【創作】ラムネの音が鳴る方に
祭りの夜、駄菓子屋の松婆が神社で遊ぶ僕たちを集めて急に話し始めた。玉神様”という神様がラムネの音を鳴らしておびき寄せた子供を玉詰びんに入れて連れ去ってしまう、そう松婆は怖い顔で話した。最初はゲラゲラと笑っていた僕たちだったけど松婆があまりに真剣に話すもんだから途中から誰も笑わなくなった。
松婆の話が終わっても誰も何も言わず、ガヤガヤした祭りの音だけが聞こえた。黙ったままの僕たちに「早よ帰れよ」とだけ告げて松婆は店に戻っていった。
僕は松婆の話なんて全然信じてはいなかった。せっかくの祭りの夜なんだからもっとみんなで遊びたかった。玉神様か知らないけど、こんなのは大人が体よく僕らを夜遊びさせないための迷信だと思っていた。だけど他のみんなは松婆の話に怖くなったみたいで、一人また一人と家に帰っていった。
結局一人ぼっちになった僕は仕方なく家に帰ることにした。とぼとぼと帰り道を歩いていると遠くの方から音が聞こえた気がした。耳を澄ますと「カロコロ」と何かが当たるような音が聞こえる。音の鳴る方へ向かうと遠くで男の子が一人立っているのが分かった。ゆっくりと近づいて見ると、その男の子はさっきまで一緒に遊んでいた友達の雅也だった。雅也は僕に気がつくとニカっと笑った。
「雅也もまだ遊びたかったの?」
僕の声に雅也は黙って頷く。
「じゃあ一緒に遊ぼうぜ!もう1回神社へ戻ろう」
雅也に声をかけて僕は来た道を戻った。雅也は僕の斜め後ろをついて歩く。笛や太鼓のお囃子の音が聞こえる中、さっきの「カロコロ」がなんとなくまだ耳に残っている気がした。
本当は男の子を玉神様かと思って少し怖ったけど、雅也の顔を見てホッとしていた。でも雅也の家は僕の家とは確か反対方向にあって、なんであそこに立っていたのか不思議に思った。僕は立ち止まり雅也に尋ねた。
「雅也の家ってさ、僕んちと反対だよな。なんであそこにいたの?」
振り返って見た雅也の手にいつの間にかラムネの瓶が握られていた。雅也はまたニカっと笑って僕に言った。
「だってラムネの音を聞いてもお前が逃げなかったから」
雅也……いや”雅也だった何か”から低い声が体中に響いた。耳の奥では「カロコロ」とずっと鳴っていた。
おしまい(1101文字)
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