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波乱だった過去【3・人間の憎悪】
祖父との厳しい毎日を過ごし
私も5歳になった。
もちろん
お誕生日なんてものは存在しない。
昼間フラフラ一人で公園やお散歩していれば、
近所の人たちは
「あの子幼稚園も行かずに何してるのかしら」と
冷たい眼差しで見てくる。
当然お友達も居ない。
そんなある日、一人の女の子と出会う。
ひとつ下のちょっと生意気な女の子。
彼女はその街では誰もが知る有名な
大きなレジャー施設を営む経営者の娘。
お友達ができたと喜んでいたけど、
彼女は笑顔で私をバカにした。
幼稚園も行かず、
ボロアパートに住み、
親も居ない。
まぁ、今思えばそりゃそうだ。
大金持ちの娘からすれば
至極当たり前。
そして侮辱された直後
気付いたら私は
その子のお腹にパンチを食らわせていた。
彼女はお腹を抱え
うずくまって泣いた。
その夜、
その子とその子の母親がやってきた。
「お宅の子がうちの子を殴ったそうです!」
よくドラマである、まさにアレだ。
大豪邸に住む超お金持ちの親子が
よくまあ
あのボロアパートに
玄関先までとはいえやってきたなと
今になって思う。
謝るひいおばあちゃんと私。
祖父からは大激怒が飛ぶ。
惨めだった
悔しかった
私の淋しさも悔しさも
誰もわかってはくれない現実が
ただただとても悲しかった。
「私のことを馬鹿にしたんだよ」
「貧乏人って、
親もいない惨めな子って馬鹿にしたのに」
だけど
私のそんな幼心を
わかってくれる人も
寄り添ってくれる人も誰もいない。
やり場の無い想いを抱えて
自分がどれだけ惨めな環境にいるのかを
ただただ思い知らさせるだけの日々が続く…
そんなある日
母が昼間やってきた。
別れた父から母宛に
お洋服が段ボールに入って届いたからだ。
ろくに荷物をまとめる暇もなく
父の家からみんなで出てってしまったので
夜の仕事をする母にとって
色々置いてきてしまったお気に入りの洋服が戻ってきたことが
とても嬉しく安堵しているようだった。
母が嬉しそうに
中を開けて一枚一枚取り出すと
ナイフで切り裂かれた服が出てきた。
次から次へと、
ビリビリに引き裂かれた服が
目の前に現れる。
あらゆる服が
短冊状にビリビリに引き裂かれていた。
グリーンが鮮やかな綺麗なワンピースも
淡いピンクのフリルのブラウスも
跡形もなく
すべて短冊状に切り裂かれている。
きっとナイフで
何度も何度も切り裂いたのだろう。
もう切ることなんて出来ない
ひらひらの綺麗なお洋服たち。
母はビックリして声が出ていない様子だった。
それを見て
まだ5歳の子どもながらに
恐怖を感じた。
人間の憎悪を目の当たりにし
子どもながらに
人の怖さを知った気がした。
母の怒りと恐怖にかられた顔と
その切り裂かれた服の光景は
今でも鮮明に
映像として記憶に残っている。
人の恐ろしさ、
孤独の苦しみ、
貧困の惨めさ、
誰もわかってくれる人がいない淋しさ。
私は5歳で
それを知った。