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USELESS MEMORANDUM YSL(for men)Before Hedi Slimane後編

後編はトリビア編。

最初に紹介するのは
今回の調査で個人的に最も興奮した
此方のエピソードから。

恐らく言及されるのは世界初だと存じます。

〜伝説のカーディガン〜

無駄に大袈裟なタイトルで
つけた自分でも笑ってしまいますが…。

皆様は中編で
Yves Saint LaurentとBidermann社の
アメリカ市場最初のパートナーとして
紹介したManhattan Industries社を
覚えておいででしょうか?

ひょっとしたら
初見からこの名前にピンときた
音楽好き、古着好きの方もいらっしゃるかも
しれません。

早速のネタバレになりますが
このManhattan Industries社
とある伝説的なカーディガンを製造したメーカーなのです。

そのカーディガンとは…















此方になります。



Kurt Cobain 
1993 MTV Unplugged

NIRVANAのKurt Cobainが
1993年11月18日収録のMTV Unpluggedで
着用したカーディガン!

彼が晩年まで着用し
お気に入りだったこの一着は
2015年に最初に出品されたオークションにおいて
13万7500米ドルで落札。
更に2019年に再出品された際には
33万4000米ドルで落札され
大きな話題になりました。

1960年代に製造された
このカーディガンは
贅沢とは言い難い
モヘヤ、アクリル、ライクラの混合ニットで
ボタンも一つ欠け
毛玉だらけ、タバコの焦げ跡も二つ有り
××と思しき茶色い謎の汚れも付着した
本来小汚いただの古着に過ぎません。

しかし
あのKurt Cobainが
伝説的な放送で身に纏った
アイコニックな愛用品という事で
当初の予想額(4〜6万米$)を遥かに上回る
価格で落札され
世界一有名で高価なカーディガンになりました。

「Yves Saint Laurent(及びBidermann社)と
Manhattan Industries社の関係」

「Manhattan Industries社が製造した
Kurt Cobainのカーディガン」

以上の2点を踏まえて続きをご覧下さい。

件のカーディガン
最初のオークションが行われた2015年。
Hedi Slimane手掛ける
「SAINT LAURENT PARIS」
2016年のSSコレクションが発表されました。
それは奇しくも
Kurt Cobainへのオマージュを強く感じるコレクションだったのです。

SAINT LAURENT PARIS
2016SSコレクション

…尤も
オークションが行われたのは(11月)で
ショーの発表(6月)後の事なので
順当に考えると
このコレクションの着想源とは
全くの無関係かと思われます。

このコレクションまで関連付けるのは
流石にこじつけが過ぎますが
個人的には非常に妄想が捗るエピソードでした。

元々Hedi Slimaneは
Kurt Cobainの妻でもあったCourtney Loveと
親交が深く
彼女を被写体とした写真集を出したり

2013-2014 AWのキャンペーンモデルの一人として採用していたので

2013-2014AWキャンペーン広告

其方の繋がりと見る方が可能性は高そうです。

〜ジーンズとYves Saint Laurent〜

ジーンズ大好きYves Saint Laurentさん

「ブルージーンズを発明したかったと
私はよく言っている
それは
最も華々しく
実用的で
気取らず気儘なものであるからだ」

「ブルージーンズを発明したかった」と
屡々語っていた程
ジーンズに惚れ込んでいたYves Saint Laurent。

彼は1970年代にrive gaucheラインで
デニムを使用した作品を発表。
更にジーンズラインを展開します。

70年代 rive gaucheレディースラインの
デニムジャケット
上記と同じジャケット
rive gaucheのタグが確認出来ます

ジーンズラインの初期
アメリカ製のアイテムはBIG SMITHが
製造していました。

ジーンズラインJEANSWEAR
MADE IN USA
BIG SMITH製ワークシャツのタグ
上記と同時代と思しきアメリカ企画
白タグのジーンズ
MADE IN USA
此方もBIG SMITH製

その後
世界的なデザイナーズデニムの流行期には
大半がアジア生産へシフトしてしまいます。

…デニムに限らず
Yves Saint Laurentのライセンスは
かなり早い時期からアジア生産が多いですが…

(実例として1980年に発表された
ILO…国際労働機関(国連最古の専門機関)のレポートによるとBidermann社はベトナム政府と合意の上、ハノイ近郊にシャツ工場を設立しており
400名の従業員を雇用し
年間50万枚のシャツを生産していたそうです。
これは当時のBidermann社の年間シャツ生産量の半分に相当したそうです)

一方でヨーロッパ製も残り続けました。

EU表記の為
1993年以降製造であろう
pour hommeタグのジーンズ

ヨーロッパ製で具体的な生産国が
明記されたものでは
ポルトガル製を確認しています。
下の青枠タグのジーンズは
1953年創業でPierre Cardinの製造も請け負ったポルトガルのVILA ROMANA製です。

1980年代 ポルトガルのVILA ROMANAが
手掛けたジーンズ
Hedi Slimaneが最初期に手掛けた
1990年代後半のSAINT LAURENT JEANS
VILA ROMANAが手掛けたかは不明ですが
此方もポルトガル製が多いです




〜「poor」hommeと言う勿れ〜

綴りをよく見ると衝撃的というか
かなり挑発的なタイトルですが
これは私が本note執筆にあたり
情報を集めていた際に見つけた
海外のヴィンテージウェアのコミュニティで
pour hommeラインを揶揄する意図で使われていた言葉です。

本国のコレクションラインがデフォルトとなった
現在から見ると
ライセンス品は
デザイナー本人が手掛けた
本物(コレクションライン)
でも偽物でもない
中途半端な立ち位置で
価値も魅力も感じない方が多数かもしれません。
実際二次流通でも
現行のコレクションラインと比較すると
(同じ中古品でも)
大抵二束三文で売られています。

(ファッション業界に少し明るい者からすれば
コレクションラインのデザインすら
実際はデザイナー本人が
必ずしも手掛けている訳ではないという
野暮な正論をかましてしまいそうですが
それはなしで)

加えてライセンス品の質に関して
私個人の
忌憚なき意見を述べると
残念なクオリティのものも非常に多いです。
ただし
良く出来ているものが存在するのも事実。
正に玉石混淆。

同じタグが付いていても
まるで別のブランドかと思う程の出来の違い
それがライセンス品の面白いところです。
(面白くはない)

ではライセンスラインは展開されていた当時
プレタポルテラインと比較して
一体どれ程の価値があったのでしょうか?

まずは私見として…
前述の通りライセンス品と一口に言っても
ピンキリな品質に比例して価格の方も
ピンキリだったのではないかと考えます。

また時代や展開国ごとに違いがあった可能性も否めません。

以上を念頭において
あくまで一つの時代
一つの国の実態のサンプルとして
1985年7月27日のNew York Timesの記事を
引用致します。

「''We have not been completely successful with what we wanted to do,'' admitted Didier Grumbach, chief executive officer of Yves Saint Laurent Inc. ''Our first attempt was too basic.'' This year, Saint Laurent's second-tier line, Variation, is younger-looking - Mr. Grumbach describes it as ''more sportswear'' - to answer criticism that its previous designs were too outdated and its prices too high to attract working women. The items cost about 30 percent less than Rive Gauche, the top-of-the-line collection.」

この記事によるとライセンスラインは
プレタポルテラインであるrive gaucheの
約70%程度の価格で販売されていた様です。

MDに決定的な違いは有るでしょうが
感覚としては
セカンドライン的な立ち位置だったのでしょう。

同記事では他にも
Ralph Laurenを始め廉価版のビジネスに成功した他ブランドの例も取り上げ
各社社長のインタビューを交えつつ
ブランド名と単純な価格の安さだけでは
消費者に魅力的な価値を提供出来ない。
ターゲットであるマス層に訴求する
程良いデザインバランスも肝要であると説いています。
(因みにRalph Laurenも当時レディースラインは
Bidermann社が手掛けていました)

ブランドビジネスの
専門的な研究においては別として
現在では世間から非常に雑に(主に否定的に)
批評されている感が否めない
ライセンスラインですが
時代の流れの中
試行錯誤を行いながら
消費者のマインド、市場の成熟の
一端を担い
(とりわけ戦後の日本において)
アパレル製造業の
全体的なレベルアップに貢献した功績は評価したいと考えます。


…と真面目に締めようかと思いましたが
最後にほっこりする画像をひとつ

1981年
mensshirtsの広告

はい
トランクに御注目下さい。

!?

此方はコラでもコラボでもありません。

当時は寛容な時代だったのでしょう。
ここまで他ブランドのロゴ丸出しのアイテムを
広告に使ってOKが出るなんて
現在では考えられないですよね。
…まぁ付言すると
当時はLVも鞄専業でしたし多少はね?

以上で本noteを終わります。
相変わらずしっちゃかめっちゃでしたが
最後までお付き合いいただき
本当にありがとうございました。









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