![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/30635170/rectangle_large_type_2_a2c4c570eb6de9d197cff6b9acf4fadc.jpg?width=1200)
名人を倒す(後編)
こんにちは😃コッシーと申します。
愛知県で介護事業を運営している会社の介護事業部の統括責任者をしております。
さて、本日の記事は前回の続きです。前回を読まれていない方はお手数ですが前回からお読みください。
※注:前回と今回の記事は全く介護とは関係なく単なる僕の思い出話です。
小林さんと出会ったその日から本当に毎日というほど僕は小林さん宅にお邪魔して将棋を指し、そしてお菓子をもらいました。
小林さんはとても優しく丁寧に将棋を指してくれましたし、何よりお菓子がとても美味しくて僕は小林さんのところに行くのが楽しみで仕方ありませんでした。
小林さんにはいろんな話をしました。サッカー少年団のこと、塾のこと、家のこと、そして将棋クラブのこと。
タカハル君というすごく強い子がいて何度やっても勝てないと話しました。
「君はそのタカハルくんに勝ちたいのかい?」
小林さんにそう聞かれた僕は即答が出来ませんでした。
勝ちたくないと言ったらウソになるけれど、正直タカハルくんに勝てるとは思えませんでした。
「…分かりません」
そう僕が答えると小林さんは「チャレンジしてみるか」といつものようにニンマリと笑いました。
そこから小林さんとの特訓が始まりました。
小林さんは僕に以下の2点を命じました。
・とにかく負けても良いので将棋クラブでタカハル君と対戦しまくる事
・出来るだけ対戦した時の内容を覚えておく事
学校のクラブ活動は週2回あり、僕は毎回タカハル君と対戦しました。
タカハル君のその強さゆえ、あんまりみんな対戦したがらなくて常に空いていたので、クラブの時間中何度も対戦できました。
負けっぱなしでしたが、その時の内容を出来るだけ記憶し、小林さんと一緒に感想戦を行いました。
感想戦で小林さんは小学生の僕でも分かるようにどこが悪かったのか、こう指したらこうなっていたとか、丁寧に教えてくれました。
何度となく感想戦を行い、背中すら見えてなかったタカハル君の輪郭が徐々に見えてきました。
小林さんによるとどうやらタカハル君は『矢倉※』の使い手らしく、矢倉を組むまでの数十通りのパターンを熟知しているとのこと。
※矢倉とは、将棋の戦法の一つで王将の周りを固める代表的な囲いの一つである。
相手の指し手により、自分の頭の中のあるいくつかのパターンに沿って矢倉を組むみたいで、これは小学生では勝つのは厳しいなぁと小林さんはニンマリしていました。
矢倉を崩す方法がいくつかあるみたいでしたが、おそらく付け焼刃ではタカハル君には通用しないだろうと僕には伝授されず、小林さんが対タカハル君用に立てた戦略はいわゆる『奇策』でした。
タカハル君は矢倉を組むのがパターン化されておりそこを逆手に取るという作戦でした。
そしてさらにタカハル君は僕を毎度毎度コテンパンにしてることから、かなり油断しており、僕がそんな奇策を企ている事など露ほど思っていないだろうとのことで、本番のリーグ戦まではその作戦を使わず油断を継続させました。
そしてリーグ戦が始まりました。
15人くらいのリーグで、僕もタカハル君も順調に勝ち続け、第10戦目にタカハル君と当たりました。
お互い全勝同士の対戦ということでクラブ内でもかなり注目されていましたが、タカハル君の圧倒的強さから勝敗に関しては誰も僕が勝つなんて思っていませんでした。
対局が始まります。序盤はタカハル君のパターン通りに進んでいるように見せ、確実に布石をおいておきます。
その布石も今までは散々タカハル君に失敗するところを見せています。
案の定タカハル君は「またこれ?懲りないね(笑)」と油断をしているようでした。
中盤に差し掛かる頃今までと全く違う1手を僕が指します。
「ん?これはミスったのかな(笑)残念だったね」とタカハル君は気にもしませんでした。
ここでタカハル君がこの1手の意味を考え対処していたらまた展開は変わっていたことでしょう。
タカハル君は完全に油断していました。
そこから数手ほど指しあった時、ようやく布石が生きてきました。
タカハル君がそれに気づいた時、もう時すでに遅しです。
「え?あれ?これがこうなって、いやダメだ。ちょ、ちょっと待てよ…(汗)」
その後のタカハル君の指し手は前もって小林さんが予想した通りでした。
僕は小林さんから教わった通りに指していきました。
タカハル君は必死に形勢を逆転しようともがいていましたが、ピタと指す手が止まると、じっと盤を見つめ長考しました。
時間にすると数十秒だったと思いますが、僕にはもっと長く感じられました。
静寂の中、タカハル君は僕の顔をジロリと睨み、
「参りました・・・」と呟きました。
その瞬間、教室中に歓声が鳴り響き、顧問の先生までも興奮して僕に握手を求めてきました。
僕は嬉しさよりも唇を噛み俯きながら震えているタカハル君に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。
それは『小林さん』というドーピングを使った罪悪感からだと思います。
その日僕は小林さんに勝利の報告をしました。
めちゃくちゃ喜んでくれましたが、なんとなく元気がない僕を見て多分全てを悟ってくれたのだと思います。
「君が今日タカハル君に勝てたのは、君がこれまで努力してきた結果であり君の力だ。それ以上でもそれ以下でもない。ただ次またタカハル君に勝てるとは限らない。多分彼は強くなるぞ(笑)」
と言って、いつものようにニンマリ笑ってお菓子をたくさんくれました。
その言葉通り僕がタカハル君勝てたのはこの1回だけでした。
リーグ戦の方は、タカハル君に勝って気が抜けたせいか、山王戦の後の湘北のように、3連敗してしまい結局名人の称号は再びタカハル君の元へいきました。
前期が終わり、後期からサッカークラブに入った僕は、自然と小林さんの家に足を運ぶ回数も減り中学に上がる頃には全く行かなくなりました。
お隣さんなので顔を合わせれば軽く談笑をする仲でしたが、歳を重ねるに連れて会う機会はほとんど無くなってきました。
そんな小林さんが今は僕の施設の利用者です…なんて美談は当然ありません(笑)
残念ですが、小林さんは10年ほど前にお亡くなりになりました。
でも僕は今でも将棋を見るとあの頃の思い出が蘇ります。
小林さんのあのニンマリとした笑った顔をはっきりと思い出します。
戦略を立て、努力をして、そして強敵に打ち勝つという本当に貴重で素晴らしい経験をさせてくれた小林さんには今でもとても感謝をしています。
将来僕が歳を取り仕事を引退したら縁側で将棋をやろうと決めています。
お隣の子供が回覧板を持ってやってくるのを期待しながら。
藤井七段棋聖のタイトル獲得本当におめでとうございます!!
どうか今後も将棋界を盛り上げてください!!
(明日からは普通に更新いたします)
現場からは以上です。それではまた。
コッシー