大学スポーツは「スポーツ×地方創生」の中核となる
1.はじめに
以前、アメリカのNCAAを視察に行った時のことをまとめたnoteを書きました。↓
アメリカの大学スポーツを活かした大学経営の凄さを書いたのですが、「じゃあ日本ではどうする?」といった場合に以下のキーワードを上げさせて頂きました。
・同窓会整備
・スポーツ×他分野での教育、(企業との共同)研究、地域貢献
・地域の拠点化
・人材獲得分野との連携(地元就職の促進等)
その後色々と大学スポーツによる大学の発展モデルを考えていたのですが、アメリカとの一番の違いである「学費」の問題をどのように対処するか、がとても重要だと感じました。
アメリカの大学は安い所でも日本の3倍、高い所では6倍くらいの学費のため、スポーツ環境へ投資する財源が日本よりも豊富です。
日本において大学の発展のため、というだけでは大学独自の限られた財源の中からでしか投資が出来ず、特に地方大学のような小規模の大学ではスポーツの発展も大学の発展も非常に時間がかかってしまいます。
もちろん、じっくりと腰を据えた長期的な取り組みも大事ですが、社会情勢の変化が激しい時代において、もっとスピードアップすることを模索していかなければならない、と思案していました。
自分の中である程度方向性が固まってきたので、それをまとめる意味でこのnoteを書きました。
まだ実現できていないことなので、私の個人的な妄言で終わるかもしれませんが、とても夢があり、私はここにコミットしていく所存です。
2.スポーツデザインとは
本題に入る前に上記の引用記事のタイトルにある「スポーツデザイン」について補足しておきます。
スポーツが誰かに使われる、役に立つ、スポーツによって誰かの目的が達成しやすくなる、ようにスポーツ自体の在り方をデザインすることを「スポーツデザイン」と私が勝手に名付けております。
スポーツデザインによって「スポーツと社会の関係性を豊かにする」ことができると思っています。
詳しくはこちらの記事を参照ください。
↓
3.大学スポーツは大学の発展を支える
大学スポーツを大学経営にうまく活用することで、大学の発展を支えることができる、というのは前述の【NCAAではなく大学が凄い】アメリカの大学スポーツは超高度なスポーツデザインの集合体だったでも書きました。
これは実際に私の所属が運営している大学でも実感できています。誤解が生じないように最初に書きますが、大学スポーツ"だけ"で大学が発展するわけではありません。
しっかりとした教育理念、教員による教育・研究・地域貢献、学生へのサポートがあった上で、それを多くの方に知ってもらう手段として大学スポーツが活きてくる、ということが大前提です。
私の所属が運営している大学の1つで保健・医療・福祉・スポーツの総合大学があるのですが、ここは現在開学20年目ですが、5年目の時から大学スポーツを本格的に開始しました。
当時は学生数が1,300~1,400人の大学でしたが、現在は約4,500人と3倍強まで拡大しています。
強化している大学スポーツも現在では10クラブまで拡大しています。競技によっては学生王者や日本代表、プロ選手なども複数輩出できています。
学生募集担当の方からは、「訪問する高校でよく先方の先生からスポーツの話をされ、大学スポーツが非常に有益に働いている」という話も聞きます。
繰り返しますが、大学スポーツ"だけ"の力で拡大できたわけではないです。前述の内容や新規学科の企画力、高校の先生・高校生・保護者とのコミュニケーションなど、複合的にできていることです。
また、もう1つ「食と農」を専門とした別の大学が開学3年目ですが、「スポーツによって"食・農"の分野で活躍する人材を育てる」という趣旨でこちらも大学スポーツに力を入れています。まだ効果はこれからですが、手ごたえは感じています。
4.大学の発展は地方創生に直結する
ここまでは「大学スポーツを大学経営にうまく活かすことで大学が発展する」という内容で、前回のnoteと同じ内容です。
前述のように大学経営のためだけの大学スポーツ、ではスピード感が遅くなるため、さらにもうワンランク違った考え方が必要になってくるのではないかと思っています。
結論から言うと、タイトルに書いたように「地方創生」という切り口が非常に有効ではないか、と考えています。
その理由としては、単純に大学の発展が地方創生に直結するからです。
そのプロセスを説明します。
まず、大学スポーツによって大学が発展するとどのようなことが起こるか?
前述の事例のように学生が増えます。その結果、地域の人口が増えることと同じインパクトがあります。
保健・医療・福祉・スポーツの総合大学の場合、所在する新潟市北区の人口は7.6万人ですが、大学が拡大したことによりそのインパクトとしては学生数4,500人は人口の約6%になります。
食・農の大学の場合、所在する胎内市の人口は約3万人で、現時点の定員がMAXになった場合は人口の2.5%となり、今後大学が発展した場合はさらにインパクトが増えます。
このように地方大学の場合、学生数の増加によるインパクトが首都圏に比べ大きくなります。
さらに、大学から遠く離れた場所から通う学生はアパートや寮が必要になりますし、大学を拡大する上では教育施設を増築していきます。
すなわち、大学が発展すると結果として大学を中心とした都市開発が行われます。
このように人口の増加や都市開発といったことが地域の経済活性化にもつながる、という直接的な効果が出てきます。
大学スポーツの発展
⇒ 大学の発展
⇒ 学生数の増加
⇒ 人口の増加&施設・住宅や学費等の経済活性化
という非常にわかりやすい地方創生のモデルができるのです。
この地方創生のモデルから、大学スポーツの発展を加速させる方向性が見えてきます。
大学スポーツを地方創生の中に位置づけ、大学スポーツへの投資が街づくりに繋がる、というストーリーを明確にし、そのストーリーを共に目指すパートナーを見つけ、「街づくりをする上でのパートナーから資金を得る」という方向性です。
ここまでだけでも、大学スポーツが「スポーツ×地方創生」において強烈な効果がありますが、冒頭述べたようによりスピードアップさせることが必要です。
後述しますが、その街づくりの中で大学の
・人材輩出力
・地域貢献
・研究
といった大学の特色を混ぜることでさらにその地域ならではの特色を出してスピードアップができるのではないかと思います。
5.少子化の状況で大学は発展できるのか?
大学スポーツの発展 ⇒ 大学の発展 ⇒ 地域の発展
というモデルを書きましたが、
この少子化の状況で大学の発展などできるのか?
と疑問に思われる方もいらっしゃると思います。
個人的には「簡単ではないが、チャンスはある」と考えています。
それは、大学業界が寡占化が進んでいない市場だからです。
全国の大学生の数は約260万人です。そして最も学生数が多い大学は日本大学ですが、7.5万人とそのシェアは3%にも達していません。
これは定員が厳格に文部科学省に管理されているため、簡単に定員拡大ができないことによります。
見方を変えると、シェア上位の大学や偏差値やブランドで優位な大学だとしてもシェアの拡大が一気にはできない、ということになります。
ここに小さな地方大学でも戦い方によっては勝負できる余地があります。
・企業からの採用ニーズが高い分野である
・特色化され、この大学でしか学べない教育がある
・落ちこぼれを出さないようにとにかく拾い上げる
などを軸に教育を組み立て、戦略的な学生募集活動を行っていくことである程度勝負できるようになるのではないでしょうか。
6.大学は地域の中心としての役割を求められている
地方大学が勝負していくために「特色」が必要である、と書きましたが、この特色を大学の発展だけでなく、地域の発展に結び付けることで、大学の特色が地域の特色になり、地域のブランド力の向上や産業の創出に繋がって行くと考えられます。
実はこの点についてはずっと国も政策として掲げています。
文部科学省の
地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)
まち・ひと・しごと創生本部の
地方大学・地域産業創生交付金
など、大学と地域の連携を深めることで地域を発展させようとする取り組みはこれまでも多くありました。
大学スポーツも、「第2期 まち・ひと・しごと創生総合戦略」では、スポーツ・健康まちづくりに関する政策の中で重要な柱に位置付けられています。
このように、大学や大学スポーツは政策的にも地方創生で求められています。
それでは、大学スポーツの発展をスピードアップさせるために、大学スポーツの発展と地域の発展や特色化を繋がるようにするためには何か必要なのでしょうか?
7.大学スポーツが変わるべきところ
大学スポーツが地域の発展にまで結び付くためには、「学生アスリートがその大学のシンボルとなる学生である」ということが大事です。そうならなければ、どれだけスポーツで注目を集めていても、「選手=その大学の代表」として見なされません。
また、学生アスリートが一般学生から「自分たちとは違う存在」と認識されてしまうと、在学生や教職員から応援されなくなり、地域からも応援されません。
このような大学スポーツの状況では大学の発展にはある程度効果があるかもしれませんが、「地域の特色化」まで発展させることはできず、街づくりのパートナーを見つけることはできないと考えられます。
日本の多くの大学スポーツが抱える課題はまさにここで、
「学生アスリートがその大学の教育理念を体現する存在となっていない」
「その結果、在学生・教職員・OBOG・地域から応援されていない」
という部分を変えていくことが大事だと考えられます。
まず学生アスリートが学内や地域からリスペクトされる存在となるように、
・授業中や学内での態度の向上
・地域への貢献
をしっかりと取り組んでいくことが大事です。
(この部分を支援するために学生アスリートに対するキャリア教育が重要になってきます。)
これが変われば大学スポーツを通じて学内や地域を繋げることが出来ます。
その結果、
・スポーツを通じた教育により、大学の教育理念を高度に体現した人材の輩出
・スポーツによる学内コミュニティの活性化
・スポーツを通じてできた地域との繋がりを活かした、大学の特色による地域貢献の活性化
・スポーツを通じてできた地域との繋がりを活かした、大学の研究フィールドの拡大
が生まれ、これらの活動が地域の特色化に結びついてくるのです。
近い内容を以前も「大学スポーツがファンを増やすために考えるべきこと」という切り口で書きました。
このような方向性により「大学の特色を活かした地域の特色化」を共に目指すパートナーに、「大学スポーツ」を支援してもらうための合理性が出てきます。
以上が、冒頭に述べた大学スポーツの発展を加速するための方向性です。
8.スポーツツーリズムにも繋がる
ここからは上記の方向性をさらに発展させるとできそうなことです。
大学スポーツの発展が加速すると、スポーツ施設等の資源を充実させることができ、地域に開放できる資源が多くなります。
例えば、その結果国内外のトップアスリート、プロ選手、ジュニア世代の強化合宿を受け入れることが出来るかもしれません。
注目される選手団であれば記者も多く訪れます。
地域の方もその選手たちを見ようと大学に集まります。
このようにスポーツツーリズム的な地域の活性化にも繋がる可能性があります。
9.理想はエコシステム構築としてのディベロッパー
また、大学スポーツによる地方創生を進めるとできそうなことのもう1つとして、
スポーツ×○○(大学の特色)の分野での
・人材輩出
・最先端の研究と地域還元
・産業の創出
が進み、地域の雇用の拡大、大学を中心としたエコシステムの構築が出来るかもしれません。
前項のスポーツツーリズムも合わせて、大学が教育機関にとどまらず、
「地域のエコシステム構築のディベロッパー」
という役割になって来ます。
ここまで進むとパートナー企業のブランド価値向上も非常に高いのではないでしょうか。
10.さいごに
以上、「大学スポーツによる地方創生の可能性」と「大学スポーツをさらに発展させるために、地方創生に繋げて考えることの重要性」を書きました。要点を再掲します。
・大学スポーツが大学の発展に繋がる。
・大学の発展がダイレクトに地域の経済的な発展に繋がる。
・大学の特色が地域の特色化に繋がる。
・学生アスリートが「大学の教育理念や特色を体現する存在」とならなければならない。
・大学スポーツによって大学の人材育成、地域貢献、研究を発展させる。
・スポーツツーリズムにも繋がる。
・スポーツと大学の特色を活かした地域におけるエコシステムの形成。
ちょっと完全にまとまり切らなかったかもしれませんが、こんな感じでチャレンジしていこうと思っています。
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