法務機能とは何か? 法務機能は、経営機能の一部の担い手(2022/03/28更新、2020/1/3開始)
【更新履歴】
[2020/11/28追記] 法務機能という抽象度が高い話をするときは、全社戦略を担う経営機能の一部である法務機能について言っているのか、事業戦略を担う経営機能の一部である法務機能について言っているのか、に自覚的になる必要がある。「事業戦略を担う経営機能の一部である法務機能」はまさに「プロダクトカウンセル」という機能だと、私は考える。
[2022/03/28追記] 機能は、部門とは異なる意味合いを持っている。部門の名称に囚われるのではなく、どんな機能を会社から求められているのか、どんな機能を果たしたいのかという視点で、面白がりながら仕事をしたい。そうすることで、自分特有の機能を自身に内在化させることができ、結果、それが異動や転職のときの武器になる持ち運び可能なポータブルスキルとなる。
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法務機能を考える上で、忘れてはいけないことがある。「事業の目的」と「戦略」だ。これを抜きにして、法務機能を考えるのは、難しいと私は考える。
もちろん、法務機能に限らず、法務機能以外の機能も、「事業の目的」と「戦略」を理解する必要があると私は思う。その意味では、「事業の目的」と「戦略」の理解は、法務機能だけに必要とされるものではない。
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■経営者と法務での、共通「目的」の擦り合わせ
個人的には、経営者と法務の共通目的は、「長期的利益」と捉えたい。
理論的には、①法令遵守が前提の「長期的利益」、②法令遵守を前提としない「長期的利益」の二つに分かれる。 また、「長期的利益」を目的としない経営者も(法務も)いるはずだ。本音軸と建前軸がある。
また、以下の点で擦り合わないこともある。
「会社を維持し発展させること」や「長期的利益」や「国際競争力強化」や「「事業の創造」つまりは「価値の創造」」などなどを起点にして、もっと具体的に法務と経営者が対話モードで話せる場があれば、良いのかもしれない。 その後に繋がる効果的な目的になるようにすり合わせたい。
とはいえ、ダニエル・キムが提唱した「組織の成功エンジン」のように、場を作り、場の質を高めることで、関係性の質・思考の質・行動の質・結果の質が高まり、さらに関係性の質が高まるという循環を作りつつ、目的が徐々に理解できるという長期的な取り組みになる。
上記が「目的」の階層。「目的」レイヤーが経営者と法務パーソンとの間で擦り合わない組織もあるし、ほどほどに擦りあっている組織もあるはず。
■経営者と法務での、「事業戦略」の擦り合わせ
次は、戦略レイヤーの擦り合わせだ。
『経営戦略原論』を見ると、①全社戦略、②事業戦略、③機能戦略という階層で記載がある(図表7-5「全社戦略、事業戦略、機能戦略の伝統的な階層」)。 なお、図表中の機能戦略の階層には、「法務」の文字は見当たらない。
以下、②の事業戦略の話に絞って、お話しする。今回は、全社戦略については、お話ししない。 なお、そもそも、機能戦略を除いた経営戦略という層において、全社戦略と事業戦略の二分法で捉えているが、法務機能を考える上で、それが効果的な分類なのかも分かっていない。
さて、事業戦略の話だ。法務は、経営者サイドの視点を理解する必要がある。『ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件 』の事業戦略ストーリーのフレームワークは、個人的には使い勝手がいいので、使っているが、他のフレームワークでもいい。
仮に、「目的」レイヤーで「長期的利益」のフレームで、経営者と擦りあっている場合は、「利益」を分解して、「収益」と「コスト」にする。これは経営者サイドの視点だ。
経営者サイドに立ち、経営者サイドの目線、脳みそで「事業戦略」を捉える、把握する。
■法務から経営者への法務サイドの視点「法的リスク」の伝達と対話
一方で、法務サイドの視点は「法的リスク」だ。分解すると、①リスクの発生確率、②発生時のインパクトの大きさ、③ダメージコントロールの成功度(個人的に好きな名著『事業担当者のための逆引きビジネス法務ハンドブック』を参考)。
法務サイドで分析した法的リスクを、翻訳して、「長期的」、「利益」、「収益」、「コスト」の各要素への影響に置き換えて、経営者に説明する。
それを踏まえ、経営者が、OK、NG、条件付きOKの判断を行う。 経営者も法務も様々な人がいる。そして、各人が限定合理的であることを認識する。バイアスを認識するために、以下のマトリックスで考えてはどうか。
横軸を切り口1、縦軸を切り口3にして、時間軸を考慮に入れて、経営語に都度、法的分析結果を翻訳しながら説明する。 一例だが、上記のようなマトリックスを使えば、各人のバイアスを認識しやすく、空中戦にもなりにくく、説明の緩急もつけやすい。
法務と経営者との話の結果、経営者がリスクを過小評価または過大評価して、長期的利益を損ねる決断をしそうであれば、補足説明などの手段を重ねる。
そう考えると、法務の機能の一つは、リスク低減ではなく、三つの観点の法的リスク分析、経営語への翻訳、経営者への「目的」に沿った説明・議論・対話等によるインプットなのだろう。
注意したいのは、個別各論で見ると、「長期的利益」という目的に合致しない場合だ。その場合は、事業戦略ストーリー全体で理解したい。その観点で、経営者が考える事業戦略ストーリーの「全体像」は把握しておきたい。 その上で、「長期的利益」という目的に合致するかを、法的世界に潜って検討する。
■『幾山河―瀬島龍三回想録』に見るスタッフ機能の本質
上記のように、法務は、経営者と「事業の目的」や「事業戦略」について対話し、理解することが大前提で、その上で、法務サイドの視点を経営者に伝え、経営者と対話することが法務の重要な機能だと考える。
結局、この文脈における機能の名称は何かと問われるとよく分からない。
時々読むのが、瀬島龍三が伊藤忠商事の業務部長の際に作った『スタッフ勤務の参考』だ。(『幾山河―瀬島龍三回想録』)
3ページの短い文書だ。そこにはこう書いてある。
特に、「経営の方針」と「事に処する意図」という箇所に注目したい。
[2022/03/28追記] この短い言葉を読み返してみた。「よく接し」、「その性格、人柄を理解し」という記載も、非常に趣深い。単に「接し」ではなく、「よく接し」という点も大事で、そうするための一つの方法が「雑談」である。
■「国際競争力強化に向けた 日本企業の法務機能の在り方研究会 報告書 ~令和時代に必要な法務機能・法務人材とは~」から発想する法務機能とは何か?
他の切り口もきっとあるだろうが、①実現可能な範囲を広げる機能 ②実現可能な範囲内での最大化を目指す機能 ③実現可能な範囲内にとどめる機能、と整理できる。
「法令から事業や事業戦略や取引に迫る方法」と、逆側から迫る方法、つまり、「事業や事業戦略や取引から法令に迫る方法」の2種類がある。
法務機能にとって大事なのは、「法令」と「事業や事業戦略や取引」との間を振り子のように、行き来することだと考える。
法務機能は、経営機能の一部である。本来は、経営機能を担う経営者が、法務機能を担ってもいいはずだ。経営機能が全知全能であれば、それが最も効率がいいはずだ。ただ、それは現実的ではない。そうなると、経営機能が法務機能を理解するとともに、法務機能が経営機能を理解しなければ、効果的な経営はできないだろう。
なお、「事業や事業戦略や取引から法令に迫る」アプローチは、『事業担当者のための逆引きビジネス法務ハンドブック』を起点とするのが良さそうだ。このアプローチは、事業や事業戦略を責任を持つ人が何を知っておいた方がいいのかという視点に立っている。
■おすすめ図書
▼『ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件 』
▼『事業担当者のための逆引きビジネス法務ハンドブック』
全章おすすめだが、「収益」観点では2章「収益改善戦略の法務」、「コスト」観点では3章「コスト削減戦略の法務」が注目の章だ。
『事業担当者のための逆引きビジネス法務ハンドブック』の各モジュールの構造は以下の通りだ。
事業戦略の責任者においても、「戦略のエッセンス」を読むことで、戦略の概略、フレームワークをおさらいできる。つまり、経営機能が、法務機能を理解するための本としても効果的だ。
■おまけ 法務同士のオープンイノベーションのすすめ
ホームズからワトソンへの示唆ではないが、大事な視点は、『事業担当者のための逆引きビジネス法務ハンドブック』に載っていないことは何か?ということ。 特に、自社において不足している点を見つける。不足をあぶり出すための比較対象は、自社の目的、事業戦略、取引を含むビジネスモデルである。
例えば、『事業担当者のための逆引きビジネス法務ハンドブック』をコアにし、そして、この本のフレームワークから着想して、各法務パーソンが持つフレームワークを集積していったら、新しい世界が見えるかもしれない。
そのためには、モジュール化しやすいフレームワークが必要だ。モジュール化できれば、マシンに食べさせられるかもしれない。
以上