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目標が「日本一」「一部昇格」"だけ"ではダメな理由

1.はじめに

昨日、スポーツデザイン研究会でオンラインの飲み会を開催しました。

※スポーツデザイン研究会については以下参照ください。

参加者の中で、大学生がいました。

その学生はとある競技の体育会部活に所属されています。

話の中で、その学生がチームの目標が毎年、「一部昇格」で固定のようになっているが、本当にそれでいいのかと思うようになった、ということを言いました。

例えば、ファンを増やすとか、そういうことも考えるべきではないか、ということみたいです。

このことは正に日本の部活を考える上で重要な点だと思ったので、私の考えを彼に話した内容を少し抽象化してまとめてみました。

2.目標を設定する上で注意するべき点

結論からいうと、チーム目標を「日本一」とか「一部昇格」に設定すること自体は全く問題ないと思います。
高みを目指すことは選手にとってモチベーションになりますし、チーム一丸となる上では必要だと思います。

しかし、ただ「日本一」「一部昇格」"だけ"では目標として不十分です。

何故か。

それは目標を「日本一」「一部昇格」に設定する"だけ"ではチームや自分が大きく成長することができないからです。

目標は「自分を成長させる」ために設定するものです。そして「自分のために使える状態」にする必要があります。

人が大きく成長するには以下の4つの条件が必要です。
①雑念が入らず、その事に没頭できる。
②目標が明確である。
③目標がギリギリ達成できるかどうかのレベルに設定されている。
④目標に対する自分の現在地が頻繁にフィードバックが得られる。

この4つの環境がそろったとき、人は「フロー」と呼ばれる状態になる確率が高まります。簡単に言うと、「熱中してハマっている状態」です。

フロー状態においては、人間の成長スピードが非常に強化される、と言われています。

少し理屈っぽくなってしまいましたが、言いたいことは、

「目標」は自分を「フロー状態」にさせるために設定し、「自分を大きく成長させるために使えるもの」にしなければならない。

ということです。

「日本一」「一部昇格」という目標を上記の4つの条件に当てはめたとき、以下の部分が問題として出てきます。

①雑念が入らず、その事に没頭できる。
基本スポーツは楽しいものです。ですので楽しいうちは部活に没頭できると思います。
しかし、スポーツには対外的にもチーム内にも勝敗が付いてきます。
思うような結果が出ない時があります。
また、人間関係でトラブルも出てくるときもあるでしょう。
そんな時は楽しかった部活が苦しい物になる場合もあると思います。
そんな局面になったとき
「そもそもなんでこんな苦しい思いをしてまで日本一を目指さないといけないんだっけ?」
「そもそもなんでこの部活をやっているんだっけ?」
という思いが脳をよぎることがあります。
この思いに対する答えをしっかりと自分の中に持っていないと、部活に没頭することができず、フロー状態には戻ることができなくなります。

②目標が明確である。
「日本一」「一部昇格」という目標は一見明確なように見えますが、実はあまり明確とは言えません。
それは「相対評価」だからです。
極論自分たちが弱くても、ほかのすべてのチームがもっと弱かったら達成できてしまうわけです。
それは試合をやってみないとわからないことで、後述のフィードバックに繋がりますが、相対評価では目標を自分たちの成長に繋げることが難しくなります。
目標を明確にして自分たちの成長に繋げるには自分でコントロールできる「絶対評価」にする必要があります。
例えばサッカーで例えると
「日本一になる」
⇒「日本一にふさわしい能力を備えたチームになる」
⇒「試合での平均走行距離が〇km、デュエル勝利率が〇%、シュート決定率を〇%・・・」
というように自分たちでコントロールできる数値に変換していく必要があります。
(もちろんここで設定する数値は「どんなプレースタイルで日本一になるか」から落とし込まれるものとリンクさせる必要があります。)

③目標がギリギリ達成できるかどうかのレベルに設定されている。
②と関連してきますが「日本一」「一部昇格」だけでは相対評価でぼんやりしてしまうので、どのくらい達成できそうか、が良くわかりません。
前述のように、「試合での平均走行距離が〇km、デュエル勝利率が〇%、シュート決定率を〇%・・・」というところまで変換できれば、ギリギリ達成できそうな数字かどうかを確認できると思います。

④目標に対する自分の現在地が頻繁にフィードバックが得られる。
これも③と似ていますが「日本一」「一部昇格」という目標だけでは、結局シーズンが終わって結果が出てみないと自分の現在地がよくわかりません。
しかし、終わってからでは遅すぎます。
②で変換した「試合での平均走行距離が〇km、デュエル勝利率が〇%、シュート決定率を〇%・・・」という感じの目標であれば練習試合毎に確認することができます。
また、これをさらに日々の練習に落とし込むと、
「今週の走る距離を〇km、〇メートル走を〇本、フォーム改善で〇メートルのタイムを〇秒短縮、理想のシュートフォームにするために○○筋のトレーニングを〇回・・・・」など目標に到達するためのロードマップが作れます。
ロードマップの実行
⇒ 目標数値の達成状況の確認
⇒ 目標数値が上がってこなかったらロードマップの作りなおし
⇒ ロードマップの実行
⇒ ・・・・
というサイクルを回していくことで、目標に対する自分の現在地を強く認識することができるようになります。

 

以上、「日本一」「一部昇格」"だけ"では目標として不十分な理由をまとめてみました。

それではどうすればよいか。

さきほど書いた部分と重なりますが、私は以下の2つを意識するとよいのではないかと考えています。

①チーム目標とレゾンデートルをセットにして考える
②目標は「コントロールできるもの(=絶対評価)」「可視化(数値化)できるもの」にする


3.チーム目標にはレゾンデートルがセットで必要

レゾンデートル(raison d’etre)はフランス語で「自身が信じる生きる理由」や「存在価値」という意味です。

スポーツは人生の一部分にしかすぎません。スポーツに携わっている人にとってスポーツ以外のことも日々起きます。

プロやトップアスリートも含め、人生の中では現役選手でない期間の方が長くなります。

アスリートのセカンドキャリア問題にも通じるところがあるのですが、スポーツの中だけで目標を設定してしまうと、何か壁にぶつかり、
「そもそもなんでこのスポーツ(部活)やっているんだっけ?」
「こんな苦しい思いをしてまでやる意味ってあるのかな?」
「でも辞めた後何をしたらいいかわからない」
という思いにとらわれ、競技に没頭できず、成長が止まってしまいます。

この状態を回避し、自分の成長を継続させるには、「自分の人生に今のこの部活の経験をどう位置付けるか」=「部活をする上でのレゾンデートル」について考える習慣が必要です。

これは直ぐに答えが出るものでもないですし、引退してからわかる部分もあります。

しかし、現役中から考えておくことが必要です。

早稲田大学ア式蹴球部とポカリスエットのコラボCMのイメージです。

ちなみにこのレゾンデートルは早稲田大学ア式蹴球部の外池監督が言い始めた単語です。

「日本一」や「一部昇格」を苦しい思いをしても達成することが、なぜ自分の人生に必要なのか

そもそも何故この部活をすることが自分の人生に必要なのか

これらの思考とセットで目標を設定することが必要です。
このような思考を日々やっておけば、苦しい局面も乗り越える意味があると心から思えるようになり、自分の成長が止まる状態に陥ることを回避できます。

また、自分の人生から考える視点を持つことで、「日本一」以外の軸にたどり着くこともできるようになります。

一番最初に書いた学生の例だと「ファンを増やす」という軸がその学生や所属する部のチームメイトの人生にとって必要だとたどり着けば、その軸で目標を設定すれば良いわけです。

ただ、注意点として「チーム全員が同じレゾンデートルを持つ必要はない」ということです。
むしろ、一人ひとり違う価値観を持っているため、そもそも全員が同じレゾンデートルを持つことは無理でしょう。

ではそれぞれが違うレゾンデートルを持つ中でどうやって目標を設定したらよいのか?

私は、チームメイトそれぞれのレゾンデートルを全て含めることができるような高い視点からの目標を設定する、と考えれば良いのではないかと思っています。

例えば以下のように、それぞれのキャリア意識が異なっている場合を考えます。

図

Aにとってはとにかく沢山練習をして自分の能力向上をしたいと思っているので、その他のことは余計に感じるでしょう。しかし他の学生は就職活動や教育実習などで練習に参加できないことも出てきます。

こういう時に目標が「日本一」だけだと、チーム内がギスギスするのではないでしょうか?

あくまで一例ですが話し合いを進め、全員のレゾンデートルを含むように

あらゆる面で「日本一」のチームとなる

というところを目標のスタートとすると良いのではないでしょうか?

①「競技成績(=優勝)」という意味の日本一
②「優秀な指導者輩出」という意味での日本一
③「優秀な社会人輩出」という意味での日本一
④「人気」という意味での日本一
⑤「品格」という意味での日本一

を含むこととなり、全員が一つの目標の下で異なるレゾンデートルを抱えながら活動することができるようになります。


4.目標は「コントロールできるもの(=絶対評価)」「可視化(数値化)できるもの」に変換しよう

前項で、人が大きく成長するための4つの条件
①雑念が入らず、その事に没頭できる。
②目標が明確である。
③目標がギリギリ達成できるかどうかのレベルに設定されている。
④目標に対する自分の現在地が頻繁にフィードバックが得られる。

のうち、①の環境を構築するために必要な「レゾンデートル」について説明しましたが、次は②~④です。

これは既に「日本一」「一部昇格」という目標だけしかない場合の問題のところで書きましたが、どのようなところに意識すればよいか、という点では以下の2つに注意すればよいと思います。

1.コントロールできるもの(絶対評価)に変換する

2.可視化(数値化)できるものに変換する

この2つの視点により、以下繰り返しですが
「日本一になる」
⇒「日本一にふさわしい能力を備えたチームになる」
⇒「試合での平均走行距離が〇km、デュエル勝利率が〇%、シュート決定率を〇%・・・」
⇒1か月後には「試合での平均走行距離が〇km、デュエル勝利率が〇%、シュート決定率を〇%・・・」
⇒「今週の走る距離を〇km、〇メートル走を〇本、フォーム改善で〇メートルのタイムを〇秒短縮、理想のシュートフォームにするために○○筋のトレーニングを〇回・・・・」
というようにロードマップを設定できます。

ロードマップの実行
⇒ 目標数値の達成状況の確認
⇒ 目標数値が上がってこなかったらロードマップの作りなおし
⇒ ロードマップの実行
⇒ ・・・・

というサイクルが日々回るようにすることで、目標を自分たちの成長に繋げるために活用することができます。

前項で、あらゆる面で「日本一」のチームになる、と目標を大きく広げる例を挙げましたが、その場合は、

①「競技成績(=優勝)」という意味の日本一
⇒ 上記と同じ変換

②「優秀な指導者輩出」という意味での日本一
⇒ 教員採用試験合格率○○%、地域でのサッカー指導実績○○件、等

③「優秀な社会人輩出」という意味での日本一
⇒ 第一志望企業採用合格率○○%、平均年収○○万円以上の企業への就職率○○%、等

④「人気」という意味での日本一
⇒ SNSのフォロワー数○○人、観客動員数○○人、グッズ売り上げ○○円、等

⑤「品格」という意味での日本一
⇒ 毎日部室や倉庫の整理整頓及び掃除をする、困った人を見かけたら積極的に助ける(これは数値化が難しいですが)、等

という感じでさらに目指す数字を増やしていく感じかと思います。

5.最後に

以上、チーム目標の設定について書きましたが、これは個人が目標を立てる上でも同じになってきます。

「日本一のプレーヤーになる」の場合

「なぜ日本一のプレーヤーにならなければいけないのか」
でレゾンデートルを問い続けながら、

「日本一のプレーヤーになる」
⇒「日本一にふさわしい能力を備えたプレーヤーになる」
⇒「シュート速度〇km/s、練習での枠内シュート成功率〇%、30m走〇秒・・・」
⇒1か月後に「シュート速度〇km/s、練習での枠内シュート成功率〇%、30m走〇秒・・・」
⇒「今週の練習は・・・」

という感じで日々の活動レベルまで落とし込み、自分の成長に繋げていくことが大事です。

少し理屈っぽくスポーツを捉えすぎだと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、こんな感じでスポーツに取り組むと面白さが倍増しますので、是非意識してみてください。

私自身も仕事にスポーツに日々、
①レゾンデートルの自問自答
②目標から落とし込んだ日々の活動の確認
③ロードマップの再検証
を繰り返していますが、充実して過ごせているなと感じていますので、これからも意識してやっていきたいと思います。

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