戦闘能力は惚気
世界幸せ選手権があるのなら
その日も
私は上位入賞できる勢いだったと思う。
長年付き合った人と別れ
一目惚れをした
大好きだった人と付き合って
すぐに結婚をした。
夫の会社が家賃を少し出してくれたため
新築の賃貸マンションに住むことになり
借家育ちの私は、
新しく住む部屋にすこぶる感動し
それはそれは
ウキウキマックス状態であった。
ご近所さんに挨拶に行き
数日がたったその日も
幸せいっぱい続行中のまま。
23歳の私は
新妻を張り切っていた。
夫は貯金はないよ!と言っていたから
これは私の大得意の節約をしていかなきゃ!
むふむふとリビングで一人転げまわり、節約について考えていた。
今日は横山さんは遅くまで仕事だし
(しばらく夫のことを名字でよんでいた)
お掃除でもするるん!
そう思っていたところに
ピロリーンとインターホンが鳴った。
「どちら様ですか?」
「ガスの点検です」
と言うので玄関を開け
「こんにちはー!どうぞー!」
ごつい若い感じ?の、おじさんを
部屋に招き入れて
「こちらです!ガス台は兄が一人暮らしの時に少しだけ使っていただけで、なかなか綺麗な状態です!」
ドヤ顔をし、ガス台を披露した私。
そんな私を上から下まで見て
「ほんとに結婚しているんですか…?」
図体が大きいわりに
若おじさんは怪訝そうにちっこい声で言ってきた。
へ?
どゆこと?
それって
私が可愛くないから?ってことですか?
結婚できひんってことですかいな?
被害妄想の会の代表になった気分になり
変なスイッチがギュン!と入った。
「ちょっと待っていてください!」
キッチンから
リビングへばびゅーーんと走り、
写真を手にしキッチンに戻る。
若おじさんの顔に
夫が笑っている写真を近づけ
「横山さんって言って、めちゃめちゃ格好いいんですよ!どこの角度から見てもサイッコーなんですよ!!声も素敵なんですよ!私声フェチなんで!お料理もね、すごく得意で!最高なんです!最近の寝言は、志村がー!だったんです!志村けんさんの夢を見ていたそうで。可愛いですよね。ひげが濃いのに肌はもち肌で、ひげを抜いてあげたら血まみれになって顔が腫れちゃって!それも可愛くて!まだ結婚式はしてないんですが、準備中でーす!」
恋する乙女の私は
若おじさん相手に
キュンキュントーク炸裂していた。
もっと、もっと語りたい!
夫の素敵なところを語りたい!
私の目はハートだった、と思う。
若おじさんは、私からそっと目をそらし
しおらしく
「お幸せに」
と言い、キッチンから素早く去り、玄関を出ていってしまったのだ。
あれ?私、なんかやらかしたの?
ガスの点検は?
夫の写真を手にキッチンでぽかんとしていた。
大切な写真をリビングに戻していると
ピロリーンとまた
インターホンが鳴った。
若おじさん戻ってきたかも!と思い
すぐに玄関の扉を開けると
隣に住む奥さんが私を見て
「ちょっと、大丈夫だった?あの人押し売りだったでしょ?ガスの点検とか言ってさ、玄関入ってきて怒鳴りちらして。怖かったよね~!横山さんは大丈夫だったの?」
両肩を持たれゆさぶられた。
「あ、なんか、夫のこと熱く語っていたら、お幸せにって言って帰っちゃって。私のこと結婚してないと思ったみたいでした」
はははと笑いながらお隣奥さんに伝えると
私を上から下まで見て
「これから誰か来たら、お母さんはいません!って言えばいいから!」
うんうんと頷き部屋へ戻っていった。
私も部屋に帰り
お風呂の鏡に自分を映し見た。
高校時代のジャージを着て
短パン、ルーズソックスの
出で立ちの自分がいた。
節約大好きな私は
学生時代のジャージも
ルーズソックスも
それはそれは大切に使っていたのである。
隣の奥さんが言うように
チビな私は確かに子供に見えた。
でも、あれよ、
押し売りを惚気で撃退したってこと?
「惚気ってすごいじゃん!」
とルンルンし、
私は惚気というアイテムをゲットしたのだった。
夫が帰宅し
今日の出来事を話したら
だめじゃーん!と
注意されたことは言うまでもなかった。
そのあと、ぎゅってしてくれたけどね!←惚気の追い撃ち!!
※結婚して25年目に突入しましたが
さほどこの頃と
考えが変わっていない私です。
でも、
押し売り対策には居留守を覚えました。
***
こんな私が鼻息荒く書いた書籍!
1月19日販売です!
最後まで読んでいただき
ありがとうございます。
心から感謝の気持ちを込めて。
横山小寿々
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