と、我が家で行うハロウィンパーティーも決して手を抜かなかった)
絵を描くのが好きなことと、ベリーダンスを習っていたおかげで、コッテリバッキバキのメイクをするのも得意だった。
友達や恩師は
「毎年どんな格好の写真なのか楽しみにしているー!」
「今年は何にコスプレするのか家族で予想立ててる」
「マジで初笑い」
と、連絡をもらうようになり、
家族みんなで有り難いね!と毎年笑顔になった。
しかし突然、
私が病気になってしまい
ほぼ寝たきり状態の毎日になってしまった。
いろんな刺激が痛いので真っ暗闇に一人で寝ていることが多くなり楽しいことなど何も考えられず、よく泣いていた。
そんな時、
「母ちゃんが笑えるように、父ちゃんの面白い動画や写真を撮っていくよ。つらいときにそれ見て笑って欲しいから」
と力強く娘が言ってきた。その横で夫もうんうんと頷き微笑んでいる。
なにをおっしゃっておるのだ?
身体の痛みとぼんやりする頭で思った。
そんなこと、しなくていいのに。と思った。
でも、娘と夫は本気で夫の笑える写真や、くだらない動画を撮り私のスマホに送ってきた。
何個も、何度も。しつこいくらいに。
私は暗闇の中スマホを開きその動画や写真を見て笑った。
何度も見てたくさん笑った。
そんな風に過ごしていたある日、娘と夫は
「さぁ、今年は何になる?」
と、穏やかに私に言ってきたのだ。
おーい、まてまて。私、こんなぐてんぐてんのヨボヨボのむくみ顔だよ?
仮装写真ハードル高すぎじゃない?
無理無理。と、すねながら寝ていた。
だけど
そんなことはお構いなし。
夫も娘も本気だった。
「メイクは私がやるし」
「撮影の時は支えるし」
長い年月をかけて変なチームワークががっちり育っていた。
「とりあえず、ほら何が好き?」
「……鬼滅の刃」
「やろ!」
やってみた。
「結婚記念日どうするの?」娘
「ジョーカーとハーレイ・クインがいい」私
「なってみよ」娘
なってみた。
「結婚25年目じゃん。何になりたいの?」
優しく娘が聞いてきた。
「チャイルド・プレイのチャッキーと花嫁のティファニー……」
答える私。
「やろ!」娘&夫
やりきってみた。
(いまだに思い返しても、チャッキーと花嫁のティファニーをやりたいと言った、私の気持ちがどこからやってきたのか不明である)
とにかく
私が立ち上がることで痛みがあったり、倒れそうになるので写真を撮るのは一苦労。
それなのに、一生懸命写真を撮っている。
撮影後は熱出してぐったり寝込む。
俯瞰して見ると、真剣に何やってんねん!! と言いたくなる。
しかし、撮った後は気分が清々しくなり、どういうわけか心が満たされるのだ。
でき上がった写真を見て、
家族みんなで笑う。
たくさん笑って元気が出てくる。
笑うっていいな。
笑えることって
最高に幸せなことだって思った。
振り返ると、
娘がつらかったときも、
夫が凹んでいたときも、
一緒にたくさん泣いて落ち込んで
「さあ、なんか面白いことしようよー!」とハッパをかけていた。
辛い中にいるときは笑えない。
でもいつか、
そのことも笑顔で話せるようになると、
私は長い年月をかけて家族から学んでいた。
辛いことや苦しいことを人前で上手に伝えることが得意じゃない。
なぜか笑える方に考えを持っていく癖があったことを、家族に思い出させてもらった。
今回写真を整理してみたら、
ここには載せられないような写真もいっぱいだった。
今年の年賀状の家族写真。↓↓
過去の仮装の写真を見ては
「ほんと、バカやっちゃってるよ」
と、自分達から元気をもらっている。
なんだか自分で自分をセラピーしているみたいな?
自分たちが
楽しく真剣にバカやっていることが
「この家族おバカ!」と、
見てくれた人が
元気になったら嬉しいじゃないか!
そう思うようになった。
一体いつまで続くのかわからないけれど、
いろんなことを笑いで乗り越えてきた
この歴史ある「横山家☆仮装写真」の習慣を
出来るかぎり続けていきたい。
もし、孫ができたりその先に繋がっている親族が私たちの写真を見つけて
「何これ? 何してるの?」
なんて驚いている姿を想像するのも楽しいひとときなのだ。
過去の自分たちが、
今の自分に笑いかけてくれることで
「あー、まだまだやったる!」 と
元気をもらえる時もある。
今日もしんどいな―と壁を見る。
写真の中の自分が
面白い顔をして
「笑えるなら大丈夫」
と、言っているように思えた。
今日も家族みんなで笑いながら過ごしている。
それを、未来の私たちが思い出して
また新しい笑顔が溢れていくのだ。
最後まで読んでいただき
ありがとうございます。
心から感謝の気持ちを込めて。
横山小寿々
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