M29と呼ばれた男 第3話
3日間の性能テストを終えた後、技師をカフェに誘う間もなく部隊に配属された。
404部隊。聞いたこともない部隊だ。
配属先の寮舎に向かうまで乗っけてもらった、輸送トラックの運転手(驚いたことに少女型の戦術人形だ)に話を聞いたところ、404部隊というのは非公式の部隊で、戦術人形の部隊に不可欠な、人間の指揮官を必要としない特別な部隊ということだった。
「なんか、頭の中身からして違うんだってさ」
ガタガタと揺れるトラックの助手席で、俺は戦術人形の少女の話を聞いた。
「作戦考案から実行まで、人形だけでやれるってわけか。AIもここまで来たかって感じだな」
「ほんとだよね。私なんて言われた通りにトラックを運転して、人を乗せて、帰って、また言われた通りに…の繰り返しだよ。嫌になっちゃう」
「たまには思いっきり、ドライブを楽しみたいわけか」
「休日はそうしてるけどね。海沿いの道路を愛車で飛ばしていると気分爽快!って感じで」
「錆びついたりとかしないのか?」
「機械と一緒にしないでよ。いい?そもそも私たちは機械とは根本から…」
談話が盛り上がってきた時、ふと外から別の車のエンジン音が聞こえた気がした。
ミラーを見ると、このトラックとは違う新型の4WDの軍用車両が後ろにぴったりとくっついてきている。
屋根が外されているタイプで、機動部隊がよく愛用しているやつだ。
「私たちが製造されたのは民間企業のニーズで」
「おい」
「何よ?まだ話の途中…」
「後ろのクルマはなんだ?」
「後ろ?この道は関係者専用の林道のはず…」
そのあとすぐに、戦術人形の顔が青ざめる。人形の顔が青ざめるってのはなかなか不思議な話だ。
「何なの?うちのやつとは全然違うし…それに」
「それに?」
「アサルトライフルを構えたやつが、こっちを狙ってる…」
次の瞬間、トラックは銃弾の雨に晒された。
サイドミラーが割れて、俺の視界から敵車両が目視できなくなる。
「おいおいおい、なにしてんだあいつら!」
「知らないわよ!」
「とにかく飛ばせ!」
頭を伏せながら口々に叫びあう。トラックはスピードを上げて、林道を疾走する。
俺は無線機を取った。
「本部!本部!こちらM29!聞こえるか!?」
しかし、無線機からはザーという雑音が漏れるだけだ。
「くそっ!ジャミングされてやがる!」
「だったら後ろを見て!早く!」
慎重に後ろを覗く。敵車両から距離をとれているが、さすが新型とだけあってぐんぐん距離が詰められている。第二波もすぐだろう。
俺は必至の形相でハンドルを握る戦術人形を見る。
「どう!?振り切れそう!?」
「無理だ!すぐに追いつかれるぞ!」
「ああ…もう!アンタ一人を送り届けるだけの簡単な任務のはずなのに!」
戦術人形は絶望の表情で、フロントガラスを睨んでいる。
その時、俺は奴らを処理する作戦を思いついた。
いや、作戦と言っていいのか分からないほど雑だが、やらないよりはましだ。
「おい!」
「なに!?今、集中してるから話しかけないで!」
「俺が、奴らを倒す」
「どうやって!?」
腰のホルスターに収まっているM29を抜いて、見せてやる。
「こいつでだ」
「拳銃一つで何ができるのよ!」
その叫びと共に、また銃弾の雨がトラックを襲う。
「こんのぉ!」
戦術人形は狭い林道で蛇行運転をすることで、被弾を最小限に抑えようとする。
一歩間違えれば、林の中に突っ込んで俺たちはジャンクヤード行きだ。
左右に大きく揺れる車内で、俺はうまく体を突っ込ませて、後ろの荷台に移動する。この輸送トラックが吹き抜けになっていてよかった。
「いいか!俺の合図で真っすぐに運転しろ!」
「はあ!?死にたいの!?」
「いいからそうしろ!」
「ったく!好きにしなさいよ!」
俺は立て膝をつき、M29を両手で構える。ぐわんぐわん揺れる車内と、飛び込んでくる銃弾。
最悪な乗り心地だが、敵の姿ははっきりと見える。
運転手と、アサルトライフルを持って身を乗り出しているガンナー。
システム制御された感覚が完全に、そいつらの姿を捉えた。
「今だ!真っ直ぐにしろ!」
「りょーかいっ!」
トラックの揺れがおさまり、こちらの姿と、敵の姿が完全に丸見えになる。
アサルトライフル持ちと視線が交錯する。トリガーにかけた指に力をこめる瞬間が重なる。
銃口が跳ね上がる。アサルトライフル持ちの頭が赤く弾け、体は林道に落下した。
敵の弾は、俺の太ももを掠めただけだった。続いて驚愕の表情を浮かべる運転手。
こちらのトラックに後ろから突っ込もうとする気なのか、焦った表情でスピードを上げるが、
俺はその顔に拳銃を向け、残りのマグナム弾をすべて撃ち込んだ。
1発目が防弾ガラスにヒビを入れ、2発目と3発目が防弾ガラスをぶち破り、4発目と5発目が運転手の頭を吹っ飛ばした。
新型の小型軍用車両は、林の中に突っ込んで大破炎上した。
「ふう…」
俺はほっと息をついて、助手席に戻る。
戦術人形が無線機を持ちながら運転している。
「今、本部と無線が繋がって、さっきからの状況を全部報告したところ」
「そうか…俺は変わらずか?」
「うん。404部隊の寮舎まで送り届けろって」
「分かった。少し寝ていいか?」
「もちろん。さっきの射撃、お見事だったよ」
「お前のドライビングのおかげだ」
それだけ言うと、座席に背中を預けてぐったりとする。
謎のジープ野郎どもの襲撃を、拳銃一つで切り抜ける。
転属初日にしては、あまりにもハードな業務だった。