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【照れた赤鬼】
(相性ってやっぱりあるよなぁ……)
目の前で喚く利用者さんを見ながら、そんなことを思った。
「あなたが髪を振り乱してノシノシと偉そうに歩く姿は本当に赤鬼みたい!ああ怖い!」
目を吊り上げて大声で叫ぶあなたの方がよっぽど鬼みたいだと、絶対に口には出せないことを頭の中で考えていた。
僕は介護の仕事をしている。
これまでにたくさんの利用者さんたちと接してきた。様々な事情を抱えてうちの施設を利用してくれている方々に対して、僕は敬意をもって真摯に接してきたつもりだった。
もしかすると独りよがりなのかもしれないけど、多くの方と心と心が通じ合うことが出来たような気がしている。
けれど、その方は違った。
特にその方に失礼な対応をしたことはないと思うが、初めて会った時から僕のことが気に入らないようだった。
他の利用者さんと同じように接しているつもりだったけど、僕の言動や風貌に嫌悪感があるのか、とにかくその方から非難されることが多かった。
「言い方にトゲがある」「他の方を贔屓している」「私の言ったことをやってくれない」「ご飯が私だけ冷たい」「家族に余計なことを言う」などなど……顔を合わせる度に文句を意見を言われた。
僕以外のスタッフにはそう言った文句を意見を言うことは無く、いつも楽しそうに話をされていた。こっそり僕がその輪に加わろうもんなら、あからさまに嫌そうな顔になってその場から立ち去っていった。
一体に何が原因なのか全く分からなかったが、明らかに僕が嫌われていることだけは間違いはなかった。
ただ、嫌われているからと言ってその方と一切関わらないわけにはいかない。僕は施設の責任者だ。全員の利用者さんを把握する必要があった。それにこの道のプロである自分なら利用者さんの閉ざされた心を開ける自信があった。
僕は嫌がられているのを承知でその方と積極的に関わるようにした。きっと僕の誠意が伝わればその方も分かってくれる。僕を認めてくれるに違いないと、文句を意見を言われても怯むことなくその方と話をするようにしていた。
だけどその方の心が僕に開かれることはなかった。そして終いにはこのセリフを言われたのであった。
「あなたが髪を振り乱してノシノシと偉そうに歩く姿は本当に赤鬼みたい!ああ怖い!」
もう相性が悪いとしか思えなかった。
僕も一人の人間だ。頑なに自分を拒絶する方に対して、他の利用者さんと同じように誠意をもって支援ができるとは思えなかった。プロ失格かもしれないが、ポッキリと心が折れた僕は、必要以上にその方と関わることをやめてしまった。どうせ嫌いな僕なんかにその方も話しかけられたくないだろう、そんな風に後ろ向きな気持ちになっていた。
そんなある日のこと。
食堂でご飯を食べている僕の前を、先に食べ終わったその方が通り過ぎようとした時だった。僕の目の前で急に立ち止まったのだった。
真面目な表情で僕の顔をジッと見つめている。また文句でも意見でも…いややっぱり文句を言われるのかなと暗い気持ちになった僕にその方が口を開いた。
「え?もしかしてコッシーさん?」
どうやらマスクを外した僕の顔を見た事がなかったみたいで(きっと興味がなかった)、初めて見る僕の素顔に少し驚いた顔をされていた。
「……はい。コッシーです」
どうせ顔が怖いだのブサイクだの言ってくるに違いないと、僕はますます暗い気持ちになって渋々名乗った。するとその方は急に明るい声になって僕に言った。
「やだ!素顔は可愛い顔してるじゃない。これからはもういじめないでおくわね!」
そう僕に告げるとニコニコしながら食堂を後にしたのだった。
呆気に取られた僕だったが、これまで散々文句を言われてきて、急にそんな調子の良い事を言われても全然嬉しくなかった。むしろ戸惑いの方が大きかった。特に気にも留めず食事を続けていたが、ふいに周りのスタッフが声を上げた。
「コッシーさん、めちゃくちゃ顔が赤くなってますけど!!」
スタッフが指さした先には、頬を赤く染めて照れている僕がニヤニヤしながらご飯を食べていたのだった。
来年こそはなんだかその方と仲良くなれそうな気がするけど、そんなこと言ったら鬼に笑われるかもしれないので、心だけに留めておこうと思う。
おしまい
👹👹👹👹👹👹👹
この記事は12/22(日)に行われる【紅白記事合戦】の紅組に対するエール的な意味合いで書きました。
赤のエッセイは皆さんの代わりに僕が書いておきましたので、皆さんは当日は是非白のエッセイを書いてくださいね!!
いろんな方に企画をご紹介いただいております。
もつさん!ありがとうございます!モンブランの白ですからね!トマトジュースの事は一旦忘れてください。
あやしもさん!ありがとうございます!白組宣言!嬉しい!!ピザ納豆の悔しがる顔が目に浮かびます。これが章と友達の力よ。
SHIGE姐さん!ありがとうございます!まさかの赤宣言!いやでもどちらで参加くださっても嬉しいです。ただ白組はいつでもウエルカムですから!!
たくさんのご参加をお待ちしております。