「今治タオルブランド」はまだ進む。〜2泊3日 小杉湯スタッフの工場見学録〜
リピートアフターミー、Imabari towel makes Japan “cool.”
“イマバリタオル メイクス ジャパン クール”
松山空港から市内に向かう道中、中学校の英語の授業で繰り返し声に出した英文が蘇りました。「良いタオル」といえば「今治タオル」。「愛媛」といえば「今治タオル」。「世界に誇れる日本文化」と言えば「今治タオル」。
それは私が幼いときから当たり前のことで、その裏に作り手・伝え手がいるなんて考えたことすらなかったような気がします。
この度、「今治あきない商社」さんのご案内のもと、今治タオルの工場・販売店など合計9か所を巡らせていただきました。「人がつくる『今治タオル』に包まれた2泊3日。小杉湯スタッフが見た、「タオルの裏のひとびと」について少しだけご紹介させてくださいね。
「今治あきない商社」について
今回、私たちをアテンドしてくださったのは、「今治あきない商社」さん。なんと市役所の内部で立ち上がった、資金・消費・投資の流出を流入に変え、地域でお金がまわることを目指す地域商社です。
都市部や海外に販路を拡大することが求められる中、生産年齢人口の減少で県外へのマーケティング・営業などが難しい状態になっています。そういった地元の企業のお手伝いをしているのが、あきない商社さんです。ふるさと納税はもちろん、それ以外の独自の取り組みを通して今治市の商品の魅力を伝えていらっしゃいます。
印象的だったのは、あきない商社の社員さんがタオル工場の皆さまと密な関係を築かれているということです。新入社員の挨拶回りでタオル工場の社長さんに数時間こだわりを教えていただいたというお話を聞いたり、社員さんからタオル工場ごとの特色を教えていただいたりするなかで、ここは一丸となって産業を盛り上げようとしている地域なのだと強く感じました。
今治タオルはいかにして
「今治タオル」になったか
1886年に矢野七三郎という人が綿織物を起毛した伊予綿ネルを完成させ、その後、阿部平助という人が綿ネル織機を改造してタオルづくりをはじめたのが今治のタオル産業のルーツ。以来、約130年にわたってタオルづくりが行われてきたのが今治という土地です。100年以上続く企業も珍しくはありません。
長くタオル産業が続く今治ですが、130年間時代にともなって、盛り上がったり苦労したりを繰り返してきました。1960年、今治で開発したタオルケットが爆発的に売れ、日本最大のタオル生産地として一躍有名になります。しかし、1980年代後半より海外から輸入された手ごろな価格のタオル製品が激増。国内のシェアが8割を超えました。そこにバブル崩壊。輸入を規制するよう運動をするも実らず、今治のタオル生産は壊滅的な大打撃を受けます。
起死回生を狙った2006年、あるコーディネーターさんから紹介されたのが、クリエイティブディレクターの佐藤可士和氏でした。
今治の真っ白なタオルを組合から提供された佐藤氏は、この製品がきっかけで「今治タオル」を売り出す道筋が見えたといいます。「白いタオル」をブランドのキープロダクトにしていくこと。アピールが難しいけれど今治が誇っていきたい「安心・安全・高品質」を満たす商品にマークを付け、一種の記号化することで、人々に認知してもらうこと。そういうプロセスを経て、「良いものが良いものとして購買者に認知される」仕組みを作ったのです。
すべての今治で作られるタオルが「今治タオル」である訳ではありません。独自の品質基準をクリアしたものだけが、あのマークを付けることができます。たとえば「5秒ルール」。タオル片を水に浮かべたとき、5秒以内に沈み始めるかどうか。今治タオルの高品質を裏付ける最大の特徴である「吸水性」を保証するため、独自に設けた品質基準のひとつです。
今治タオルが「今治タオルブランド」としてブレイクしたのが2007年。それから17年が経ちました。
「報道ステーションで特集された翌日なんて、電話が鳴りやまなかったんですよ。」そう教えてくださったのは、吉井タオルの社長さんです。
骨の太い産業の「安定感」
吉井タオルの工場を見学して嬉しかったのは、社長さんはもちろん、企画営業部長の方も丁寧にご説明をしてくださったこと。もともとは数十年間職人として働いていらっしゃったという部長さん。会社が大きくなるのに合わせて営業なども担当することになったといいます。手工業だと社長のトップダウンで物事が決まりがちという印象があったのですが、社員の方に頼り、頼られながらあたたかな「会社」という組織を形成されたんだなと感じました。
品質へのこだわりも驚きです。「4年に1回は特注の糸を作ってくれているインドの工場や綿畑に品質の確認にいきます。いわば表敬訪問みたいなものですね。素材の良さを殺さないものづくりにこだわっていきたいからね。」そう語る吉井さん、なんと小杉湯のことを事前に入念に調べて、関係の深い花王さんの絶版本をプレゼントしてくださいました。人が好き、人との関係性を大事にするといった姿勢が、ものづくりに表れているような気がしました。
「長く使うものだから、50回、60回洗っても痩せない品質を意識しています。新品の状態じゃなくて、たくさん使ってもらって洗った後がその製品の本来の状態ですからね。」
「バブルのときは厚みがあって鮮やかな色のタオルが人気だったんだけど、バブル崩壊後は暮らし方、QOL、家具なんかに興味を持ってくださる方が増えました。主役は人間、タオルはわき役。一番ほっとする時間のそばにいるようなタオルを目指しています。」
どの工場を見学しても印象的だったのは、現場の人、それを支える経営の人がそれぞれを尊重している様子です。『正岡タオル』では、育児休業・産後パパ育休に関して企業側から積極的に制度を取り入れていることに驚きました。また、自社の製品がメディア等にとりあげられた際は従業員用の掲示板でその様子を共有しており、一緒にはたらく仲間から見える景色を大切にされている点がとても素敵でした。
2019年から組合としても「今治タオル子育て支援制度」を導入し、中学生以下の子どもを持つお母さんに月額1万円を支給したりと、産業全体でも働く人の日々を支えています。
大きな企業から依頼を受けることが多い会社では、タオルの安心・安全にもぬかりがありません。人の目で検品をした後、精度の高い検針機に通すことによって、赤ちゃんの肌でも安心して使える布の状態を目指しています。まさにプロフェッショナルな仕事です。
今治市のお隣西条市は、名水100選にも選ばれるほどの水の都。水がきれいなあまり、水道代が無料だったり上水道が無かったりする地域があるほどです。四国山脈の山と穏やかな瀬戸内の海、湧き上がる天然水など、土地の恵まれた自然を生かし、今治タオルの加工・染色は行われています。
「西条の排水基準は世界最高レベルとも言われています。」そうおっしゃるのは、染色工場インターワークスさん。染色や加工で使った水は浄化施設に送られ、染料を好む20種類以上のバクテリアを入れることで、段階を経て浄化されていきます。染めたばかりの水が流れてくる場所はいろんなものが混ざって濁った状態ですが、ブロックが進んでいくごとに、少しずつ透明度があがっていきます。
「浄化された水は鯉が住めるほどきれいですよ。」
今治の西染工さんでは、染色後のタオルの乾燥時にフィルターに付くきれいなホコリを活用。廃棄物を減少させることを目標に、着火剤として販売しています。地元の自然に生かされている企業だから、自然に恩返しをする。タオルを作り続けるための環境を、自分たちの手で守っていく。環境に対しても、お客様に対しても、従業員に対してもやさしい今治タオルが、触るとやさしい気持ちになれる理由がわかったような気がします。
「今治ブランド」はまだ進む。
Imabari towel makes Japan “cool.” 今治タオルは、日本を格好良くしている。
あの例文の背景にいた沢山の皆様は、今治タオルブランドの先へ行こうとしていました。
「白くて吸水性のあるタオル、っていうのが『今治タオルブランド』として象徴的になったでしょう。つまり業界的に、差別化をしないことを意識して売り出してしまったわけです。これからは、いい意味で競い合うことによって、切磋琢磨しながら会社ごとに成長することが必要なんじゃないかな。」
「組合で新しい取り組みをやるとき、まずは『やってもいいかもな』と皆さんの頭を悩ませたいですね。今治は歴史がある産地だからこそ、ブランドを守ることに一生懸命になってしまうことがある。守る、と同じくらい、ブランドを、商品を『つくる』姿勢を広めていけたらと思います。」
業界としても、現在会社ごとに製品や企業の特色を発信したり、タオルやサウナグッズなど、タオルの枠にとらわれない製品の開発をすることによって、会社の独自性を高めようとしているそうです。会社によっては海外の販路に力を入れているところも。
また、「高校や大学で今治を出たけれど、地元に帰ってきてここで働いている」という声をタオルの作り手、流し手両方の方から聞くことも少なくなく、一旦外で学んできた若い方が戻って産業を盛り上げていることも印象的でした。
ふるさとに帰った若手経営者が入るのは、「今治タオル青年部会 」。45歳以下でタオルメーカー及び協力会社に所属する方が所属でき、なんと最年少は26歳。若手ならではのユニークな意見が出る場だといいます。「孤独な仕事だと覚悟して地元に帰ってきました。だけど、同じタオル屋に生まれた人や協力会社の人との集まりがあって、とても心強いです。」
「タオルにかかわる人」を増やすことによって、良いタオルが良いタオルとして広まる仕組みづくりも広がっています。違いがわかりにくいタオルのマーケットの中で、欲しいタオルに出会える環境づくりを進めていきたい。そんな思いのもとはじまった「タオルソムリエ」の資格。2007年からスタートし、合格者数は3800人を超えました。他にも昨年タオル縫製士養成所が開講するなど、「今治タオル」を絶やさぬ努力を惜しみません。
2泊3日を通してお会いした皆さん全員が、品質についての誇りと、その先の売れ方・使われ方をキラキラした目でお話されていました。良いものが良いものとして広まらないと、良いものは残らない。今治タオルがすごいのは、その壁を認識し、おもしろがり、タオルを広めようと沢山の方面に手を伸ばされているところです。その姿勢は「徹底」というほかなく、こんな今治タオルにゆるやかにかかわる人々の一部になれたこと、本当にうれしく思います。
「今治タオルだから良いんじゃない、良いから今治タオルなんだ」。
そう工場を見学して実感したからこそ、これからの人生でタオルに出会う度、その「良さ」を発見してみる時間が楽しみでなりません。皆様も小杉湯で、あるいは他のいろんな場所でタオルに出会ったときは、それぞれの柔らかさを肌で感じながら、背景にいる人の柔らかさに思いを馳せていただけますと幸いです。その人たちは、今タオルを使っている皆さまを思いながら、タオルをつくっていらっしゃいました。
2日3泊を通してご丁寧に案内をしてくださった皆様、本当にありがとうございました!これからもタオルの町が、タオルを使うひとの生活が、ゆたかであり続けることを願って。