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『宙わたる教室』(伊与原新著)感想
伊与原新著の『宙わたる教室』は定時制高校を舞台にした青春小説です。2024年末に放映されたNHKドラマの原作で、高校の夏休みの読書感想文コンクールの課題図書にもなっていました。
定時制高校の科学部が、教室に「火星をつくる」実験をします。火星に隕石が衝突したのと同じ環境を作ろうというものです。生徒たちで、重量可変装置を自作したりします。実話を元にした小説です。
「定時制高校」というとどんなイメージを持つでしょうか。全日制の「普通」の学校に行けなかった人たちが通う高校というマイナスイメージでしょうか。
しかし、そこまでしても、学びたい人たちが通う高校ということでもあります。それだけ高校という場所に憧れを持っている人たちが集まる場所です。
70代の高齢男性。40才で昼間はフィリピン料理店を営む日本とフィリピンのダブルのお母さん。高校に行くことなく働き続けてきた人。ディスクレシア(読み書きが困難な学習障害)の子。不登校だった子。
それだけ多様なメンバーが集まり、その交流が学びにもなります。
印象的な場面を1つ紹介します。生徒の一人である70代の高齢男性です。
彼は中学を卒業して、集団就職で福島から東京へ来てずっと働きづけ。授業中は教室の一番前に座って積極的に先生に質問しています。一方で「あんたの個人授業じゃないんだよ」と思っている生徒もいます。
彼が、妻のことを語る場面です。やっぱり集団就職で青森から上京し、タイル工場で働いてきた。そして、高校に行きたくてしかたなかったのは、私でなく妻だと。その妻は今、じん肺で入院している。妻の代わりに定時制に通い、妻の前で授業を再現している。そのためにいつも先生に質問していたのだと他の生徒たちが理解します。
この本を子どもに読ませたいと思うかもしれません。でも私は、大人こそが読むべきではと思います。学ぶ喜びを思い出します。私自身、ファシリテーションやコーチングを学んでいます。そして、学びのコミュニティをつくり続けたいと思います。
最後にこの本で紹介されているヘンリー・フォードの言葉を。「学ぶのをやめる人は、誰もが年寄り。二十歳だろうと八十歳だろうと。学び続ける人は、誰もが若くあり続ける。」